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第二十五話 単独行動

「それでは、失礼いたします」


「またね〜」


 アリスが一礼し、レイが手を振る。どこかで見たようなデジャヴを感じさせる光景、というか昨日とほぼ同じなんだけど、一つだけ違うところがある。


 今日はレイはアリスと一緒に行動するのだ。


 俺が単独行動をしたいって言ったのもあるし、アリスがレイを孤児院に連れていきたいと言っていたのもある。


 孤児院にはレイと同年代の子供もいるだろうし、きっと友達を作ってあげるために行くのだろう。昨日のはその下見だったのかもな。


「じゃあ、また夜にな」


 俺も笑顔で手を振り、後ろを向いて歩き出した。


 さてと、一応まだ時間に余裕はあるんだけど、緊急事態に備えて早めに行っておくか。


 俺が単独行動をしている理由。それはもちろん昨日のサーカス団を潰すためだ。


 あの後調べてみたら、案の定ピエロ以外のやつも真っ黒であった。


 どうやら各地の劇場を回りながら、その土地で人を殺しているらしい。


 一気に大量殺人はせずに、少しずつ慎重にやっているようで、証拠も残さない。


 目的は人を殺してレベルを上げること、らしい。確かにモンスターを倒すよりも五大種族の方が経験値効率がいいということは実証されているんだけど、正直狂ってるとしか思えないな。そもそもそんなレベルあげてどうするんだって話だ。


 とりあえず、サーカスの観客席に入ってから、なんとかして誘導してサーカス団に暴動を起こさせた後で俺が成敗するっていう作戦。


 民衆の前であいつらが犯罪者だってことを見せつけた上でやらないと、俺の方が犯罪者になっちゃうからな。


 え? 夜のうちに闇に紛れて証拠も残さず目撃者もなしで倒せばよかったんじゃないかって?


 いやいや、残念ながらその選択肢はない。


 何故なら、昨日の夜はレイと一緒に寝る日だったから!


 1日ずつ、俺とレイが同じベッドで寝る日、アリスとレイが同じベッドで寝る日を設定したんだ。


 娘と一晩中一緒に居られるという至福のひと時を、連続殺人集団風情のために犠牲にするなど以ての外だ。


 というわけで今日の決行となった。


 二人と一緒にやったり、あの愚姉を巻き込んでも良かったんだけど、別に俺一人でどうとでもなる程度の相手だ。さらっと片付けて終わりで良いだろう。


 とりあえず昨日と同じように観客席に入る。


 んー、まだ開演まで時間があるし、そもそぉ相手全員が揃っているタイミングがベストなんだよなぁ。


 このスキマ時間に詳細な策を考えておくか。


 まず、どうやって暴動を起こさせるかだな。


 今までのやり口からして、公演中に誰かを襲うなんて馬鹿なことはしないだろうし。動物を使う演目の時に猛獣を暴れさせるっていう手もあるけど、責任は問われこそすれ犯罪者にはならないだろうな。


 あれか。いっそ【傀儡神】で操っちゃうか。


《発想が完全に悪人のそれなんですが》


 えー、でもこれ以外に方法あるか?


《大丈夫ですよ。勝手に自爆してくれるので》


 自爆……? どういうことだよ。


《じっとしていればわかります》


 そうなの? お前の言葉って信用できないんだけど。


 まあいいか。スティがなんかミスったとしても大した問題じゃないし。最悪は闇討ちも視野に入れよう。


 よくわかんない自爆とやらを信じて、適当にサーカスを見る。


 どうやら昨日とは演目が微妙に違うらしい。毎日変更しているのだろうか。だとすれば、すごい執念だな。そこまでサーカスにガチなら殺人なんてする必要ないんじゃ。


 っていうか、スティ。何でこいつらはそんなにレベル上げたいの?


《それも見ていればわかると思いますよ。そもそも私がこの日に実行を提案したのにも理由がありますし》


 提案? されたっけ?


《おっと、語弊がありましたね。正確にはフェイト様がそうするように誘導した、です》


 いや、誘導とかせずに普通に提案しろよ。多分それで普通に受け入れたよ。


《手間が面倒でしたので》


 ああ、そう……。


 で、特に何事もなく、もうすぐ演目が全部終わるみたいだけど、結局お前が言ってた自爆ってなんだったんだよ。


《それはもう少しすればわかります……と言いたいところですが、どうせ大したものでもありませんので教えて差し上げましょう》


 お、おう。微妙に上から目線なのが気になるんだけど、まあ聞こうじゃないか。


《では、まずはあちらをご覧ください》


 あちらってどちらだよ。


《私の手が指している方向ですよ》


 お前に手は無えだろうが。ふざけてないでさっさと説明!


《……それでは、貴賓席にいる肥満気味の貴族をご覧ください》


 了解。んーと、あれか。


 あの腐った豚みたいな外見、どっかで見たことあるぞ。ということは、どっかの上位貴族か?


《はい。西方王国の辺境伯、クラウゼ・ニークです》


 ああ、そういやそんな名前だったな。名が体を表しすぎている。


 で、その豚がサーカス団の自爆とやらと何の関係があるんだ?


《簡単なことですよ。サーカス団の最終目標がクラウゼを殺すこと、そして彼らは今日の演目が全て終わった後にそれを実行に移すつもりなのです》


 ああ、なるほどな。今まで隠れてやってきたけど、今回は観衆の目の前で殺人を決行するから、即座に罪がバレるということか。


 そしてその場にウィアートル俺がいる。確かにそれは、紛うことなき自爆だ。


 んじゃあ、もう少し待てばいいんだな?


《えぇ、そうですが……》


 どうした。微妙に煮え切らない感じだな。懸念材料でもあるのか? 俺の力を考えると、よほどヤバイ奴でもなきゃ脅威にはなり得ないけど。


《いえ、そういうわけではないのですが。何故サーカス団がクラウゼを狙っているのかを聞かれなかったことを意外に思いまして》


 何、聞いて欲しかったの?


《そんなことはありませんが》


 …………。


 お前が自分に判断で俺に言わなかったんだろ? だったらそれは俺が聞かないほうがいい事ということだ。


 俺が知らなきゃヤバイ事なら普通に言ってるだろうしな。


 それに、そもそも人を殺してレベルアップしてまで絶対に殺したいって、並大抵の過去じゃあねえよな。すごい重いんだろうし、むしろ知りたくもねえ。


《嫌なことからは逃げたいということですか。フェイト様らしいですね》


 ねぇ、今俺そこそこいい感じのこと言わなかった? お前のことは信頼してるよ的なこと言ったよね!?


 対応に悪意あるんですけど! 確かにそんなこと言ったけどさ、それじゃねえから、俺が聞かなかった理由で一番大きいのは!


《すみません、初耳です》


 あぁぁぁぁぁぁぁ、ぶん殴るぞって言いたいけど、言ったら確実に何か言い返されるからやめとくしかないか……。


 っていうか、そんなことはどうでもいいんだよ。


 そのクラウゼとやらはサーカス団に何やら憎まれるようなことしたんだろ? 多分法に触れてる感じで。


 だとしたら、サーカス団は俺が捕まえたとして、クラウゼの罪はどうなるんだ? ちゃんと策はあるのか?


《そちらに関しては問題ありませんよ。既に王国側も気がついていて、泳がされている状態ですから。こちらが何もしなくとも、勝手に捕まってくれます》


 あぁ、そうなんだ。


 って、アレ? それだったら、別に俺が何かしなくてもサーカス団も捕まえられるんじゃねえの?


《それはそうですけど、フェイト様がやる気満々だったので》


 お、おう……。


 そうか。俺要らなかったか。


 まあ、どうせ来ちゃったし、別にやったって構わないだろう。誰かが損をするわけでもないしな。


 っと、そんなことを考えている間に、全ての演目が終わったようだ。今まで出てきた全ての団員が出てきて、一斉にお辞儀をしている。


 客席から沢山の拍手が送られている中で、団長が一歩進み出て口を開いた。


「本日は誠にありがとうございました。実は、皆様に重要なお知らせがございます」


 その言葉に拍手は全て止み、観客全員が団長の次の言葉を待っているようだ。


 そろそろクラウゼ殺しに動くんだろうし、準備しておくか。


 とりあえず【結界神】で客席全体を完全防御しておこう。これでサーカス団からの直接攻撃は不可能になった。


 とはいえ、観客に紛れ込んでたりしてたら無意味だけどな。念のためクラウゼの周囲にはもう数枚結界を張っておくか。


 着々と対策を進めていると、団長が次の言葉を告げた。


「本日をもちまして、我々ベリルサーカス団は解散となります!」


 団長の宣言でざわつく観衆。


 まあ、上位貴族殺しなんてしたら、そんなこと続けられるわけないしな。楽しみにしていた人も多いんだろうけど、結局犯罪者なのだ。


「これより行うのは我々の最終演目にして到達地。どうか、我々の最後の集大成をお見届けください!」


 騒いでいた観客達が、集大成という言葉に惹かれたのか歓声をあげ始める。


 ……これから起きるのはそんな愉快なことじゃねえぞ。何よりも最低で最悪なものだ。まあ、俺がいる限りそんなことさせねえけどな。


 さあ、ベリルサーカス団。来るなら来い。お前らの企み、潰してやるよ!

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