第二十三話 予期せぬ再会
旅路についた俺たちは、手を繋ぎながら歩いていた。
目的地まで【空間神】でひとっ飛びでも悪くはないんだけど、やっぱり旅っていうのは自分の足で歩いてこそだと思う。
次々と変わっていく風景を見るのも結構楽しいしな。
「貴方様、一つよろしいですか?」
「何だ?」
レイを挟んで左側にいるアリスに問いかけられた。
「次の目的地は王都とのことですが、何かそこを選んだ理由があるのですか? いえ、もちろん私如きに言う必要がないことであれば、教えていただかなくても結構なのですが」
「いや、特にこれといった理由はねえよ。単純に近い場所の中から適当に選んだだけだし」
なるほど、と頷くアリス。
まあ、レイにもっと美味しいもの食べさせるって言っちゃったし、料理が上手いのはやはり都だろう。
今回の移動時間は大体二週間くらいの予定だ。
割と杜撰な計画だけども、食べ物は【空間収納】にたくさん積み込んだし、最悪は【創造神】を使って作ることもできる。なんなら仮設の家も出せるぞ。
だから、たとえ道に迷おうが大丈夫なのである。まあ、スティがいるから迷うことなんてありえないんだけどな。
◆◆◆◆
というわけで、特にこれといった事件もなく普通にたどり着くことができた。
現在は王都の中。入り口付近である。
そこからでも分かるこの地の賑わい。エバドンもそこそこだったが、ここは桁が違う。
近代的な文明を感じさせる建物に、嫌がらせかとすら思えるほどの数の人々。行く手を遮られてるどころの話じゃない。
まあ、現代日本ほどじゃないけどな。流石に天才フレデリックの故郷といえど、変態ジャパンを超えるにはまだ時間が足りないようだ。
「私の故郷と雰囲気が似ている気がします」
「ああ、そういえば魔大陸の西の国出身だったか。確かに似てるかもな」
ここ神大陸と魔大陸はかなり近くにあり、気候状況も酷似している。その上、王女ということは王都出身なのだろうから、その感想もかなり正しいのである。
「それじゃあ、昼までには時間があることだし、この後どうし——」
「あれ、フェイトじゃない。こんなところで何してるのよ」
二人に聞こうとすると、後方からよく知った声に話しかけられた。
ギギギと擬音がなりそうなくらいぎこちなく振り向いてみると、そこにいたのは案の定、今会いたくない人選手権ダントツナンバーワンをほしいままにする彼女であった。
「何でいるんだよ、姉さん……」
暴力魔こと、ユーフェミア・ウィアートル。我が姉である。
「アタシがまず先に聞いたでしょ。アンタが答えなさいよ」
「いや、普通に旅の途中に決まってんだろ」
流石にいくら脳筋といえど、弟が家からいなくなった理由くらいは覚えてろよ。
「貴方様、この方は一体……?」
急な展開に戸惑うアリスが聞いてきた。
「あー、なんというか、不本意ながら俺の姉らしき何かだ。グルタス以上の馬鹿だからまともに相手しなくていいぞ」
「パパのおねえちゃんなの?」
こてんっと可愛らしく首をかしげるレイだが、その発言はマズイ。ほら、だって、見ろ。あの姉さんの悪魔みたいな顔!
「フェイト〜、この娘たちは?」
「うっ……」
やっぱ聞いてきやがった。どうする、どう答える?
「初めまして、ユーフェミア様。我が主の眷属、アリス・エピロードと申します」
焦っている間にアリスが自己紹介をしてしまった。ってか、何で姉さんの名前知って……ああ、【森羅万象】か。
「眷属? 奴隷のことかしら。ということは、そっちの小さい子も奴隷ね。フェイト、こんな子を奴隷にしてパパって呼ばせるとか、アンタ何考えてんの?」
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! やっぱこの流れになった。
「違えよ。アリス……空色の髪の子は元は奴隷だけどもう解放したし、レイ……虹色の子はそもそも奴隷じゃねえ!」
「奴隷じゃないなら何よ。幼女誘拐してパパって呼ばせてるわけ? 通報するわよ」
「誘拐でもねえ! レイは、その、なんていうか、血が繋がってる養子みたいな……?」
自分でも何言ってんのかよくわかんなくなってきた。
「意味わからないんだけど。近寄らないでよ、犯罪者。あー、お母様悲しむわねー。息子がこうなってるなんて」
くっそ、あんまり間違ってないから否定しきれねえ。だからこいつとは会いたくなかったんだよ。
冷静に考えて、旅に出た弟が一ヶ月後には幼女にパパって呼ばれてるって完全に異常だもんな! 俺だって同じ状況だったら、そんな反応をするだろうし。
ここは一旦、話を逸らすとするか。
「大体姉さんこそ何でこんなところに一人でいるんだよ。護衛はどうした」
「花婿探しよ。男探すのに護衛なんていても邪魔なだけでしょ」
「は?……ごめん、よく聞き取れなかった。もう一回言って」
今、とんでもなく恐ろしい幻聴が聞こえた気がする。
「だから、花婿探しよ! 悪い?」
幻聴じゃなかった。
っていうか。
「見つかるわけねえだろ、お前なんかと結婚してくれる人なんて。政略結婚だろうが全力拒否レベルだよ」
「は? 私みたいな美女を男が放っておくわけないじゃない。引く手数多よ。というか、犯罪者に言われたくないんだけど」
ヤバイ、話題転換の仕方間違えた。
「パパはレイのパパだよ?」
レイが姉さんにそう言った。
俺を助けようとしてくれてるんだと思うけど、このタイミングでそれは逆効果だからやめてぇ!
「レイだっけ? アンタ、こっち来なさい。もう大丈夫よ。その犯罪者は牢屋にぶち込んであげるから」
「だから犯罪者じゃねえ。っていうか、人の話を全く聞かないで自分の想像が全部正しいと思ってるお前如きが結婚とかできるわけないだろ」
「何? 喧嘩売ってんの?」
額に青筋を浮かべる姉さん。
「別に、ただ事実を言っただけだぞ。もしかして、本気で結婚できるとか思ってんの?」
「いいわ、わかった。その喧嘩買ってあげるわよ犯罪者!」
「そっちがその気なら俺もやってやるよ。そういや、まだ家出た日に殴られた借りを返してなかったしな」
さっき思い出したけど、思いっきり頭ぶん殴られてたよな俺。
「ふっ、アンタがアタシに攻撃を当てられるとでも?」
「脳筋のお前が俺の攻撃を避けられるって言ってんのか? 寝言は永眠してから言え」
「あ゛?」
「あ゛?」
お互いに睨み合い、開始の合図もなしにバトルスタート。
これに容赦は必要ない。【破壊神】を発動して、全力で右ストレート!
相手も似たようなことを考えていたのか、クロスカウンター気味に互いの拳が頰に入る。
だが俺は【結界神】による全力防御を——
「ごっふぉぉぉぉ!?」
「ぐはっ…………!」
ガード出来ずに、後方に向かって吹っ飛んだ。暴力魔も同様のようだ。
っていうか、おい。【結界神】を破られるってどういうことだよ。
《【破壊神】と同系統の唯一スキルを所持しているようです。効果は【破壊神】よりも上位ですね》
神より上だとぉ!?
なんつーもん人に向けて使ってんだよ!【結界神】を発動してなかったら俺死んでたかもしれねえぞ!?
口の中が切れて結構痛いが、HP無限の力で即回復。
暴力魔も自動回復系のスキルでもあるのか、数秒後には何事もなかったかのような顔で立ち上がった。ただし、鬼のような形相は先ほどよりも恐ろしくなっている。
俺ももう一度拳を構えて、前に向かって踏み出——
「君たち、喧嘩はやめなさい!」
あ、やべ。見回っていた兵士っぽい人が来た。
身分を出せば捕まりはしないだろうけど、あまり大ごとにするのは得策じゃない。
同じく兵士に気がついた姉さんとアイコンタクトを取る。
「嫌だなー、喧嘩じゃないよ。久しぶりに再会したからじゃれついてただけで。な、姉さん?」
「ええ、そうね。ほら、怪我もしてないでしょ?」
数秒前までの獣のような表情は鳴りを潜め、笑顔で肩を組む。その様子を見て兵士は眉を顰めたものの、一応は納得してくれたようだ。
「あまり誤解されるようなことはしないでいただきたい。余計な仕事が増える」
注意だけして、兵士は去っていった。
ため息をついてから作り笑いをやめ、再び姉さんを睨む。
「こうなった以上、今日のところは見逃してやるよ」
「それはこっちのセリフよ。あの兵士にアンタのこと突き出しても良かったのよ? 後で会ったら覚えておきなさい」
それこそこっちのセリフだ。次は手加減なしでいくからな。
「貴方様、お怪我はありませんか?」
「ああ、大丈夫だ」
アリスも心配させてしまったか。家では日常茶飯事だったけど、これからは気をつけたほうがいいかもな。次にやるときは【空間神】で別の場所に転移してからにしよう。
「貴方様を傷つけるとは……。姉だからと油断していましたが、あの行動は万死に値します。消しますか?」
「いや、あれを倒すのは俺の役目だ。アリスにも譲れない」
「承知しました」
マジでいつかボッコボコにしてやる。あの言い分だとここにしばらく滞在するつもりなんだろうし、近日中に決着をつけてやろうか。
「はぁ、時間を無駄にしたわ。アタシはもう行くわね、犯罪者」
だから違うっての。まあ、犯罪者とか言いながらも本気で捕まえる気はなさそうだし、何か事情があると察しているのかもな。
「あ、っと。そういえば、本題を忘れていたわ」
歩き出した姉さんだったが、急に立ち止まり振り返った。
「本題って何だ?」
正直さっさとどっか行って欲しいんだけど。
「お父様からの指示よ。フレデリック・ウェストを監視して」
「——ッ!?……わかった」
わざわざ父さんからか。フレデリックは一体何をやらかしてるんだろう。
「それじゃ、今度こそ行くわね。バイバイ」
「ああ、結婚詐欺師にでも引っかかってろ」
彼女は再び歩き出し、人混みに紛れて見えなくなってしまった。
唐突に現れて、無駄に被害を撒き散らしてからすぐに去る。まるで台風みたいな奴だな。
「それじゃあ、俺たちも宿を探しに行こうか」
「ふみゅ? べったくにいくんじゃなかったの?」
可愛い声で疑問をあげるレイ。
ああ、そういえばそんな話もしてたな。ウィアートル家は神大陸の全ての国の王都に別宅を所持している。だから、元々はそこに行く予定だったんだけど。
「今行ったら絶対姉さんも泊まってるだろうから別のところにしような」
「わかったっ!」
頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。
それじゃあスティ。いい感じの宿の場所と、フレデリックの監視を頼む。
《了解しました》




