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【全4巻完結・Amazonで販売中】冤罪で7年間鉱山送りにされた俺、出所後に《ダンジョンガチャ》を手に入れて人生をやり直す  作者: 月瀬 リュカ


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第9話 七年ぶりの食堂



 店へ入った瞬間、話し声が止まった。


 広くはない食堂だった。木製の食卓が六つ並び、その半分ほどが客で埋まっている。


 焼いた肉と温かなスープの匂い。


 食器が触れ合う音。


 7年前とほとんど変わっていない。


 変わったのは、店にいる人々の年齢と、ウィルへ向けられる視線だけだった。


「あいつ……」


「昨日、帰ってきたっていう……」


 小さな声が聞こえる。


 ウィルは扉の前で足を止めた。


 やはり入るべきではなかった。


 食事なら家でも作れる。防具の修理が終わるまで、町を歩いていればいい。


 引き返そうとしたところで、アレナが扉を閉めた。


「空いてる席は、あそこ」


 店の奥にある食卓を指す。


「無理に入らなくても――」

「もう入ってる」

「今なら出られる」

「出る理由がないでしょう」


 アレナは、普段と変わらない口調で言った。


 ウィルが何かを返す前に、厨房から父親が顔を出す。


「いつまで入口に立っている。ほかの客が入れんだろう」

「今は誰もいません」

「これから来るかもしれん」

「外で待ちます」

「飯は?」

「家で食べます」

「今から戻って作るのか?」

「そうです」

「それなら、ここで食った方が早い」


 父親は厨房の奥へ戻った。


「今日の定食は銅貨8枚だ。注文しないなら、席を空けろ」


 特別扱いするつもりはないらしい。


 ウィルは革袋の中身を思い出した。


 今日の収入は銅貨72枚。


 防具の修理代に銅貨11枚を払ったため、残りは61枚ある。


 銅貨8枚なら払える。


「……食べます」


「最初から、そう言えばいい」


 厨房から声が返ってきた。


 どこかで聞いた言葉だった。


 ウィルは、店の奥にある席へ向かった。


 歩くたびに、周囲の視線がついてくる。


 顔を背ける者。


 隣の者へ何かを囁く者。


 露骨に椅子を引き、距離を取る者もいた。


 ウィルは何も言わず、壁際の席へ座った。


 アレナが向かい側へ立つ。


「今日の定食でいい?」

「ああ」

「パンと野菜スープ。焼いた鶏肉と豆の煮込み」

「それでいい」

「嫌いなものは?」

「ない」

「黒パンは?」

「……嫌いだ」


 答えるまでに、少し時間がかかった。


 鉱山刑務所で支給されていた食事の多くは、硬く乾いた黒パンだった。


 水へ浸しても中心まで柔らかくならない。


 かびが生えていても、交換してもらえることはなかった。


 食べなければ働けない。


 腹を壊しても働かされた。


 今でも黒いパンを見ると、口の中にあの硬さが蘇る。


「今日は白いパン」

「そうか」

「先に手を洗って」

「外の井戸を借りる」

「お湯を持ってくる」


 アレナは返事を待たず、厨房へ向かった。


 ウィルは食卓の上へ両手を置いた。


 指先に、小さな傷がいくつも残っている。


 つるはしを握り続けた手のひらは、皮膚が厚く硬くなっていた。


 指の関節は太くなり、何度も裂けた跡が白い線となって残っている。


 爪は短い。


 伸びる前に欠けるか、石の隙間へ挟んで割れてしまったからだ。


 十本のうち、二本は黒く変色していた。


 爪の隙間にも、洗っても落ちない黒い汚れが残っている。


 人前に出すような手ではなかった。


 ウィルは両手を食卓の下へ下ろした。


 店の中央に座っていた男が、こちらを見ていた。


 年齢は四十代ほど。


 七年前にも、町で見かけたことがある気がする。


 男はウィルと目が合うと、隠すことなく眉をひそめた。


「本当に、店へ入れるのか?」


 誰に向けた言葉かは、聞くまでもなかった。


 厨房から、アレナの父親が顔を出す。


「注文して金を払うなら、客だ」

「そいつは犯罪者だろう」

「刑期は終えている」

「無実だと言い張っているらしいじゃないか」

「俺は、ここで裁判をするつもりはない」


 父親は淡々と答えた。


「店で暴れれば追い出す。金を払わなければ皿を下げる。静かに飯を食うなら、ほかの客と同じだ」

「気分が悪い」

「なら、無理に残れとは言わん」


 男は不満そうに口を閉じた。


 食べかけの皿へ視線を戻す。


 店内には、重い沈黙が残った。


「すみません」


 ウィルが言うと、父親の眉が寄った。


「なぜ、お前が謝る?」

「客に迷惑をかけています」

「お前は、まだ何もしていない」

「でも」

「飯を食う前から面倒なことを考えるな。冷めるぞ」


 父親は再び厨房へ戻った。


 店の客たちも、少しずつ食事を再開する。


 完全に元の空気へ戻ったわけではない。


 それでも、止まっていた食器の音が再び聞こえ始めた。


 アレナが、小さな桶を持って戻ってきた。


 中には湯が入っている。


 石鹸と、小さな爪用のブラシも添えられていた。


「袖、上げて」

「自分でできる」

「知ってる。桶を置くから」


 アレナは食卓の端へ桶を置いた。


 ウィルはシャツの袖を肘までまくる。


 前腕が露わになった。


 鉱山で何度もつるはしを振り下ろし、岩を持ち上げたため、腕は太くなっている。


 だが、冒険者のように均等に鍛えられた身体ではない。


 手首から肘にかけての筋肉だけが不自然に発達し、その上を細かな古傷が覆っていた。


 アレナの動きが止まった。


「どうした?」

「……何でもない」

「見たかったんじゃないのか?」

「見たいとは言ってない」


 アレナは視線を逸らした。


 ウィルは桶へ両手を入れる。


 温かな湯が、硬くなった皮膚の隙間へ染み込んだ。


 刑務所で身体を洗うために与えられた水は、いつも冷たかった。


 冬でも変わらない。


 湯へ手を入れるだけで、指先が痛むほど温かく感じる。


 ウィルは石鹸を手へ擦りつけた。


 泡がすぐに灰色へ変わる。


「ブラシも使って」

「洗っても、落ちない」

「やってみないと分からない」

「何度も洗った」

「それでも、今日の汚れは落ちるでしょう」


 アレナはブラシをウィルの手元へ置いた。


 ウィルは爪の隙間を擦った。


 黒い汚れが少しずつ湯へ溶け出していく。


 それでも、黒く変色した爪は元へ戻らない。


 石に挟み、血が爪の下で固まった跡だった。


 アレナがウィルの手を見つめている。


「その手……」

「つるはしを握っていただけだ」

「七年間?」

「ああ」


 短く答える。


 何度つるはしを振ったかなど、覚えていない。


 朝から夜まで。


 腕が上がらなくなっても。


 手の皮が裂けても。


 翌朝には、また同じ柄を握った。


「痛くないの?」

「今は痛くない」

「今は?」

「昔の傷だ」


 アレナは唇を結んだ。


 可哀想だとは言わなかった。


 代わりに、灰色になった湯を見て、桶を持ち上げる。


「替えてくる」

「もう十分だ」

「食事の前だから」

「これ以上洗っても変わらない」

「一度で全部きれいにしなくてもいいでしょう」


 アレナは、それだけ言って厨房へ向かった。


 ウィルは自分の手を見る。


 一度で全部きれいにしなくてもいい。


 家の修理と同じなのかもしれない。


 傷んだ屋根を、一日で元どおりにすることはできない。


 黒くなった爪も、厚く硬くなった手のひらも、すぐには変わらない。


 だが、今日の汚れだけなら落とせる。


 しばらくすると、新しい湯が運ばれてきた。


 ウィルはもう一度手を洗った。


 爪の黒ずみは残った。


 それでも、指先についた土や魔物の血はきれいに落ちた。


     ◇


 食事が運ばれてきた。


 白いパン。


 野菜スープ。


 香草をまぶして焼かれた鶏肉。


 豆と根菜の煮込み。


 銅貨8枚の定食としては、十分な量だった。


「多くないか?」

「普通」

「昨日も聞いた」

「昨日と同じ答え」

「ほかの客の皿より、肉が大きい」

「切る人の癖」

「誰が切った?」

「私」

「わざとだろう」

「気のせい」


 アレナは、平然と答えた。


「足りなかったら言って」

「十分だ」

「パンも追加できる」

「銅貨8枚の中に入っているのか?」

「一個まで」

「なら、あとで考える」

「最初から頼めばいいのに」

「食べ切れるか分からない」

「昨日、全部食べたでしょう」

「今日は昨日より多い」


 話している間にも、料理の香りが空腹を刺激する。


 ウィルは木の匙を取り、スープを口へ運んだ。


 温かい。


 芋と玉ネギが柔らかく煮込まれている。


 塩だけではない。


 鶏肉と香草の味が、スープ全体へ溶け込んでいた。


「美味い」

「昨日も聞いた」

「昨日と同じ答えだ」

「ほかには?」

「芋が柔らかい」

「普通」

「俺の作ったものとは違う」

「それは、ウィルが早く火を止めるから」

「今度は長く煮る」

「鍋の底を焦がさないように」

「見ていないのに、なぜ分かる?」

「ウィルだから」


 理由になっていない。


 それでも、ウィルは言い返さなかった。


 白いパンを手に取る。


 柔らかい。


 指で押すと、表面がゆっくり元へ戻った。


 半分に割り、スープへ浸す。


 口へ運ぼうとしたところで、自分の左手が皿の前を覆っていることに気づいた。


 誰かに食事を取られないよう、守る形になっていた。


 鉱山刑務所で身についた癖だ。


 配給された食事を奪う囚人は少なくなかった。


 一度取られれば、その日の分はなくなる。


 看守へ訴えても、管理できなかった方が悪いと言われた。


 ウィルは左手を下ろした。


 周囲を見る。


 誰も、皿を奪おうとはしていない。


 当然のことだった。


 食事は自分で金を払い、注文したものだ。


 急いで食べる必要もない。


 それでも、身体は忘れていなかった。


「ゆっくり食べて」


 アレナが静かに言った。


 気づかれていたらしい。


「普通に食べている」

「普通の人は、パンを守らない」

「……癖だ」

「誰も取らない」

「分かっている」

「なら、ゆっくりでいい」


 アレナは、それ以上何も聞かなかった。


 ウィルはもう一度、パンをスープへ浸した。


 今度は、左手を膝の上へ置く。


 ゆっくり噛んだ。


 柔らかいパンは、ほとんど力を入れなくても口の中で崩れた。


「角ウサギを倒したんでしょう?」


 アレナが尋ねる。


「どうして知っている?」

「防具に傷があったから」

「3匹倒した」

「一人で?」

「ああ」

「怪我は?」

「左腕に少し」

「見せて」

「もう見ただろう」

「古い傷じゃなくて、今日の傷」

「浅い」

「見ないと分からない」

「防具屋にも衛兵にも確認された」

「私は確認してない」

「アレナは治療師じゃない」

「傷が深かったら、治療院へ行かせることはできる」

「深くない」

「見せて」

「食事中だ」

「食べ終わったら」

「なぜ、そこまで――」


 ウィルは言葉を止めた。


 心配しているからだと、分かっていた。


 分かっているのに、それを受け取ることに慣れていない。


「分かった。あとで見せる」

「うん」


 アレナは小さく頷いた。


 それだけで満足したらしい。


 店内の空気は、まだ落ち着かない。


 何人かは、時折ウィルの方を見ている。


 先ほど声を上げた男は、食事を終えると銅貨を置き、何も言わずに店を出ていった。


 最後まで、ウィルと目を合わせることはなかった。


 入れ替わるように、一人の老女が店へ入ってきた。


 杖をつき、ゆっくり歩いている。


「いらっしゃい」


 アレナが声をかける。


 老女は空いている席を探し、ウィルを見つけた。


 足を止める。


 ウィルは身体を強張らせた。


 見覚えがある。


 母親へ、何度か服の修繕を頼みに来ていた女性だ。


 老女はしばらくウィルの顔を見たあと、ゆっくり近づいてきた。


「ウィルかい?」

「……はい」

「大きくなったね」


 何と答えればいいのか分からない。


 七年間も経てば、大きくなるのは当然だった。


「昨日、帰ってきたと聞いたよ」

「はい」

「お母さんの家に?」

「はい」

「そうかい」


 老女は、それ以上事件について尋ねなかった。


「昔、お母さんに直してもらった上着が、まだ家にあるよ」

「母が?」

「あの人は、捨てた方がいい服まで直したがったからね」


 老女は懐かしそうに笑う。


「お金がないと言えば、あとでいいって。結局、払わせてもらえなかったこともあった」

「母さんらしいです」

「ああ。困った人だったよ」


 言葉とは反対に、声は優しかった。


「墓を建てるとき、少しだけ返した」

「アレナから聞きました」

「少しじゃ、足りなかったけどね」


 老女はウィルの隣の席へ腰を下ろした。


「帰ってきたなら、たまには墓の草を取っておくれ。あたしの腰じゃ、もう大変でね」

「分かりました」

「それならいい」


 まるで、ウィルが帰ってくることを最初から知っていたような言い方だった。


 老女はアレナへ手を上げる。


「いつものを頼むよ」

「今日の定食でいい?」

「ああ。肉は小さめにしておくれ」

「分かった」

「そこの子の半分くらいでいい」

「これは普通です」

「どこが普通だい」


 老女が笑う。


 店内の空気が、少しだけ緩んだ。


 ウィルは皿の上にある、大きな鶏肉を見る。


 やはり、普通ではなかったらしい。


     ◇


 食事を終えると、ウィルは銅貨8枚を食卓へ置いた。


 アレナが枚数を確認する。


「ちょうど」

「ああ」

「追加のパンはいらなかった?」

「十分だった」

「鶏肉が大きかったから?」

「普通だったんだろう?」

「普通」

「さっき否定されていた」

「人によって普通は違う」

「便利な言葉だな」


 ウィルは立ち上がった。


 周囲の客の視線が、再び集まる。


 入ってきたときほどではない。


 だが、誰もが受け入れたわけでもなかった。


 それでいい。


 一度食事をしただけで、七年前の事件が消えるわけではない。


 ウィル自身も、簡単に誰かを信じられるようになったわけではなかった。


「腕」


 アレナが言う。


「忘れていない」

「見せて」


 ウィルは裂けた腕当てを預けているため、シャツの袖を上げた。


 左腕には、角が掠めた細い傷がある。


 血はすでに止まっていた。


 アレナは傷を近くで確認する。


「本当に浅い」

「言っただろう」

「化膿しないように、帰ったら洗って」

「分かった」

「明日は?」

「ダンジョンへ行く」

「休まないの?」

「防具が直っていれば行く」

「無理はしないで」

「角ウサギを、あと6匹倒したい」

「どうして6匹?」

「10匹倒せば、報酬がある」


 正確には、ガチャチケットだ。


 だが、《ダンジョンガチャ》のことを話すつもりはない。


「協会の討伐報酬?」

「似たようなものだ」

「また、一日で全部倒すつもり?」

「決めていない」

「ならいい」

「止めないのか?」

「止めたら、行かない?」

「行く」

「なら、無駄だから」


 アレナらしい答えだった。


「ただし、怪我をしたら帰ってきて」

「家へ?」

「店に」

「なぜ?」

「食事をしながら確認する」

「毎日来させるつもりだろう」

「ウィルが自分で、まともなスープを作れるまで」

「次は成功する」

「塩は?」

「量を測る」

「ニンジンは?」

「柔らかくなるまで煮る」

「肉は?」

「今日の稼ぎで買える」

「豆は?」

「買う」

「なら、明日確認する」

「作ったものを持ってこいということか?」

「店に来ればいい」

「話が戻っている」

「最初から、その話をしてる」


 アレナは平然としていた。


 ウィルは返す言葉が見つからず、諦める。


「防具を受け取って帰る」

「また明日」

「まだ来るとは言っていない」

「来るまで、毎日多めに作る」

「客へ出せ」

「ウィルの分だから」


 昨日と同じ言葉だった。


 だが今日は、昨日よりも拒みにくく感じた。


「……考えておく」


 ウィルは店を出た。


 扉が閉じる直前、老女の声が聞こえる。


「またおいで、ウィル」


 振り返る。


 老女は食事をしながら、こちらを見ていた。


「はい」


 ウィルは小さく頭を下げた。


     ◇


 夕方。


 修理店へ戻ると、腕当てと胸当ての修理は終わっていた。


 裂けていた場所には、裏から新しい革が当てられている。


「元より少し硬くなっている」


 職人が胸当てを叩く。


「同じ場所へ角を受けても、前よりは裂けにくい。ただし、防げるのは一度か二度だ」

「分かりました」

「防具は身体を守るが、何度でも守ってくれるわけじゃない。傷が増えたら、早めに持ってこい」

「はい」


 ウィルは装備を受け取り、《アイテムボックス》へ収納した。


 店を出たあと、道具屋へ立ち寄る。


 石鹸。


 小さな爪用のブラシ。


 傷を洗うための清潔な布。


 合わせて銅貨6枚だった。


 以前のウィルなら、買わなかったかもしれない。


 石鹸がなくても水で洗える。


 爪の黒ずみは、ブラシを使っても落ちない。


 布も、古い服を切れば代わりになる。


 だが今は、銅貨を払って買うことができた。


 今日、自分で魔物を倒して稼いだ金だった。


     ◇


 家へ戻ったウィルは、桶へ水を汲んだ。


 買ってきた石鹸とブラシを使い、もう一度両手を洗う。


 昼に洗ったばかりなので、泡はほとんど汚れなかった。


 それでも、爪の隙間を丁寧に擦る。


 黒く変色した二本の爪は変わらない。


 手のひらの硬いまめも消えない。


 指の傷も、太くなった関節も、そのままだ。


 この手は、七年前に母親が知っていた手ではなかった。


 剣よりも、つるはしを握っていた時間の方が長い。


 人を助けた手でもない。


 生き残るため、石を砕き続けた手だ。


 ウィルは水から両手を上げた。


 厚く硬くなった手のひらを見つめる。


 この手で、父親の剣を握った。


 角ウサギを倒した。


 屋根の板を外し、新しい板を重ねた。


 木の匙を持ち、誰かと食卓を囲んだ。


 過去は消えない。


 身体に残ったものも、すぐには消えない。


 それでも、この手でこれから何をするかは選べる。


 ウィルは清潔な布で手を拭いた。


 机の上へ、今日の残金を並べる。


 防具の修理代。


 食事代。


 石鹸とブラシ、布の代金。


 すべて差し引いても、銅貨は47枚残っていた。


 昨日より、手持ちは増えている。


 ウィルは冒険者証を取り出した。


 現在の討伐記録を確認する。


 スライム:21体。


 角ウサギ:4体。


 森ゴブリン:2体。


 ガチャチケット:5枚。


 角ウサギを、あと6匹。


 10匹倒せば、新しいチケットを1枚獲得できる。


 最初の11連ガチャまでは、まだ遠い。


 それでも、一体ずつ倒せば必ず近づく。


「明日も行こう」


 ウィルは呟いた。


 厚くなった手で、父親の剣の柄を握る。


 剣を振るためにつくられた手ではない。


 だが、今はもう、つるはししか握れない手でもなかった。


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