第十話 テンプレートと信じたい
「っと、着いたな」
三人一緒に部屋に戻ってきた。急に景色が変わるこの感じは、何度やっても微妙に慣れない。
「それじゃあ、早速で悪いんだけど、レイの服と、ついでにレイの分の宿代も払ってきてくれ」」
そう言ってアリスに大金貨を渡した。
「大金貨は……多すぎませんか?」
まあ、最高級でも流石にそんな値段はしないな。
「アリスの服も一緒に買ってきてくれ。今その一着しかないんだろ?」
「私も買っていいんですか!? ありがとうございます」
アリスの顔に喜色が浮かぶ。よし、親密度アップ作戦は成功か。
「それでは、行ってまいります」
「ママ、いってらっしゃ〜い」
アリスはレイに手を振りながら宿から出ていった。
まあ、正直服とかスキルで作り出せるんだけど、こうしたほうがポイント高いかなって。
さて、二人になったところでいろいろ聞いてみようか。少しは子の世界の謎に近づけるかもしれないし、会話することによって仲良くなる効果も見込めるだろう。
「レイ、ちょっといいか?」
「うん。なに~?」
こてん、と首を横に倒すレイ。一挙一動が愛らしいな本当。
「レイって何で喋れるんだ?」
「うーんとね。ことばとか、しりたいっておもったら、おしえてくれるんだ」
『おしえてくれる』ね。曖昧で分かりにくいが、多分【森羅万象】の効果だな。
「レイは、えーと、自分のことをどんな存在だと思ってる?」
多少難しい言い回しでも、【森羅万象】があるから大丈夫だろう。
自分のことをモンスターと認識しているのか、龍族として認識しているのか。多分後者だとは思うんだけど、万が一前者だったら面倒だ。
「レイはねー。パパとママのむすめ!」
「そっかそっかー。可愛いなーレイは」
抱きしめて、頭をよしよしと撫で回す。
ん? 何も聞けてない? まあ、可愛いし良いだろ。
「それでね、レイはパパとママがだいすきなの~!!」
「そっか~」
更にひっついてきた。なにこの可愛い生き物。もう、元がモンスターとかどうでもいいや。
会話はアリスが帰ってくるまで一時間ほど続いたが、大した進展はなかった。
あ、そういえばまだ昼食食ってねえ。
慌てて遅めの昼ごはんを食べた俺達は、先に全員分の装備を作って、元々の目的であった冒険者ギルドに向かうことになった。
俺の装備は……まあ、冒険者に憧れた貴族の坊ちゃんだろうか。
やたらすげえ剣を持っているのに、鎧とかは着ていない。まあ、HP無限だから防具とかあってもなくても同じだし。
アリスの装備は普通に魔法使い。鮮やかな白系のローブを着ている。魔法に対する抵抗力も高く、結構良い物。王級に相当するだろう。
レイの装備は、基本的に過保護。
両手には、神級にすら届き得る籠手。
頭にはHPが0になる一撃を受けた時、一度だけ守ってくれる身代わりの髪飾りをつけた。
服は一見ただの私服だが、俺のスキルを込めている。そのスキルの名は【結界神】。うん、この時点で相当碌でもない性能なのがわかるな。基本的に全てのダメージをカットできるぜ。多分、神級相当なんじゃないかな。
もうなんか、ぶっちゃけ装備だけで悪目立ちしそうな格好で、レイを真ん中に三人で手を繋ぎながら歩いて行った。
ギルドに到着。
冒険者ギルドの内部は、よくあるラノベのように酒屋になっているという訳ではない。多少の飲食はできるが、一階は椅子とテーブルと受付のみだ。椅子とテーブルは冒険者同士の交流のために配置されている。飲食をするならそこでだ。
二階や三階はギルド職員の部屋になっているので、基本立ち入ることは無い。関係者以外立ち入り禁止ってやつだ。
冒険者ギルドに入って最初に考えること。それはあの、もはや伝説とすら言えるテンプレだろう。
冒険者になろうとする主人公に絡んでくる酒を飲んだ柄の悪い三流冒険者。主人公が一瞬で撃退。おお、アイツすげえー!
みたいな? やっぱり普通に憧れるよな。
だが、俺は知っている。ギルドに入って『テンプレキタァァァァ!!』とか喜んでいる奴の前に現れる柄の悪そうな冒険者は、実は親切に忠告してくれている二流のお人好し冒険者だということを。
だから、俺は騙されない。俺の身にテンプレなど起らないのだ! たとえ似たことがあってもそれはダミーなんだ!!
《何をアホなことを先程から語り続けているのですか? 大体それをどうしてもやりたいのなら【傀儡神】を使ってさせればいいじゃないですか。その、柄の悪い冒険者とやらに》
それは明確に違うだろ!?
っていうか、何普通に人を操ることを提案してんの!? 怖えよ! お前マジで怖えよ!!
俺は単純に、そんなテンプレを経験する主人公たちに憧れてるだけだから。別に人の思考操作してまで叶えたい願いじゃないから。
そういえば、依頼してまでテンプレをやった主人公はたまに見るけど、アレはちょっと違うと思う。
入り口から周囲を見渡していると、ほとんどの冒険者から睨まれた。
何、こわっ。いくら俺が強いとは言っても、ムキムキの人からの悪意のこもった視線は普通に嫌だな。レイにも悪影響が出る気がする。
「ご依頼でしょうか?」
カウンターに立っている受付嬢がそう声をかけてきた。
いや、お前そう見えるか? どう見ても冒険しに来た格好だろ。
あ、そっか。メンバーが駄目なんだわ。幼女入ってるもんな。
「いや、冒険者に登録を——」
「あ? 何だガキ。てめえが冒険者になるだあ?」
「何ふざけたことぬかしてんだよ、ああん?」
「そうだそうだ!」
俺たちの行く手を塞ぐように、頭を剃ったマッチョな男三人が立ちはだかった。
「うっわ、またアイツらだよ」
「スキンヘッダーズじゃねえか」
「災難だなあ」
さっきまでこちらを睨んできていた冒険者たちが微妙に同情しはじめてるんだけど。あいつらそんなヤバいの?
「ふん、フレデリックと同じ貴族なんでしょ? だったら別に良いじゃない」
「いや、アイツらはさすがに……」
「うん、アレに絡まれるのは流石に同情するわ」
いや、マジでどんだけなんだよスキンヘッダーズ。ただただ怖い。
しかし、悪感情を見せたのは俺が貴族だからか。確かに一般庶民から見てそこまでいい印象はないかもしれないけど、普通はここまでじゃないはず。ここの領主が悪政でも敷いてるのかな。
っていうか、待てよ?
「フレデリックって、どっかで聞いたことがある気がするな」
「お知り合いですか?」
「うーん、多分そこまでじゃないと思うんだけど……」
何だっけな。名前はすごく聞き覚えがあるんだが。
……あ。
「アレだ。フレデリックって、ここの第三王子だよ。魔法の天才で有名な」
真偽を諮る審議の水晶の発明で有名な、同世代の王子。他にも革新的な物の開発で、平民にも人気は高かったはずだけど、ここでは嫌われてるっぽいな。何でだろ。
もしくは、同じ名前なだけの他の貴族かもしれないけどさ。
「パパのおともだち?」
「いや、数年前に二、三回話したことがある程度だからな。正直顔もうろ覚えだ」
ただ、かなりのイケメンだったことはしっかりと記憶に残っている。イケメン、滅ぶべし。今の俺は結構イケメンだけど。
「てめえ、奴と知り合いなのか!」
「え? いや、だから少し話したことがあるくらいだけど」
スキンヘッダーズのリーダー的な奴が、声を張り上げて威嚇してきた。
「だったら、尚更ここで冒険者やるなんて許せねえ!」
「そうだぜ! ああん?」
「そうだそうだ! ぶっ飛ばすぞ!」
いや、何この過剰反応。フレデリックさんは一体ここで何をやらかしたんだよ。
「誰に向かって物を言っている、下民。許されないのは貴様らの方だ」
人を殺せそうな絶対零度の視線で、アリスが警告した。何この子、めっちゃ怖い。
まあ、自分が信仰する神を貶された信者は、こんな感じが標準かもしれないけど。
「ひぇ……!?」
ほら、スキンヘッダーズも怯えてるじゃねえか。
「ぐ、ぐぅ……。ど、どうしてもここで冒険者になりたいと言うのなら……」
「言うのなら、なんだ?」
冷めた口調でアリスが問う。杖に魔力も集めてるようだ。準備してるのは……神級魔法【アブソリュート・ゼロ】か!
こんな場所でそんなものを放ったら、いろんな意味でヤバいことになるぞ。抑えて抑えて。
それにしても、何を要求されるんだろうな? 金か? それとも『俺達の手下になれ』的な?
もし、アリスの体が欲しいとかだったら即座に神罰撃つぞ。
「どうしてもと言うんなら……」
三人は、一度下を向いてから俺の周りを取り囲み、ねっとりとした視線で見つめてきてからこう言った。
「「「や ら な い か」」」
…………。
…………。
…………。
…………は?
「ごめん、主語と動詞と目的語を明確にしてもう一回言ってくれないか?」
ちょっと何言ってんのかわかんなかった。
「お前と俺たちで、やらないか」
スキンヘッドリーダーは俺を指差しそう言った。
……ちょっと何言ってんのかわかんない。
いや、現実逃避はよそう。確かに、これは同情されるのもわかる。
つまり、ウホッってことか。うん、マジで?
「やるって、なにするの? あそぶの? レイもいっしょにしたいっ!」
「しなくていいから。レイはちょっと向こう行って目と耳を塞いでなさい。【森羅万象】使うのも禁止で」
教育に悪すぎることを、俺のレイに教えてんじゃねえよ。マジで殺すぞ。
「愚かさを知れ。【神——」
《やめなさい。町がグロス単位で塵になります》
……はい、すみませんでした。
「どうしたの?あそばないの?」
「いいからレイは耳を塞いでなさい!」
オーケー、一回落ち着こう。ひっひっふー、ひっひっふー。
ってか、こういう状況で一番に馬鹿共を殺害しそうなアリスはどうしたんだ? 魔法も使ってないみたいだし。
「 」
すごいぶつぶつと戒めの言葉を自分に向かって呟いて、なんとか抑えているようだ。むしろすげえ怖いんですけど。
…………。
しかし、これは好都合か。
別にこんな奴ら相手に情けをかける必要はないし、意味わからん態度の冒険者たちへの警告にもなる。
俺はニヤリと口を歪め、手を前に向ける。
「アリスさん、やっておしまい!」




