第十七話 緊急依頼
《……ということがあったそうです》
思ってたより酷かった。
え、マジで? 上位の冒険者全滅させたの?
確かにそりゃ、貴族に対する心証悪くなるよな。
まあ、普通に自業自得っちゃ自業自得な気もするけどな。別にグルタスとやらがアホしなけりゃ避けられた戦いだったわけだし。同情の余地があるかと言われれば微妙だ。
俺はエバドンのギルドで何が起きたかを、全知たるスティに聞いていた。
スキンヘッダーズ?
あいつらの話、上手くまとまってなくて何言ってんのかよくわかんなかったから、途中で聞くの放棄した。
んー、しかし、気になってたから一応聞いたけど、完全に時間の無駄だったな。
よし、天使二人が待ってるだろうし、さっさと帰るか。
「……っていうことがあったんだよ」
ん? おお、聞き流してたスキンヘッダーズのリーダーの話も終わったのか。
っていうか、スティの方が遅く話し始めたのにリーダーの方が時間かかってるってどういうことだよ。どんだけ話下手なんだよ。
……アレ? っつうか、ちょっと待て。
「今、大した怪我もなしにこの場にいるってことは、お前ってチキって戦わなかった下位の冒険者の一人なのか?」
「うっ……。それは、その、なんというか、あの……」
途端にしどろもどろになる。
マジかよ。テンプレ通りに絡んでくる奴って、大体は素行は悪いけどそこそこの腕を持ってるのに、こいつらはただの雑魚だったか。
「お前さ。ただ震えて見てただけなのに、フレデリックとシュミラのことをとやかく言う資格があると思ってんの?」
「い、いや、でもあいつらはみんなをボコボコに……」
尚も言い訳を続けるリーダー。
もう何というか、溜息しか出ねえよ。嘆息しまくり。
「そもそも、金に目が眩んだアホとか、勢いで少女に集団暴行しようとしたバカ共が勝手に自爆しただけだろ? 話を聞いてる限り、まともに同情できる相手はリックとその彼女くらいしかいねえよ」
個人的にリックさんは災難だったなぁと思う。彼、基本的に何も悪くねえし。
シュミラの方にも悪意というか、まあ何かしらの策略があった以上、完全にギルドの落ち度というわけでもないだろうけど。
それでも、人を恨める立場にあるのはリックくらいじゃねえか? リックだけは貴族とグルタスを恨んでもしょうがないと思う。あ、あと、本来であれば自分たちを守る戦力になってくれるはずの冒険者が多数重傷を負ってしまった、町に住む一般人の方々もその権利はあるかな。
それにしても、俺たちが最初にギルドに入った時、不自然なほどに嫌われたなぁ。話を聞いた後でも、それが理不尽だったっていうのは変わらない。
多分、何でもいいから感情をぶつけられる相手が欲しかったんだろう。頼りになる熟練の冒険者をやられた行き場のない憎しみをぶつけられたら、それでよかったんだ。
まあ、俺の勝手な想像だけど。
しかし、気になるのはフレデリック。どこまで想定してたんだ?
もし、たとえグルタスが勝負を受けなくても、何らかの手を尽くして、どうなっても絶対にシュミラと戦うように計画していたとしたら。あの戦いが絶対に避けられないものだったとしたら、冒険者たちにも同情の余地はあるかもしれない。
いや、それは流石に考えすぎか。
そもそもそこまでやるなら、何故に自分で試しに行かないのかっていうことになるしな。『もし自分に勝てたらパーティメンバーに入れてやる』とでも言えば、大勢の腕に覚えがある冒険者が殺到したはずだ。
それをやらなかったのはどうしてだ? 面倒だったから? やはり納得がいかない。
っつうか、前提として目的は何なんだ? 何気に話の中では明言されてないよな。
……いや、考えたって仕方ないか。どうせ俺には関係ないし。
「話聞かせてくれてありがとな。じゃあ」
スキンヘッダーズに手を振って、ドアに手をかける。
「ま、待ってくれ! 頼みたいことがあるんだ」
帰るまでに思いの外時間がかかってしまった。二人とも待ちくたびれちゃってるかな?
もしかすると、仕事帰りの父親はこんな気分なのかもしれない。早く顔を見たいな。
ドアを開けて、外に出——
「無視すんじゃねえ! ナチュラルに俺の言葉を無視すんじゃねえよ!」
「…………チッ」
「舌打ちィ! やっぱてめえ俺が呼び止めたのわかっててスルーしようとしただろ!」
……君のような勘のいいハゲは嫌いだよ。
「で、何の用だ?」
面倒だし、聞くだけ聞いてさっさと帰ろ。どうせ大したことじゃねえだろ。スキンヘッダーズだし。
「……お前たちにフレデリックの依頼を解決してほしいんだ」
「カオスドラゴン以外の3つってことか」
「ああ、そうだ。アレは俺たちにはどうやってもクリアできない」
フレデリックが残していった依頼は四つ。そのうちの一つは既に神々之裁判で解決済み。
うーん、正直あんまりやる意味を感じないんだよなぁ。
でも、カオスドラゴンと同格のモンスターが三箇所にいるってことか。よく考えたらそれってものすごくマズイな。
軽く国が滅ぶぜ。そうでなくても、近くに災害みたいなモンスターがいては住民も安心できないだろう。
……やるしかねえかな。まあ、人助けだ。やらない理由も特にないし、ここは一肌脱ぐとしよう。
「わかった、やるよ。ただし明日な。今日はもう帰る」
「お、おお! 本当か!?」
喜色を浮かべるリーダー。……ここで嘘って言ったらどうなるんだろう。いや、やらないけど。やらないけども。
「ありがとう、本当にありがとう! これでいつ襲われるかと怯えなくて済むぜ!」
そうか。最初にギルドに来た時に空気がピリピリしてたのって、その恐怖のせいもあったのか。確かに、すぐ近くに自分たちを余裕で滅ぼせる存在がいるんだもんな。そりゃ平常心は保てねえ。
ん? でも待てよ。そんなことになってんだったら、何で住民たちは普通の様子だったんだ? パニックになってもおかしくない状況だと思うんだけど。
《ギルドが情報規制をしていたようです。混乱を防ぐためですね》
ああ、そっか。住民はそのことを知らないんだな。
ただ、身近に脅威があるっていうのに知らされないって、結構ひどいことでもあるよな。GJと言うべきなのか、それともふざけんなと抗議するべきなのか。
まあ、俺たちが何とかするわけだし、結果的には何も伝えなくて正解だったかもしれないけど。
「じゃあな」
改めて、別れを告げてから帰宅する。
道中では何も起こることなく、普通に部屋に到着。
「ただいまー」
「パパ、おかえりっ」
入るなりレイが抱きついてきた。ドラゴン討伐からそんなに時間経ってないのに、元気だなぁ。子供の体力は化け物だと思う。
アリスもお帰りなさいませと出迎えてくれた。
「何か異常はありませんでしたか?」
「いや、特に何も……あったな。超あった」
聞いた話もそうだし、もう完全に忘れかけてたけどフレデリックの仲間の人造人間との遭遇もあった。っつか、今思い出した。忘れてた。一時間くらい前のことなのに、半月前くらいに感じるんだけど、不思議。
とりあえず、ギルドでの出来事を報告。
「なるほど、そのホムンクルスとやらは貴方様に攻撃を仕掛けた挙句、自らの主の下につけと言ったわけですね。わかりました、始末してきます」
「ストォォォォォップ! 始末すんなって! そもそも攻撃されたのはこっちに非があったわけだし」
全力で制止すると、アリスはキョトンとした顔をして。
「非、とは何のことでしょう?」
「いや、話聞いてたよな!? 俺が胸揉んだんだって! しかも謝りもせずに意味不明台詞言ったんだって!」
「私がされたら狂喜乱舞しますが?」
それ君の価値観。君だけの価値観。
っていうか、狂喜乱舞すんの? してあげよっか?
「それに、そもそも原因は急に転移してきた神敵にあるわけですよね? でしたら、謝る必要はどこにもないと思いますが」
いや、そうかもしれないけどさぁ。俺もそう思うけどさぁ。世の中そんな簡単じゃねえんだよ。触っちゃった時点でアウトなの。
ところで、それで喜んでくれるんならいくらでも胸揉むけど?
《そんなに揉みたいんでしたら直接言えばいいじゃないですか。脳内で考えるだけにせずに》
それができたら今の俺は童貞じゃない。
「とにかく、始末しなくていいから。オーケー?」
「貴方様が仰るのでしたら」
あせったー。っつうか、こうなること読めてたのに何でわざわざこの話したんだろ俺。しかも、自分の娘の母親に他の女の胸を揉んだ話をするって、若干浮気っぽいし。
《自意識過剰ですね》
うっさい。
っていうか、そもそも俺とアリスの関係って何なの? もうご主人様と奴隷ではないし、彼女彼氏でもない。もちろん夫婦でもないのだ。これもう、さっさと告って付き合った方がいいんじゃね?
《………………》
ああでもそっか。関係性的には神と信者、主と眷属なのか。
なんていうか、微妙だな。
「それで、明日の予定は三つの依頼を受けるということでよろしいのでしょうか?」
「そうだな。他にやりたいことがあるならそれも考えるけど」
一応聞いてみたけど、アリスもレイも特にはないようだ。
「じゃあ、明日は討伐がてら観光ということにしよう」
「さんせ〜」
「了解です」
カオスドラゴンと同レベルなら討伐自体はそんなに手こずらないだろうし、ついでにいろんなところを見て回りたい。
ま、こんなところかな。
時計を見ると、夕食まではまだ時間がある。何して時間を潰そうか。
レイに遊ぼうかと声をかけようとした瞬間——部屋中に警報が鳴り響いた。
——Boooooooooo
「なんだこの音?」
どこからか、そこそこ大きな音が聞こえてくる。
「これは……ギルドカードが鳴っているようです」
「ギルドカードが?」
言われて確認してみると、ギルドカードが赤く点滅し、スピーカーもないのに警報を出している。
何だ? もしかして壊した?
慌ててチェックしてみると、無地だった裏面に何やら文字が書かれていた。
『緊急依頼発動。討伐依頼ランクSS:エターナルフェニックス、エレメンタルジラフ、グランドタートルの討伐。近くの者は至急討伐へ』
緊急依頼!? あの例外のやつだっけ? この並べられてるモンスターって、カオスドラゴン以外のフレデリックが依頼したものたちだよな。何で急に……。
《今まで出現場所から離れていなかった三体のモンスターが、一斉に町に向かって動き出したそうです》
はあ!? え、えぇ!? それ、普通にヤバいんじゃねえの!?
ま、マジで? この町滅ぶんじゃね?
今まで動かなかったんなら何で急に……。いや、まさか、カオスドラゴンを倒したのがトリガーになったのか?
って、そんなこと考えてる場合じゃねえ。さっさと何とかしねえと。
【森羅万象】で事態の把握をしたらしい二人に、頼む。
「この依頼、今から受けるけど大丈夫か?」
「仰せのままに」
「いいよ〜?」
「ありがとう。よし、じゃあ効率的にいこう。一人一体討伐だ。俺がエレメンタルジラフ。アリスがエターナルフェニックス。レイがグランドタートルでいいか?」
「うんっ」
「了解しました」
快く頷いてくれた。
さて、ミッションスタートだ!




