第二十四話 お大尽様セット
「それでは、失礼いたします」
そう言って、アリスは俺とレイに頭を下げた。
「ああ、また後でな」
「バイバイ、ママ」
二人で手を振っていると、彼女は頭をあげて一人で歩き始めた。
現在地は西方王国の高級宿の前。
チェックインした俺達は何をしようか相談していたのだが、アリスがここの近くの孤児院に一人で行きたいといっていたので、別行動をとることになった。よくよく考えてみれば、アリスが俺の命令以外で単独行動をとるのは初めてだな。これは信仰という名の上下関係が若干でもマシになったということなのだろうか。
なら良いなぁ。
そして、父娘二人組は適当に散策をスタートだ。
冒険者ギルドに行こうかとも思ったんだけど、三人そろってない状態だとちょっとな。やはり行くんだったら神々之裁判としてだろう。
昼食も各自で摂ることになったから、最初は飲食店に行こうかな? もうすぐ正午だし、レイも喜ぶと思う。
「じゃあまずはどこかに食べに行こうか」
「ほんとうっ!? ありがとパパ!」
声を弾ませて、俺の手を強くぎゅっと握りなおしてくれた。うちの娘が天使過ぎて浄化されそう。
「食べたいものの希望はあるか?」
あまり具体的な答えが返ってくることは期待しないで聞いてみる。今までも肉としか返ってきたことなかったもんなぁ。やはり元がドラゴンだから肉食なのだろうか。
「んー、うーん」
おっと、珍しく悩んでいる様子だ。そんな横顔も可愛らしいけど、どうしたんだろう。いつもだったら即答なんだけど。
何か心変わりでもあったのかな。それとも、新しい場所に来たから?
「えっと、ステーキとカレーとハンバーグとオムライスとおすしとスパゲッティとローストビーフとすきやきとピザとチーズケーキとぎょうざとラーメンとなまハムメロンとグラタンとアイスクリームたべたいっ!」
「お、おう……」
カオス。いや、超カオス。っつか、多!
「それ全部食べるのか?」
「うん、だめ?」
上目遣いで見上げてくるんですけど、全部っすか!? お腹の中にそんな入んの!?
《入りますね》
入るんだ。
ま、まあ、それなら別に俺に文句はないけど。食費とか余裕だし。
アリスに給料として結構な金をあげたけど、それでも使い切れないほど持っている。
でも、そんな色んなものを出してる店ってあるのか? まあ、日本のファミレスだと割とありそうだけど、それでも寿司と生ハムメロンがあるところはあんまり見たことない。
ってか、生ハムメロンて。なんでそれチョイスしたし。
《一応ありますよ、全部揃っている食事処が》
え、何それ強い。
「じゃあ、全部食べに行くか」
「パパだいすき!」
レイって好意をストレートに伝えてくるよな。そこが一番の魅力だと個人的に思う。異論は認める。レイって構成する要素全てが可愛いし。
そんな愛娘の願いを叶えるために、スティのナビに従ってそれらしきレストランへと向かった。
そして着いたんだけど。
「ザイセリヤ、ねぇ」
赤地に緑色の文字でそう書かれている看板。……これ、某イタリアンファミリーレストランチェーンのパクリ?
いや、異世界なんだし流石にそれはないか。偶然似てしまっただけだろう。偶然……。
「おっにく〜、おっにく〜!」
レイは自作の肉ソングを歌いながら、上機嫌で店内に入っていく。繋いでいる手を引っ張られ、俺も入店した。
「いらっしゃいませ、2名様でしょうか?」
ゼロ円スマイル全開の店員に迎えられたんだけど、ここ日本だっけ?
店員に誘導され、テーブルの席に着いた。周りを見れば、よくわかんない名画っぽいのが飾られている。
テーブルにはメニューらしき冊子があり、コール用のボタンまである。メニューには摂取カロリー量まで載っていた。
ん? でも、どこを探しても寿司と生ハムメロンはねえぞ?
まあ、流石に全部は無理だったか。
《いえ、しっかりとよく見てください》
えっ?
「レイは『お大尽様セット』にする〜っ!」
「お大尽様セット?」
何そのお子様セットみたいなの。地味に嫌な予感がするんだけど。
◇◇◇◇
お大尽様セット
セット内容:ステーキ、カレー、ハンバーグ、オムライス、寿司、スパゲッティ、ローストビーフ、すき焼き、ピザ、チーズケーキ、餃子、ラーメン、生ハムメロン、グラタン、アイスクリーム
摂取カロリー:???
代金:99999ルル
◇◇◇◇
何この頭の悪い詰め合わせ。よく見たら素材は高級なもの使ってるらしくて高いし、摂取カロリーが不穏すぎるし。
『???』って何!? 計測不能なの!?
っていうか、絶対にこのメニューの存在わかってて食べたい物希望したよな。
まあ、高級って言っても俺視点だと安いけど。
俺は適当にミックスグリルでいいか。悩むこともないだろう。
……いや、待て。もうちょっとよく考えろ俺。お大尽様セットって、ネーミングが怪しすぎる。
この店、作ったの日本人じゃないだろうな?
まあ、だからなんだって話だけど。
「それじゃ注文するか」
◆◆◆◆
「おいしかったね!」
「ああ、そうだな」
満足げにお腹をさするレイを微笑ましく見ながら同意する。
結局あの後、嫌がらせのようにたくさん出てきた料理をレイは綺麗に食べつくしてしまった。いや、本当にとんでもなかった。フードファイターになれるんじゃないだろうか。
っていうか、今までは遠慮してたのかな。食べる量は普通だったし。これからはもっとたくさんあげようか。
「99999ルルのお支払いです」
「大銀貨一枚だな」
銭貨を一枚もらって、会計は終了した。
ドアに近づくと、外側から開けられて新しい客が入ってきた。
銀髪に赤と黒のオッドアイという超厨二なイケメンと、ハーレムっぽい美少女たちである。爆発しろ。
この世界では一応一夫多妻が認められてるからなぁ。爆発しろ。
半ば本気で呪いでもかけてやろうかと考えながら、店から出ていくのであった。
…………。
……ん?
イケメンとハーレムのうち数人になんとなく見覚えがあった気がする。何だろう。
まあ、どうでもいいか。どっかですれ違ったとかだろう。
「さて、この後どうするかだな。やりたいこととか行ってみたいところはあるか?」
午後丸々暇だし、家族サービスは大事だろう。……これ、家族サービスに入るのかな?
俺の問いを聞いてから、しばらく周囲をうろうろと見回していたレイは、やがて一点を見つめて指差した。
「あそこいきたいっ!」
その愛らしい人差し指の先にあるのは、サーカスの劇場であった。
興味本位で行ってみると、ちょうど上演が始まるところ。ギリギリ間に合った。
最初の演目はピエロによる曲芸。
挨拶をしてから、最初は普通にジャグリングをし、次に大きな玉に乗りながらジャグリング、更には空中に浮かびながらジャグリング、挙げ句の果てには観客席などのあらゆる場所に転移しながらジャグリング。
なにこれレベル半端ねえ。空間移動系使えんの!? 普通に冒険者としてもやっていけそうなんですけど!
その後の動物を使った演目などもなぜかドラゴンが出てきたりして凄かった。全体的にここのサーカスはいろんな意味でレベルが高すぎるんだけど。
終わった後も、その妙技に感心して拍手がずっと鳴り響いていた。
「すごかったな」
「うん、おもしろかった!」
「それは良かった」
楽しんでくれたようで何より。
っていうか、地味に気になったんだけど、あの人達のステータスってどうなってんの? 相当高そうだけど。
《でしたら、ピエロのステータスを表示しますね》
◇◇◇◇
エルコレ 人族 23歳
状態:狂化
称号:欲望無き殺戮人形
レベル:564/∞
HP:72537/72537
MP:65910/89332
能力値
攻撃力:将級
防御力:上級
敏捷力:王級
魔法力:将級
抵抗力:上級
魔法適性
火:王級
水:0
土:0
雷:0
風:上級
光:下級
闇:王級
無:将級
スキル
王級
【空間転移】
将級
【剣器将】【縮地】
上級
【曲芸:上】【社交辞令】【HP自動回復:上】【即死付与】
クレスト
【暴虐の加護】
◇◇◇◇
…………。
俺は何も見なかった。いいね?




