第二十二話 旅立ちの日に
旅立ち。それは、たとえ経緯がどんなものであったとしても、きっと素晴らしいものなのだと思う。
旅立ちによって別れが起きるということは、そこに出会いがあったということなのだから。
思えば、ここエバドンでも、勿論面倒なことや嫌なこともたくさんあったが、楽しいことや嬉しいことがたくさんあった。
なんてったって、アリスとレイに出会うことができたのは、俺がここに来たおかげだからな。いや、或いはレイとは別の形で会うことがあったのかもしれないけど、俺とアリス二人の娘になることはなかっただろう。
本当に、ここに来てよかった。
《出会えた人の中に私は含まれていないのですか?》
逆にお前、含まれてると思った?
《はい》
言い切ったな。
いや、マジでお前のその神経はすごいと思う。お前が生まれて良かったとは思わないけど。
《そうは言いますが、フェイト様。私がいなければ、モンスターではなく龍族となったレイが誕生することはなかったのですよ?》
認めたな!? やっぱお前が何かしてたって認めたな!?
ってか、あの時の説明はやっぱ適当だったのかよ!
《あ、いえ、完全にでまかせというわけではありませんよ。私が確率を操作しただけで、そうなる可能性は元々存在していました》
…………。
何となくわかるけどさ、お前が何もしなくてもそうなった確率って、実は相当低いだろ?
《黙秘権を行使します》
認めません。
《自爆します》
粋がってすみませんでした。
いや、何というかはぐらかされたせいで大体の事情が分かったんだけど、触れないでおこうかな。
閑話休題。
大分話が逸れたけども、俺達フェイト一行は今日エバドンでの一週間の滞在を終え、新たな町に旅立とうとしているのだ。
シュミラにボコられた冒険者たちの治療もすぐに終わり、適当に観光もしたので、これ以上ここに居座る理由もないしな。旅を続けなくてはいけないから、あまり長く同じ場所にいるのは良くないし。
「というわけで、二人とも。もうこの街に思い残すことはないな?」
朝食を食べ、ゆったりと談笑しているアリスとレイに呼びかける。
……いや、今日出発って言ってたよね? 準備とか大丈夫? 和気あいあいとしてるのは良いんだけどさ。
ああ、俺の【空間収納】があるから物をまとめる必要は無い? そうだね。その通りだね。
しかし、美少女と美幼女が仲良くしてるのは目の保養になるなぁ。うん、これからの俺の旅にはこの二人がずっとついてきてくれるんだ。そう考えるとやる気も出て来るし、楽しみにもなってくる。
「そうですね、私としては特に用はもう……。奴隷商人とも話したいことは話してきましたし」
「そっか。……そういえば、冒険者と結構仲良くなってたみたいだけど、そっちはいいのか?」
主にリックやらリーファやらのこの町の主力を中心に、何故かほとんどの冒険者に慕われているようなのだ。まあ、俺達は救世主で英雄な訳だけども、それにしても好かれていると思う。
レイも結構ちやほやされてたけど、アリスには遠く及んでいなかった。
っていうか、何故か俺はスキンヘッダーズ以外の奴には避けられてたっぽいんだけど、アレは何なんだろう。まさか、あいつらに構われてたせいで同類って判断された……?
うん、この件について考えるのはやめておこう。
「彼らは見送りに来るそうなので、最後に会うのはその時になるでしょう」
へー、そうなんだ。まあ、普通に考えて来るか。結構な恩も売ったしな。
「レイは何かあるか?」
「んー、おにくもっとたべたかったっ!」
……うん、ここじゃなくても全く問題ないやつだなそれ。
「それじゃ、次の場所でもっと良い肉食べようか」
「うんっ」
ひまわりのような笑顔を咲かせるレイ。きっと世の中の父母はこの顔を見たいがために過酷な労働に身をおいているのだろう。
断言しよう。ブラック企業で働いても良いくらいの価値がある。
って待てよ。今思ったんだけど、冒険者ってかなりのブラックじゃね?
依頼を受ける時は自由に選べるけど、緊急依頼じゃそうはいかない。無視したら除名まであり得るのだ。
そうなったら、食べていくことすら厳しいだろう。しかし、緊急依頼って滅茶苦茶な難易度が多いらしいから、死ぬ確率も高いんだとか。
なんというか、最悪だな。まあ、強いやつにとってはそんなデメリットなんでもないだろうけど。
「よし、それじゃ早速出発の準備始めるか! 収納するものを寄越してくれ」
と言ってみたものの、大してものは多くなく、部屋にあるもの大体を片っ端から【空間収納】に入れていくという作業をしたらそれで終わりだった。
うん、宿暮らしだと荷物の整理簡単だな。
「もう急だけど行っちゃおうか。やること特にないし」
「了解です」
アリスからは肯定の意が。レイも異論はないようだ。
そのままチェックアウトし、町の門に向かう。入ってきたのとは別の方面だ。
歩いていくと、見送りのために集まってくれたであろう人が見えてきた。
どうやら居るのは主要人物だけのようだ。絞ったのかな?
「フォッフォッフォ。待っていたぞ」
上機嫌な様子で話しかけてきたギルドマスター、ジョージ。試験の後も何度か話す機会があり、そこそこの関係は築けたと思う。
「っていうか、今から旅立ちだってのに何でそんなにいい笑顔なんだよ。もうちょい悲しめよ」
「フォッフォッ、何を言っておるんじゃ。別れに涙が似合ぬじゃろう?」
軽くサムズアップしながらドヤ顔で言ってきた。
うん、たしかにその通りだな。いいこと言うじゃねえか。さすがは冒険者をまとめる者だ。
「それと、そもそも悲しむほど仲良くなっていないというのはあるのう」
「やめろ心を抉るな。泣くぞ」
本音を出してんじゃねえ。まあ、俺も言うほど親しくはなってないと思うけど。
「これからは少し寂しくなりますなぁ」
少し疲れ気味の顔をしたおっさんが、俺の期待通りの反応をくれた。彼はこの町の町長だ。影は薄い上に髪の毛も薄いけど、意外と敏腕らしい。
「この町の戦闘力も落ちてしまいますし、ねぇ」
おい、それが本音か。俺らには軍事的な期待をしていたと。
「まあ、それは大丈夫だろ。リックたちが居るんなら、な」
そう言ってから、俺は来てくれた冒険者たちの方に顔を向ける。
メンバーはリックとリーファ、それにそのパーティメンバーだ。パーティ名はスパークリングだっけ。
シュミラに尋常じゃないダメージを与えられ、しかもスキルの効果でただの回復魔法じゃ回復できないという、絶対的な危機的状況にあったんだよなぁ。
特にリックはヤバかった。もう立ち上がることすらできそうにないくらいに痛めつけられていたのだ。
まあ、俺の前ではそんな怪我、かすり傷に等しいんだけどね。余裕で治してやった。
《あなたは私に命令しただけで、実際に回復させたのは私ですけどね》
お前が成したことは基本俺の手柄でいいだろ。悪行は別な。
《…………》
で、まあ、とにかく、全員元の状態に戻してやったんだ。
最初はグルタスは無視するつもりだったんだけど、レイの『なおしてあげないの?』と訴えてくる無垢な視線に耐えられなかった。あれはマジでリーサルウェポン。
その後、彼らはなんかよくわかんないけどアリスに懐いてた。アリス、何をしたんだろうか。
いや、違うか。アリスだもんな。もう若干見慣れてるからあれだけど、アリスって天使クラスの美少女だもんな。
なるほど確かに、あの少女に笑いかけられた日には、老若男女問わず虜になってても不思議ではない。
「リックももう既にSランクな訳だし、この町も安泰だろうよ」
「同じランクといっても、皆様には遠く及びませんけどね」
爽やかな笑顔を浮かべながら返答するリック。
そう。実は彼も昇格試験を受けて合格したのだ。他のメンバーはまだ力不足ということで、受けるのをリックが禁止したらしいけど。
「ですが、わがままを言って迷惑をかけるわけにもいきませんからね。今後は今まで通りぼくたちだけで何とかしていこうと思います。グルタスもあの一件で反省したようですし、一丸となって危機に対応しますよ」
うん、やっぱイケメンってすげえわ。何を言っても絵になる。
まあ、多分大丈夫だろうな。今のリックってかなり冗談抜きに強いし。なんならウィアートル家の近衛騎士団に欲しいレベル。
「精進していけよ。決して我らが主の顔に泥を塗るような真似はしないように」
「はい、勿論です、大司教」
……大司教って何だよ。
怪しげな笑みと共に怪しげな会話をするアリスとリック。なんというか、聞かなかったことにしておこうかな。
「それじゃあ、もう出発するぞ」
このままだと会話が長くなって出るのが遅くなりそうだったので、一回断ち切った。
「分かりました、貴方様。リック、貴様に司教の階級を授ける。リーファは司祭、アンとリリィは助祭だ。励めよ」
「……は、はい! 光栄の至りです! 皆様もどうかお元気で!」
……スルー。スルーだ、俺。
「じゃあね〜」
「フォッフォッフォッ。またいつでも遊びに来ていいぞ」
祖父と孫のようなほっこりとした雰囲気を醸し出すレイとジョージ。いや、マジで向こうの狂信者たちとは大違いだな。
見えないぞ。俺は『良かったわね、本当に』『ああ、これからも運命神様のために全力を尽くすよ』とかいう会話を目をギラつかせながらしてるリックとリーファなんか見えねえぞ。
そういや、あいつらにフェイトって名前で呼ばれたことなかったなぁ。運命神様かぁ……。
「それじゃあ、目標は西方王国の王都だ。出発するぞ!」
「うんっ!」
「了解しました!」
遠くから俺たちのことを見ていた町の人々にも見送られながら、三人で町を出た。
俺たちの冒険はまだ始まったばかりだ!
《フェイト様が旅を始めてからまだ二週間ですもんね》
最後に茶々を入れてんじゃねえ!




