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西条京子は日常を解決できない  作者: ヒロコトー
同窓会の過去回想
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8/11

第8話 見えない視線

 隠しカメラが見つかってから数日が経っても、校内の噂は消えなかった。詳しい説明がないまま多目的室が使えなくなっていることもあって、生徒たちの間では、誰がカメラを置いたのかという話ばかりが続いていた。


 昼休みの教室でも、後ろの席に集まった生徒たちが黒田の名前を出していた。


「やっぱり黒田先生じゃない?」


「でも証拠ないんでしょ?」


「いつも遅くまで残ってるじゃん」


「バレー部も多目的室使うことあるし」


「選手の身体触ったりもしてるんでしょ?」


「マッサージでしょ、それ」


「でも怪しくない?」


 結華は弁当を食べながら、向かいに座る京子を見た。京子は購買で買った焼きそばパンを食べている。


「京子、あなたはどう思う?」


「何が?」


「黒田先生よ。犯人だと思う?」


「分かんない」


「あなた、カメラを見つけてからずっと何か考えてるでしょう」


「うん」


「何か分かった?」


「まだ」


 それ以上聞いても話さないだろうと、結華は弁当に戻った。


 しばらくして京子が言った。


「牛乳ない」


「買ってくれば?」


「遠い」


「購買まで行って焼きそばパン買ってきたでしょう」


「疲れた」


「じゃあ我慢しなさい」


「うん」


 後ろではまだ黒田の噂が続いていた。


◇      ◇      ◇


 午後の授業が終わると、担任が帰り支度をしていた京子を呼び止めた。


「西条さん、校長室におばあさまがいらしてるわよ」


「おばあちゃん?」


「ええ。校長先生とお話しされてるから、行ってらっしゃい」


「うん」


 京子は鞄を持って教室を出た。


 少しして廊下へ出た結華は、階段へ向かって歩いていく京子を見つけた。


「京子、どこ行くの?」


「校長室」


「そっちじゃないわよ」


 京子が止まった。


「そう?」


「反対。あなた、三年近くこの学校に通って、まだ校長室の場所覚えてないの?」


「行かないから」


「行ったことあるでしょう」


「覚えてない」


 結華はため息をつくと、京子の横へ並んだ。


「私も行くわ。このまま帰られたら、おばあさまがいつまで待っても京子に会えないもの」


「うん」


 二人が校長室へ入ると、京子の祖母が校長と向かい合ってソファに座っていた。


「あら、京子ちゃん。来たのね」


「おばあちゃん」


 祖母は京子の後ろにいる結華にも気づいた。


「あら、結華ちゃんも一緒だったの。久しぶりね」


「お久しぶりです」


「また京子ちゃんを連れてきてくれたの?」


「はい」


「そうだと思ったわ」


「おばあちゃん」


「何?」


「一人でも来れる」


 結華が京子を見た。


「今、反対方向に歩いてたでしょう」


「途中だった」


「どこへ行く途中よ」


 祖母と校長が笑った。


 京子は空いているソファに座り、テーブルに置かれていた菓子へ手を伸ばした。


「それ、校長先生のよ」


「いいのよ。京子さん、食べて」


「ありがとうございます」


 京子は包みを開けた。


 祖母が思い出したように言った。


「そうそう、京子ちゃん。美代ちゃん、来週からしばらく京子ちゃんのところに行くわよ」


「美代さん?」


「ええ。おじいちゃんが一人にしておくのは心配だって」


「一人で大丈夫」


「大丈夫じゃないから美代ちゃんが行くのよ」


 校長が顔を上げた。


「美代ちゃん、元気?」


「元気よ」


「私もしばらく会ってないわ。京子さんのところへ遊びに行ってもいい?」


「うん」


「あら、じゃあ私も一緒に行こうかしら」


「二人とも来るの?」


「嫌なの?」


「別に」


 祖母と校長はそのまま美代の話を続けた。結華は特に気に留めることもなく、京子が勝手に二つ目の菓子へ手を伸ばすのを見ていた。


 その京子の手が止まった。


 顔を上げ、校長の後ろへ視線を向けている。


 結華もそちらを見たが、何を見ているのか分からなかった。


 校長が京子の視線を追った。


「あっ」


 校長は人差し指を口元に当てた。


 京子は何も言わなかった。


「京子ちゃん、どうしたの?」


 祖母に聞かれ、京子は再び菓子の包みを開けた。


「何でもない」


◇      ◇      ◇


 校長室を出ると、結華はすぐに京子を呼び止めた。


「さっき何見てたの?」


「どこで?」


「校長室に決まってるでしょう。校長先生も何か気づいたじゃない」


「うん」


「何だったの?」


「まだ分かんない」


「見たものを聞いてるのよ」


 京子は歩きながら考えた。


「言わない」


「なんで?」


「校長先生が、しーってしたから」


「……そこは素直に言うこと聞くのね」


「うん」


「普段からもう少し聞きなさいよ」


 階段へ向かおうとした京子の肩を、結華が掴んだ。


「そっちじゃない」


「帰る」


「昇降口は反対よ」


「そう?」


「さっきも同じことしたでしょう」


 結華が京子の向きを変えた。


◇      ◇      ◇


 翌日の放課後、結華は進路資料を返すため職員室へ向かっていた。途中で京子を見つけると、その手には購買の袋が下がっていた。


「何買ったの?」


「焼きそばパン」


「また?」


「好きだから」


「知ってるわよ」


 二人で職員室へ向かう途中、水野が向こうから歩いてきた。


「あら、二人とも。まだ残ってたの?」


「進路資料を返しに行くところです」


「そう。河合先生なら職員室にいると思うよ」


 水野は京子の持っている袋を見た。


「また焼きそばパン?」


「うん」


 結華が笑った。


「京子、昔もよく食べてたわよね。木村先生にもらって」


「うん」


「懐かしいわね。木村先生、途中で辞めちゃったけど」


「ああ、木村先生?」


 京子が水野を見た。


「なんで辞めたの?」


「職場で嫌なことがあったんじゃない?」


「嫌なこと?」


「詳しくは知らないけど、人間関係って難しいからね。まあ、上手く立ち回れないと、そうなることもあるよね」


「そっか」


 水野は時計を見た。


「ごめん、私ちょっと用事あるから。また明日ね」


「はい」


 水野が廊下の角を曲がっていった。


 結華は隣を見ると、京子は焼きそばパンの袋を見ていた。


「食べるなら帰ってからにしなさいよ」


「お腹すいた」


「夕飯食べられなくなるわよ」


「食べる」


「なら我慢しなさい」


「一口だけ」


「好きにしなさい」


 京子は袋を開けた。

◇      ◇      ◇


 翌日、数学の授業で黒田が黒板に問題を書いた。


「ちょっと難しいぞ。時間あるから考えてみろ」


 教室が静かになり、生徒たちが一斉にノートへ向かった。


 結華も問題を解き始めた。


 隣の京子は黒板を見ていなかった。


 しばらく机の一点を見つめていた京子が、顔を上げた。

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私はいつでもMinority

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