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RAGNARΦK  作者: 竜胆
第4話
10/13

堅守の貴公子

堅守の貴公子

 グラン村を出発してから、二日が経った。

 ラタトスク平原は相変わらず広大で、いまだに遠方に街の片鱗すら見えない。

 木々がまばらに生えた街道から見る風景は、変わり映えがなく、通る者にまるで同じ場所を延々と歩き続けているような、そんな錯覚を与える。

 ──一般的には。

 

 この街道を黙々と進む二つの影。

 シャルロットは、そんな周りの景色に目もくれず、手元に意識を集中していた。

 

 シャルロットが一つ目の修行を達成した翌日、ユーリは出発前に二つ目の修行を課した。


 ユーリの課題は、またしても一言。


「この魔具を壊せ」


 ユーリから渡された魔具は、腕輪。

 銀色の輪には、複雑な紋様──術式が刻まれている。 


 基礎防御魔術──『ウォルス』。

 魔力を感知した瞬間、自動的にこの防御魔術を展開する術式である。

 発動までに要する時間は、わずか一秒。

 いや──

 一秒も、ない。

 術式の精度が高ければ高いほど、反応は早くなる。

 この魔具は、その中でも上位に位置する代物だ。

 

 つまり──

 攻撃を仕掛けた瞬間には、もう防がれている。

 魔力を纏い、それを維持する。

 そして、武器へと流し、魔具を破壊する。

 その一連の動作を──

 一瞬で、完了させなければならない。

 

 前回同様、ユーリからの説明は無く、まずは実践してみたことで、シャルロット自らが導いた結論であった。


 この修行の目的と理屈は、理解できる。

 武器に魔力を纏わせる速度を上げること。

 理想は、剣を握った瞬間に剣先まで魔力が到達していること、だ。

 敵と遭遇した時、相手は武器に魔力を纏い終えるのを待ってなどくれない。

 その『空白の時間』が死に直結する。


 シャルロットは、村を出発してから現在に至るまで、この修行に神経を注いでいた。

 

 

 ──ドォン!!

 遠くから聞こえてきた轟音に、シャルロットは我に返り、辺りを見回した。


「な⋯⋯何!?」

「神獣だ」


 言葉と同時に、ユーリが歩みを早める。 

 一切の迷いがない。

 シャルロットも、その背を追った。



 ラタトスク平原を北東に進むと、雑木林が広がる地帯へと辿り着く。

 その奥で、木のへし折れる音が響き渡る。

 神獣は、あの雑木林の向こうにいるようだ。

 しかし、流石と言うべきか。

 これほど離れていても、ユーリは迷うことなくこの場所を探し当てた。

 ──自分もいつか、その領域に辿り着けるだろうか。


 シャルロットは、ぱんっ、と両頬を叩いた。

 弱気になっている暇はない──!

 ユーリを信じて、出来ることから始めるんだ!


 そう自分の心に喝を入れ、前方を行くユーリのを追いかけた。


 雑木林を抜けると、湿地帯が広がっていた。

 その奥には、木々に囲まれるように、透き通った湧水池がある。

 そこでは──

 

「はあっ!!」

 

 一人の青年が、5mは超える巨大なザリガニと対峙していた。

 あれは、神獣──ハビオル。

 巨大なハサミを持ち、その威力は周囲の木々を見れば、一目瞭然だ。

 

 青年が手にしているのは、長い棒。

 構えは洗練されており、動きも悪くない。

 だが──


 カァン!!


「くそっ⋯⋯!」

 

 突き、薙ぎ、叩き込み。

 どれも、神獣の身体には通用していない。

 そして──

 巨大なハサミが、青年に迫る。

 

「っ⋯⋯!」

 

 青年が咄嗟に手をかざす。

 

「ウォルス!!」

 

 ──展開される魔力障壁。

 防御魔術である。

 巨大なハサミが障壁に当たり、一瞬止まる。

 だが、その圧倒的な力に押され、表面に亀裂が走る。

 そして──


 パキィィーン!!

 

  魔力障壁が砕ける。

 青年は、ハサミを止めた一瞬の隙に回避していた。

 その動きには、迷いがない。

 何度も同じ状況を切り抜けてきた者の動きだった。 

 

 シャルロットは目を見張った。

 彼は──魔具を使用していなかった。

 あれは、彼自身が作り出した魔力障壁だ。

 しかも、発動までが速い。

 攻撃は、確かに通らない。

 しかし、一瞬とはいえ、あの神獣の一撃を防いだ。

 こと防衛戦におけるスペシャリストと言える。

 

 とはいえ、戦況は思わしくない。

 神獣が咆哮をあげ、再び巨大なハサミを突き出した。


「くっ⋯⋯ウォルス!」


 魔力障壁を展開。

 先程よりも強力なハサミ攻撃が、障壁を突き破る。

 今度は回避が間に合わない──。


「しまっ──」

 

 その時。

 ──風が、止んだ。

 音が、消える。

 

「あっ⋯⋯」

 

 シャルロットが、気づく。

 ユーリの姿は、ハビオルの背後。

 ──一閃。

 それだけだった。

 両のハサミが、ずるり、と地面に落ちる。

 そして──

 音もなく、その巨躯が真っ二つに崩れた。

 遅れて、霧散する。


「⋯⋯⋯え?」

 

 青年が、呆然と立ち尽くす。

 神獣が霧散したことで視界が開ける。

 そこに立っていたのは、黒衣の剣士。

 何も分からなかったが、神獣を斬った、ということは理解出来た。

 

 シャルロットが、ユーリの元へ駆け寄る。

 

(⋯⋯やっぱり、すごい)

 

 やはり、全てが別格である。

 

「ふぅ~⋯⋯危なかったぁ⋯⋯!」

 

 青年は、不意に気の抜けた声をあげ、へたりとその場に座り込んだ。

 そして、ユーリへと声を掛ける。

 

「助かったよ、ありがとう!」

 

 人懐っこい笑顔。

 明るい声。

 さっきまで命のやり取りをしていたとは思えない。

 シャルロットは、少し驚く。

 

「そうだ、まだ名乗っていなかったね」


 青年は、すっと立ち上がり、自己紹介を始めた。


「俺は、アルベルト・フォン=ランパード!よろしく」

 

 胸に手を当て、堂々とした態度である。


「⋯⋯ランパード?」


 聞き覚えのある名だ、とシャルロットは首を傾げる。

 そして、思い出す。


「ここって、たしか⋯⋯ランパード領、だったよね?」

「そうだね」

「⋯⋯ということは⋯⋯ま、まさか⋯⋯」

「ああ。この領地を治めるランパード伯爵の息子だよ」

「えぇっ!?」

 

 思わず声が漏れる。


 (き、貴族ってこと!?)


 シャルロットは驚きを隠せない。

 アルベルトが貴族ということもそうだが。

 そもそもなせ、領主の息子がこんな所で神獣と戦っていたのだろうか。

 だが当の本人は、そんなことお構いなしに続ける。

 

「いやぁ、神獣があれほど硬かっただなんて、知らなかったよ」

「ポ、ポジティブだね⋯⋯」

  

 爽やかに笑う。

 その様子に、シャルロットは思わず苦笑する。

 

 不意に、アルベルトの視線が、ユーリへ向く。

 そして──目が、輝いた。

 

「君は、すごいな!」

 

 心の底からの感嘆だった。

 

「その剣で斬ったんだろう?太刀筋が全然見えなかった!」

 

 ぐいっと、距離を詰め、まっすぐな瞳をユーリへと向ける。

 そして──

  

「君、俺のパーティーに入ってくれないか!?」

「⋯⋯はい?」


 思考が追いつかない。 

 シャルロットの間の抜けた声が漏れる。

 唐突すぎる。

 だが──

 アルベルトは本気だった。

 

「俺は勇者を目指してる!神獣の襲撃に苦しむ人々を救いたいんだ!」

 

 力強く言い切る。

 

「だけど、一人では限界がある。だから⋯⋯志を共にする仲間を探して旅に出たんだ!」

 

 指をびしっとユーリに向ける。

 そして──

  

「君の強さ、気に入った!俺と一緒に来てくれ!!」

 

 真っ直ぐすぎる勧誘。

 嘘も打算もない。

 ただ、純粋な『願い』。

 沈黙──。

 風が吹き抜ける。

 

 ユーリは、少しだけアルベルトを見て──

 そして、興味を失ったように視線を外した。

 

「断る」


 間を置くことすらなかった。

 

「な⋯⋯何だってぇぇぇ!!?」


 断られると微塵にも思っていなかったのだろうか。

 アルベルトは、大袈裟すぎるくらいの驚きの表情を向けた。


「⋯⋯行くぞ、シャル」

「う、うん⋯⋯」

 

 構わずその場から立ち去ろうとするユーリの背に、慌てた声が飛ぶ。

 

「ま、待ってくれ!」

 

 アルベルトが駆け寄る。

 

「仲間の話は⋯⋯まぁその、今は置いておこう!でも、せめて礼はさせてくれ!」

 

 真っ直ぐな瞳。

 その熱量に、シャルロットは思わず足を止めた。

 

「ここから近い街まで案内するよ。道も分かりにくいし、何よりその街は馴染みの場所だから土地勘はあるんだ。宿の場所とか、美味しいレストランとか紹介するよ」


 割と⋯⋯いや、かなり魅力的な提案だ。 

 ちらりとユーリを見る。

 その視線に気づいているのか、ユーリは一瞬だけ考える素振りを見せて──

 

「⋯⋯分かった」


 小さく頷く。

 

「やった!」

 

 ぱっと顔を明るくするアルベルト。


「そういえば、二人の名前をまだ聞いてなかったね」


 促され、まずはシャルロットから自己紹介する。

 

「私は、シャルロット・L=アストライア。よろしくね」

「⋯⋯ユーリだ」


 素っ気ない挨拶。

 しかし、アルベルトは気にする様子もなく、笑顔で頷いた。

 

「よろしく。ユーリ、シャルロット!」


 その明るさが、不思議と場を和ませる。

 ──どこまでも前向きで、真っ直ぐ。

 それが、シャルロットがアルベルトに抱いた第一印象だった。

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