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RAGNARΦK  作者: 竜胆
第4話
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堅守の貴公子 Ⅲ

堅守の貴公子 Ⅲ

 アルベルトが、静かに息を吐いた。

 視線は、ヒュドラとサハギンの群れを行き来している。

 

「⋯⋯数が、多すぎるな⋯⋯」

 

 低く呟く声。

 それは、この状況に反して、異様に落ち着いていた。 

 シャルロットが焦った様子で、アルベルトの肩を掴む。

 

「何してるの!?早くサハギンを倒しに行かなきゃ!」


 しかし、アルベルトは小さく首を振った。

 

「いや、俺はヒュドラのもとへ向かう。ユーリとシャルロットは、サハギンの殲滅を頼む!」

 

「何言ってるのよ!死にたいの!?」

 

 シャルロットが叫ぶ。

 

「アルベルトじゃ神獣は倒せない!神獣はユーリに任せて、私たちで魔獣を──」

 

「違う!」

 

 即座に否定された。

 

「戦況を見てみろ!」

 

 アルベルトの声が、鋭くなる。


「優先すべきは──被害を減らすこと、だ!」

 

 はっきりと、言い切る。 


「サハギンは、逃げる人達の行く手を塞いでいる。対処しなければ、確実に被害が拡大する!」 

 

 視線を街へ向ける。

 逃げ惑う人々。

 迫るサハギン。

  

「俺とシャルロットで、あの数は捌ききれない!」


 悔しさを滲ませながらも、現実を口にする。

  

「でも──彼は違う!」


 ユーリへと視線を向ける。

 

「その速さなら、街中の魔獣を一気に減らせる」

 

 そして──ヒュドラへと視線を戻す。

 

「その間は、俺がヒュドラを引きつける!」 


 一歩、前へ。

 その覚悟に、迷いはなかった。


「俺は、この街を守りたい!」

 

 そして──深く、頭を下げる。


「だから頼む⋯⋯力を貸してくれ!!」

 

 シャルロットは、唇を噛んだ。 

 さっきまで、自分は──

 神獣を倒すことしか見ていなかった。 

 だが違う。

 

(守るべきは⋯⋯街と人)

  

「⋯⋯分かった」

 

 シャルロットが、強く頷く。

 

「魔獣は、私たちがやる」

 

 ユーリが、横目でシャルロットを見る。

 

「いいんだな?」

 

 確認するような問い。 

 シャルロットは、迷わず答えた。

 

「うん⋯⋯!」

「⋯⋯分かった」


 刹那──ユーリの姿が、消えた。 

 一瞬で、サハギンの群れの中へ。

 

「さすがだな⋯⋯!」

 

 アルベルトが思わず漏らす。 

 だがすぐに、ヒュドラへと向き直る。


「じゃあ⋯⋯俺も始めるとするか!」


 アルベルトは、一人で神獣へと踏み込んだ。 


◆◆◆◆◆

  

 水路沿いの通り。

 サハギンが、三体。

 いや──背後から、さらに二体。

 

「はぁっ!」

 

 シャルロットが踏み込む。

 レイピアを突き出す。

 

 だが──

 一瞬、遅い。 

 剣先に魔力が乗るより先に、サハギンが動く。

 

 ギィン!!

 

 剣先が鱗に当たり、弾かれる。

 

「っ⋯⋯!」

 

 体勢が、崩れる。 

 そこへ、横からもう一体。 

 振り下ろされる三叉矛。

 

「しまっ──」

 

 避けきれない── 

 

 ──ザンッ!!

 

 サハギンの身体が、斜めに裂けた。 

 血飛沫が、宙を舞う。 

 背後に立つのは──ユーリ。

 ユーリは無言のまま──消えた。

 次の瞬間には、もう別の個体を斬っている。 

 ──動きが、見えない。 

 サハギンが次々と倒れていく。

 

「⋯⋯っ」

 

 シャルロットは、歯を食いしばった。

 

(⋯⋯分かってる)

 

 原因は、明確だった。 

 魔力を『(まと)うまでの時間』。 

 そのわずかな遅れが、致命的な隙になる。 

 分かっているのに──出来ない。

 

 再び構える。 

 だが、その動きは、わずかに硬い。

  

 背後から気配。

 

「くっ⋯⋯」

 

 シャルロットが振り向く間もなく。

 

 ──ザンッ!!

 

 また一体、ユーリが斬り伏せる。

  

 

 サハギンの群れが、一旦引いた。

 

 水路の向こう。

 まだ無数に蠢いている音が聞こえるが、距離は取れた。

 

 束の間の小休憩をとる。 

 シャルロットは、膝に手をついた。

 

「はぁっ⋯⋯はぁ⋯⋯」

 

 呼吸が荒い。 

 だが、それ以上に。

 

(悔しいっ⋯⋯)

 

 視線を落とす。 

 自分の手に。

 握られたレイピアに。 

 さっき、何度も──間に合わなかった。 

 ユーリがいなければ、確実にやられていた。

 

「⋯⋯情けない」

 

 小さく、呟く。 

 その時──

 

「修行の進捗(しんちょく)は?」 

「⋯⋯え?」

  

 戦闘中でも変わらない、いつもの声音。 

 シャルロットは、息を整えながら答える。

 

「⋯⋯理屈は理解してるつもり」


 シャルロットは続ける。

 

「今までは、手に集めた魔力を剣に流していた。だけど⋯⋯それじゃあ、間に合わない。1秒以内だなんて、とても無理」

  

 視線を上げ、ユーリを真っ直ぐに見つめる。

 そして──一度きりの質問権を行使する。

 

「魔力を、そこにおく(・・・・・)方法を教えて」

 

 ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「魔力を、剣に置く方法を⋯⋯」

 

 ユーリが、静かに口を開く。

 

「初心に帰れ」

 

 ユーリの答えは、それだけだった。

 それ以上何も言わない。 

 すでに視線は、次のサハギンへ向いている。

 

「⋯⋯先に、行く」

 

 それだけ残して、再び戦場へ踏み込んだ。

 

 残されたシャルロットは、考える。

 

(⋯⋯初心に、帰れ?)

 

 その言葉が、頭の中で反響する。

 

(初心って⋯⋯魔力と魔術の⋯⋯基礎のこと?)

 

 騎士学校で学んだ事を思い出す。

 確か⋯⋯


 魔力は──精神力。

 魔術は──イメージ。

 どんなに強力な魔術でも、精神力──思い次第で強くも弱くもなる。

 どんなに高い魔力を持っていても、イメージが固まっていなければ、魔術は発動しない。

 行き詰まったときは、この基礎を思い出してみて下さい。


「イメージ⋯⋯」

  

 立ち止まるシャルロットのもとへ、サハギンが、迫る。

 シャルロットは、静かに目を閉じ、思考を巡らせる。


 (そうか⋯⋯イメージ⋯⋯!)


『流す』のではない。 

『そこにある』と決める。 

 剣に──最初から魔力があると。 

 そう、イメージする。


「ギィィッ!!」

  

 突き出される三叉矛。

 シャルロットが目を開く。

 矛先を紙一重でかわし、剣にイメージを乗せて、振るう──。

 

 ──ザンッ!!

 

 サハギンの身体が、真っ二つに裂けた。

 

 ──手応えが、違う。

 

「今の⋯⋯」

 

 剣に、最初から魔力が宿っている。

 

(できた⋯⋯できたっ!!)


 シャルロットの瞳が、わずかに潤む。

 だが、今は感傷に浸っている暇はない。

 シャルロットは、深く息を吐く。


 今の、魔力を置く感覚を忘れないように。

 そのイメージが、揺らがないように。 

 集中力を高め、神経を剣に注ぐ。


 正面に、サハギンが三匹。

 迎え撃つため、サハギンの群れへ──踏み込む。

 突き出す三叉矛が、シャルロットの胸元に、迫る。


 (──遅い)


 サハギンの突きが、まるでスローモーションの様に見える。

 難なくかわし、サハギンを斬り裂く。

 

 ──まずは、一匹。


 シャルロットは、その感覚に身を委ね、残りの二匹を討伐する。

 

「ギギィィィ!!」


 不意に、背後からもう一匹。

 気配に気づけず、集中力が途切れる。

 一瞬の反応が遅れる──


 ──ずるっ⋯⋯

 

 目の前で、サハギンの身体が崩れる。

 シャルロットは目を見開いた。

 霧散したサハギンの背後には、ユーリが立っていた。


「ユーリ⋯⋯」


 シャルロットは、小さく息を吐いた。

 ユーリはシャルロットの剣を一瞥(いちべつ)し、小さく笑った。

 

「⋯⋯及第点だな」

「だけど⋯⋯最後、油断した。ユーリ、ありがとう」


 ユーリは何も答えない。

 そして、神獣のいる方角へと視線を向けた。


 遠くから、ヒュドラの咆哮と、戦闘音が風に乗って飛んでくる。


「⋯⋯アルベルト、大丈夫かな?」

「そう思うなら、さっさとサハギンを全滅させるぞ」

「⋯⋯うん!」


 シャルロットは力強く頷く。

 街中に蔓延(はびこ)るサハギンを全て討伐するため、駆け出した。


◆◆◆◆◆


 一方その頃──

 

「ぐっ⋯⋯!」

 

 アルベルトは、ヒュドラと対峙していた。

 全長8m程はある、蛇の化け物。

 首が八つに分かれ、その頭それぞれが意思を持っているため、動きが不均一で非常に読みにくい。

 何より──

  

「ウォルス!」


 アルベルトが防御魔術を展開する。

 同時に、ヒュドラが吐き出した毒液を防ぐ。


 パキィーン!!


 簡単に防壁が砕け散った。

 

「くそっ⋯⋯!」

 

 アルベルトの防御結界が、一秒と持たない。

 とにかく、防壁を張った瞬間に回避を繰り返すしかない。


 その時、ヒュドラの頭の一つが、大きな口を開けた。

 また毒液か、と思いきや──牙を剥き出しにして突進してきた。


「うぉっ⋯⋯!?」


 アルベルトは間一髪、飛び超えて回避する。

 そして、空中で体勢を整えつつ反撃を試みる。

 手に持つ棒を振り上げると──渾身の力を乗せ、一気にヒュドラの頭へと叩きつけた。


「はぁーっ!!!」


 ランパード流棒術──鹿威(ししおど)し。

 由緒あるランパード伯爵家に代々伝わる、鳥獣狩りに特化した動きで敵を制する、武術である。


 しかし──

 神獣であるヒュドラには、通用しない。


「くぅ⋯⋯かったいなぁ~⋯⋯」

 

「キェエェエェー!!!」


 反撃されたのが癪に障ったのか、ヒュドラが甲高い咆哮をあげた。

 八つの頭が、同時に口を開ける。

 その意図を理解したアルベルトの額から、一雫の汗が垂れた。


 (こいつはヤバいな⋯⋯万事休すか⋯⋯?)


 ──ふと、ヒュドラの動きが止まる。

 開けた口を閉じ、ゆっくりと首を巡らせる。

 何かを警戒しているようだ。


 コツ、コツ──


 路地から聞こえてくる足音。

 ヒュドラの十六の瞳が、一斉に細められた。 

 アルベルトも思わず視線を向ける。


 そこに現れたのは──待ち望んでいた、黒衣の救世主だった。

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