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川べりの少女

山の中に入った。地面が少しぬかるんでいる。昨日少し強い雨が降っていたからだ。

山道を少し進んだ所に川の上流が見えてきた。

川の流れる音と小鳥の鳴き声の二重奏が来る人を楽しませる。


やっぱりここはいいよなぁ。


乙原澄おんはらきよしはゆっくりと自然の恵みを味わいながらゆっくりと歩を進めた。


あれっ、先客だ。

少女が川べりに座って川をずっと見つめている。

黒い長髪、柔らかそうで毛先がくるんとしたカール。

茶色のベストに白を基調とし、紫色の小さな花柄のロングスカートをはいている。白く透き通った肌を露出している。

そして川べりの近くにはベストと同じ色のヒール靴が置いてある。つまり裸足。


なんだ?この子?


澄は気になったので思い切って声をかけてみた。

「き、君、何をしてるの?」

少女は声のする方に振り向いた。

「えっ、ずっとこの川の水面を見ていたの」


めっちゃ、かわぇー!

ずっきゅーんときた!


「えっと、お名前は…?」

寿美菜穂ことぶきみなほ、高校一年よ。あなたは?」

「乙原澄です。同い年だね」

澄は美菜穂を凝視した。


超かわいい。その一言しかなかった。

僕はなんて幸せ者だ!

写真撮ってクラスの人に自慢したら、高確率でうらやましがられる。

しかしいきなり『写真を一緒に撮ってください』って言えるわけがない。

まずは仲良くならないと。


「どうしたの?」

「いや、何にもないよ」

それから二人は日が暮れるまで他愛無い話をした。趣味のこと、家族のことなど。

美菜穂は祖父母が住んでいる見野山町に三年前に引っ越してきた。

寿家は地元でも有名な代々続く旧家。後ろをたどれば江戸時代から栄え、明治時代には政府の中枢を担っていた。

美菜穂の家は七人家族。祖父母、両親、兄の蔵太くらたと姉のつかさそして運転手七人。

余談だが運転手たちは毎日交代である。非番の時は寿家から目と鼻の先にある家にいる。

一方澄は旧家の「き」もつかないごく普通の家である。両親は共働き。姉の結菜ゆうなと妹の小春こはるがいる。

結菜は高校卒業と同時に就職し、一年前に同級生と結婚して苗字が変わっている。現在は週に一回帰ってくるだけ。

小春は保育園の年長で来年は小学校に入学する。小春の送り迎えは澄の日課である。

夏休みの間二週間、祖父母の家に遊びに来ていた。

「あっ、もう暗くなったなぁ。そろそろ帰らないといけないなぁ」

澄は空を見た。

あたりはすっかり夕暮れ時で、茜色の夕日が雲と一体化してる。

「今日は一緒に話ができてうれしかったわ。また会えるといいよね」

二人は山の中からでて、それぞれの家路に向かった。




澄が祖父母の家に着いたのは六時半ごろだった。

中に入ると炊き立てのご飯の匂いがした。

急いで茶の間に入って自分の席に座った。

本日の乙原家の晩御飯は、白ごはん、味噌汁、あじの塩焼き、青菜のごまあえ。

「いただきます!」

澄は勢いよく白ごはんをかきこんだ。しかし他人を不快にさせない程度にとどめている。

「澄、落ち着いて食べなよ」

祖父の銀次郎が少し呆れ気味でつぶやいた。

「そうですよ。むせたらいけないからねぇ」

祖母のトキが顔を渋面にしている。

澄が食べている最中、銀次郎から晩御飯についての自慢をされた。

話によると、青菜は近所の人からおすそ分けでもらっただの、あじが安かっただの。




澄が布団に入ったのは日付が変わる一時間前だった。

――また会えるといいよね

美菜穂の言葉が頭から離れない!

とにかく寝れない!

羊を数えるにも、寝れたためしがない。

小説を読もうか。

澄は鞄から小説を取り出して、布団から起き上がる形で読み始めた。


本を読みだして十五分後。玄関の引き戸から音が聞こえてきた。

外に少し風が吹いていたので風の仕業だと思った。しかしそれほど風は強くない。

誰かが戸をたたいているのか。

澄は不審に思ったので、布団から出て玄関用の靴を履いて引き戸に向かった。

引き戸には澄より少し背の低い人が影で見えた。

澄は引き戸を開けた。すると見覚えのある人がいた。水玉模様のパジャマを着ている。

「た、たしか君は今日川べりであった……」

澄は目を丸くした。

本当に会えるとは思わなかった。

「ど、どうしたの?」

澄はたどたどしく美菜穂に問うた。



すると思ってもなかった言葉が美菜穂の口からでた。

「かくまってほしいの」

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