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RAGNARΦK  作者: 竜胆
第5話
14/20

陰森の奥にて

 リバーグレイスを出発してから数日、三人は、街道を北へ進んでいた。

 空は快晴、風は穏やか。

 街道脇には草原が広がり、遠くでは鳥の鳴き声が聞こえる。

 一見すれば、平和な旅路──だった。


 ──ガサッ!!


 不意に、草むらが揺れる。


「グルル⋯⋯!!」


 飛び出してきたのは、小柄な狼人種。

 灰色の体毛、尖った耳、粗末な短剣を握っている。

 魔獣──コボルト。

 しかも一体ではない。

 左右の草陰から、さらに三体。


「来るよっ!」


 シャルロットが即座にレイピアを抜く。

 同時に、アルベルトも棒を構えた。


 一方で──

 ユーリは、道端の岩に腰掛けた。


「今回は、二人だけでやれ」

 

 短い一言。

 つまり、ユーリは手を出さないということだ。


「うんっ!任せて!!」


 シャルロットの目が輝く。

 むしろ、やる気満々だった。

 今の自分が、どこまで通用するのか、試したい。


「右は俺がやる!」

「うん!」


 アルベルトと同時に駆け出す。


「ガウッ!!」


 一体のコボルトが飛びかかってきた。

 シャルロットは、静かに息を吐く。


(──遅い!)


 コボルトの動きが、はっきりと見える。

 剣に魔力を置く感覚も、大分慣れてきた。


 踏み込み、突きを放つ。


「はぁっ!!」


 ──ザンッ!!


 コボルトの身体が霧散した。


「よしっ!」


 そのまま身体を捻る。

 横から迫っていた二体目の短剣を回避。

 返す刃で首を裂く。


 ──ザシュッ!!


「おおっ!」


 アルベルトが感心したように声をあげた。


「動き、かなり良くなってるな!」

「えへへっ!」


 褒められ、思わず笑みがこぼれる。


 対して──


「ふっ!」


 アルベルトの棒が唸る。


 ──ゴシャッ!!


 コボルトの身体が吹き飛ぶ。

 さらにもう一体へ追撃。

 足払いをし、体勢を崩した瞬間、脳天へ叩き込む。


 ──ゴッ!!


 最後のコボルトも霧散した。


「よし、終わり!」


 二人は同時に武器を下ろす。


 戦闘時間は、一分にも満たない。

 危なげない勝利だった。

 岩に座っていたユーリが、静かに立ち上がる。


「悪くない」


 淡々とした評価だが、シャルロットの顔はぱっと明るくなった。


「ほんと!?」

「ああ」


 ユーリは小さく頷いた。


 アルベルトが、そんなシャルロットの様子を見て、笑みを浮かべる。


「シャルロットってさ」

「ん?」

「ユーリに褒められると、すごい嬉しそうな顔するよね」

「っ──!?」


 シャルロットの肩が、びくりと跳ねる。


「そ、そう!?」

「うん。今とか、めちゃくちゃ幸せそうだったよ?」

「そ、そんなこと⋯⋯」


 言いながら、頬がじわじわ熱くなる。

 視線が泳ぐ。

 アルベルトは楽しそうに笑った。


 否定したい。

 だが、実際、嬉しかったのは事実である。

 

 ユーリに認められる──

 それが、どうしようもなく嬉しい。


「そ、そうかな⋯⋯?」


 照れ隠しのように小さく呟く。

 

 その時──


「無駄話してる暇があるなら行くぞ」


 ユーリが背を向けたまま言った。


「あっ、待ってよユーリ!」

「ははっ!」


 シャルロットは慌てて追いかけ、アルベルトは楽しそうに笑いながらその後を追った。 

 

◆◆◆◆◆


 街道の先は、ラタトクス平原の外縁。

 ランパード領地を抜け、いよいよ王都へ続く幹線道路に入る。

 その玄関口となる街──シルヴァトーア。

 広大な森林に囲まれ、『森の都』と呼ばれている。


 街へ近づくにつれ、空気が変わっていく。

 木々の匂い、湿った土の香り、遠くから聞こえる水音。

 そして──見えてきた。

 

「わぁ⋯⋯!」

 

 シャルロットが、思わず声を漏らす。

 巨大な木々に囲まれるように築かれた街。

 石造りの建物には、蔦や花々が絡みつき、街道脇には緑が溢れている。

 森と共存するように作られた、美しい街並みだった。

 

「ここが、シルヴァトーア⋯⋯」

 

 アルベルトも感心したように辺りを見回す。

 

「さすが王都への玄関口だな。人も多い」

 

 街門を抜けると、活気が一気に押し寄せてきた。

 露店の呼び声、行き交う旅人、荷車の車輪の音──。

 王都へ向かう者達が集まる街だけあり、これまで訪れた街とは規模が違う。

 

 ひとまず三人は宿を探した。

 大通りから少し外れた場所にある、木造二階建ての宿。

 値段も手頃で、部屋も空いている。 

 宿を確保し、荷物を置くとすぐに、ユーリが動く。

 

「ユーリ?どこ行くの?」

「ギルドだ」


 シャルロットの問いに、ユーリは一言。 

 今回の旅路で倒した魔獣の魔石を換金しに行くようだ。


「私も行く!ついでに物資も買うでしょ?」


 シャルロットの申し出に、ユーリは小さく頷いた。

 

「じゃあ俺は、少し街を見てくるよ。何かこの街、面白そうだし」

 

 アルベルトが軽く手を振る。

 

「夕方には集合だ」

「ああ、分かった!」


 三人は、街へと繰り出した。


◆◆◆◆◆


「ねぇ、お兄さん一人?」

「え⋯⋯?」


 露店を回っていたアルベルトに、通りすがりの女性が不意に声をかけてきた。

 しかも、二人。

 

「旅人さんかしら?よかったらこの街、案内してあげよっか?」

「え?えっと⋯⋯」


 アルベルトは、内心少し困っていた。

 通りを歩いていただけなのに、こうして女性に絡まれることは珍しくない。

 整った顔立ちに、人当たりの良い笑顔。

 加えて、自然と滲む育ちの良さ。

 女性受けは、かなり良い。

 

「いや、大丈夫。気持ちだけ受け取っておくよ」


 柔らかく断る。

 だが──

 

「えー、つれなーい。ちょっとくらいいいじゃん」

「でも、そんなクールなところも逆にステキ!」

 

 女性達は引かない。

 ぐいぐい距離を詰められる。 

 気づけば左右から腕を組まれ、完全に身動きが取れない。


「あ、あははは⋯⋯」


 困ったように笑う。  

  

(た、助けてくれぇぇぇ⋯⋯)

 

 無理に振り払う訳にもいかず、かといって、このまま流されるのも違う気がする。

 どう断れば角が立たないのか、本気で悩み始めていた。

 

「お兄さん、名前は?」

「え? ああ、アルベルトだけど⋯⋯」

「アルベルトくんかぁ〜。やっぱり貴族っぽい名前!」

「雰囲気あるもんね〜」

 

 女性達は楽しそうに笑う。

 完全に会話の主導権を握られていた。

 

(うぅ⋯⋯悪い人達じゃないんだけどなぁ⋯⋯)

 

 だからこそ、強く出づらい。

 アルベルトは引きつった笑みを浮かべながら、助けを求めるように周囲へ視線を彷徨(さまよ)わせた。


◆◆◆◆◆


 ギルド支部へとやってきたユーリとシャルロット。

 昼間だというのに、内部は騒がしかった。

 喧騒の中を、構わずユーリは進んでいく。

 その後ろを、シャルロットはついて行った。

 

 換金窓口へと向かい、ユーリは受付の女性に魔石の入った革袋を差し出す。


「魔石の換金ですね──あら?」


 ユーリの顔を見るなり、不意に何かに気づいたような反応をする。

 

 「少々お待ちください」


 そう言って、何かを調べ始めた。

 ユーリとシャルロットは、顔を見合わせる。

 

 やがて、受付の女性は、改めてユーリに向き直すと、おずおずと尋ねる。


「失礼ですが⋯⋯ユーリ様、でしょうか?」


 突然名前を呼ばれ、ユーリは怪訝な顔をした。


「⋯⋯そうだが、何故知ってる?」


 ユーリの返答に、受付の女性は、ぱっと笑顔を向けた。


「やっぱり、そうでしたか!伝達情報と身なりが一緒だったので⋯⋯」

「伝達情報?」

「はい。ユーリ様が来られたら、伝言を必ず(・・)伝えるよう、承っております」


 ユーリの表情が次第に険しくなる。


「⋯⋯一応聞くが、誰からだ?」

「はい、グランドマスターからです」 


 シャルロットは少し驚いた。

 珍しく、ユーリが感情を露わにしている。

 ──非常に嫌そうな表情だが。


「グランドマスターって⋯⋯」

「全ギルドを統括する、最高責任者です」


 そんな大物が、ユーリと一体どんな繋がりがあるのだろうか?


「それで、グランドマスターの伝言ですが⋯⋯『王都で待ってる』だそうです」


 その伝言を聞くなりユーリは、入口へと歩き出した。


「シャル、代わりに換金しといてくれ」

「え?ちょ、ユーリ!?」


 シャルロットを置いて、ユーリはギルドを後にした。

 

 伝言を聞いたユーリは、明らかに疲れた顔をしていた。

 王都で待つというグランドマスター。

 ユーリが、あそこまで露骨に嫌がる相手とは、一体何者なのか。

シャルロットは、得体の知れない不安を覚えるのだった。

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