第67話 救いたい命
「助け……て……」
赤い光の中から現れた五人は、確かに人の形をしていた。
鎧を身につけ、剣や槍を握っている。
だが、その身体はすでに人間のものではない。
皮膚の一部は灰色に硬化し、首筋や肩から黒い結晶が突き出していた。
先頭の男には目がなかった。
瞼が閉じているのではない。
目があったはずの場所を、黒い皮膚が完全に覆っている。
それでも男は、ウィルたちのいる方向へ顔を向けた。
「殺し……て……」
声だけは人間だった。
槍士団の兵士たちが息を呑む。
「まさか……」
一人の兵士が、震える声を漏らした。
「ハロルド……なのか?」
先頭の男の身体が止まった。
ほんの一瞬。
首が、声のした方へ動く。
「……ル……ク……」
名前を呼び返そうとしたのかもしれない。
兵士が槍を下げかけた。
「ハロルド! 俺だ! ルークだ!」
「近づくな!」
ゲイルの声が飛ぶ。
次の瞬間。
ハロルドと呼ばれた男の右腕が、大きく膨れ上がった。
鎧が内側から弾け飛ぶ。
骨が鳴る。
人間の腕が、太い異形の腕へ変わっていく。
「グアアアアアッ!」
男が床を蹴った。
速い。
先ほどまで動きを止めていたとは思えない。
「ルーク!」
ゲイルが叫ぶ。
だが、兵士は動けなかった。
目の前に迫っているのは魔物ではない。
仲間だった。
ゲイルの槍に雷が走る。
青白い光が広間を横切った。
槍先が男の喉を狙う。
しかし。
硬い音が響いた。
「なに?」
黒い結晶が、喉元を覆っていた。
ゲイルの槍は結晶へ食い込んだまま止まる。
男の巨大な腕が振り上げられた。
ゲイルは槍を引き抜きながら後方へ跳ぶ。
拳が床へ叩きつけられた。
石が砕け、破片が広間へ飛び散る。
「全員、構えろ!」
槍士団が動く。
だが遅い。
残りの四人も、一斉に走り出していた。
「前列、盾を出せ!」
兵士たちが盾を構える。
元兵士たちがぶつかる。
重い衝撃が響き、前列の兵士たちが押し下げられた。
「くっ……!」
「こんな力……」
「押し返せ!」
後列から槍が突き出される。
刃が胸や腹へ刺さった。
だが止まらない。
血が流れても、魔物たちは痛みを感じていないようだった。
一本の槍が黒い結晶に挟まれ、折れる。
魔物の腕が振るわれた。
盾ごと兵士が吹き飛ぶ。
「治療師!」
「前へ出るな!」
怒号が重なる。
ウィルは剣を抜いた。
「左右へ分かれる!」
仲間たちが動く。
正面から五体すべてを受ければ、槍士団の陣形が崩れる。
まずは一体を引き離す。
ウィルは左側にいた元兵士へ向かって走った。
「こっちだ!」
剣を黒い皮膚へ叩きつける。
浅い傷。
元兵士がウィルへ顔を向けた。
その口が開く。
「たす……け……」
次の瞬間、黒い爪が伸びた。
ウィルは剣で受ける。
衝撃が腕へ伝わる。
力だけなら、これまで戦った甲殻獣よりも強い。
さらに二撃目。
横から振るわれた腕を盾で受け流す。
「リディア!」
「分かってる!」
リディアが側面へ回り込む。
短剣で脚の裏を狙う。
刃が入る。
元兵士の身体が傾いた。
「今だ!」
ウィルが肩からぶつかる。
魔物が床へ倒れた。
「鎖を!」
近くの兵士が鎖を投げた。
ウィルとリディアが腕と脚へ巻きつける。
別の兵士も加わり、鎖の端を引いた。
「押さえろ!」
「まだ意識がある!」
魔物が暴れる。
鎖が軋む。
床を爪が削り、石片が飛ぶ。
「薬は!」
ウィルが叫ぶ。
「さっきの薬はもうない!」
リディアが答える。
「残っていないのか!」
「一つだけだった!」
ウィルは歯を食いしばった。
あの道具があれば、進行を止められたかもしれない。
だが、もうない。
「治療師! 毒消しでも呪いを抑えるものでもいい!」
治療師が駆け寄ろうとする。
ゲイルが止めた。
「近づくな!」
「ですが!」
「血が入れば、お前も同じになる!」
治療師の足が止まる。
元兵士の背中が大きく膨らんだ。
鎧が裂ける。
黒い結晶が、肩から一気に伸びた。
「鎖が持たない!」
兵士が叫ぶ。
一本。
鎖が弾けた。
続いてもう一本。
「離れろ!」
ウィルは叫んだ。
元兵士が腕を振り回す。
兵士たちが飛び退く。
ウィルは盾を構え、正面に残った。
拳が盾へ当たる。
身体が後方へ滑る。
「ウィル!」
「まだ大丈夫だ!」
大丈夫ではない。
左腕の感覚が薄い。
それでも退けなかった。
魔物の口元が震えた。
「……ころ……して……」
人間の声だった。
「まだ話せる」
ウィルは息を整えた。
「まだ戻れるかもしれない」
「何を根拠に言っている!」
ゲイルの声が響く。
「さっきの男は、変化を止められた!」
「一時的にだ!」
「それでも止まった!」
「同じ道具はもうないのだろう!」
ウィルは答えられない。
ゲイルの言うとおりだった。
治療法はない。
拘束もできない。
時間を稼ぐ方法すら残っていない。
それでも。
「だから殺すのか」
「本人が望んでいる」
「苦しさで言っているだけかもしれない」
「では、お前はいつまで苦しませるつもりだ」
ゲイルは槍を構える。
「助かる可能性がある限りだ」
「可能性?」
ゲイルの表情が険しくなる。
「その可能性のために、何人犠牲にする」
別の場所で悲鳴が上がった。
槍士団の兵士が、一体の元兵士に押し倒されている。
黒い爪が胸元へ迫っていた。
「離れろ!」
ウィルは駆けようとした。
だが、目の前の魔物が道を塞ぐ。
間に合わない。
雷鳴。
ゲイルの槍が、倒れた兵士へ迫っていた魔物の背中を貫いた。
青白い光が全身を走る。
魔物は激しく痙攣し、その場へ崩れ落ちた。
「大丈夫か!」
ゲイルが兵士を引き起こす。
「は、はい……」
「血は入っていないか」
「分かりません……」
「後方へ下がれ!」
別の魔物がゲイルへ向かう。
ゲイルは振り返りざまに槍を振るった。
穂先が首元へ食い込む。
一撃では止まらない。
元兵士がゲイルの槍を掴む。
手のひらが裂けても構わず、槍を引き寄せる。
「副団長!」
兵士たちが援護しようとする。
「来るな!」
ゲイルは槍を手放した。
相手が体勢を崩す。
腰の短剣を抜き、顎の下へ突き刺した。
深く。
根元まで。
元兵士の身体が止まる。
「……ありが……とう……」
その口から、かすかな声が漏れた。
ゲイルの動きが一瞬止まった。
だが、表情は変えない。
短剣を抜き、倒れた身体を静かに床へ横たえた。
「残り三体!」
兵士が叫ぶ。
ウィルが押さえていた一体。
槍士団と戦っている二体。
そのうちの一体が、槍を受けながら声を上げた。
「ルー……ク……」
先ほど名前を呼んでいた兵士の身体が震える。
「ハロルド……」
それがどの元兵士なのか。
変化によって顔は判別できない。
それでも声だけは、相手へ届いた。
「俺だ……」
ルークが槍を下ろした。
「俺が分かるのか?」
元兵士の動きが鈍る。
伸びた腕が震えながら下がっていく。
「……にげ……ろ……」
「一緒に帰るんだ」
「むり……だ……」
「まだ分からない!」
ルークが一歩近づく。
「戻ってこい、ハロルド!」
「近づくな!」
ウィルとゲイルの声が重なった。
元兵士の口が大きく裂けた。
「にげろおおおおっ!」
叫びとともに、腕が振るわれる。
ルークは動けない。
ウィルは駆けた。
間へ滑り込む。
盾で攻撃を受ける。
衝撃が肩へ突き抜けた。
骨が軋む。
それでも耐える。
「下がれ!」
ルークを突き飛ばす。
元兵士がもう一度腕を上げる。
その脇腹へ、ゲイルの槍が突き刺さった。
「やめろ!」
ウィルが叫ぶ。
ゲイルは止まらない。
槍を捻り、黒い結晶の隙間を広げる。
元兵士が苦しそうに身体を震わせた。
ウィルには、その口元が笑ったように見えた。
「ルー……ク……」
「ハロルド!」
「すま……ない……」
ゲイルが槍を引き抜く。
元兵士の身体が床へ倒れた。
ルークが膝をつく。
「ハロルド……」
返事はない。
広間の別の場所では、残る二体が暴れている。
悲しむ時間はなかった。
「ルーク、下がれ!」
ゲイルが命じる。
だが、ルークは動かない。
「命令だ!」
別の兵士がルークを抱え、後方へ引きずっていく。
ウィルは残る二体へ目を向けた。
一体はすでに槍士団に囲まれている。
もう一体は、リディアたちへ向かっていた。
「そっちは任せる!」
ウィルが走る。
リディアが短剣を構える。
「右腕が来る!」
「分かってる!」
黒い腕が振り下ろされる。
リディアは横へ避ける。
ウィルが側面から脚を斬る。
皮膚は硬い。
一撃では届かない。
もう一度。
同じ場所を狙う。
刃が深く入った。
元兵士が膝をつく。
「縄を!」
「また切られるよ!」
「分かっている!」
「じゃあ、どうするの!」
ウィルにも答えはなかった。
押さえても、薬がない。
このまま拘束すれば、誰かが傷つく。
それでも剣を急所へ向けることができない。
元兵士が顔を上げる。
黒い皮膚の隙間から、涙が流れていた。
「たの……む……」
ウィルの手が止まる。
「俺は……」
「たのむ……」
人間の声が消えていく。
代わりに、低い唸り声が喉から漏れる。
意識が失われようとしている。
「ウィル」
リディアが静かに呼んだ。
「もう……」
「まだだ」
「でも……」
「まだ何かあるかもしれない」
「何があるの」
分からない。
何も思いつかない。
時間だけが過ぎていく。
元兵士の指が伸び、黒い爪へ変わる。
腕が上がる。
ウィルへ向かって振り下ろされる。
ウィルは避けなかった。
剣を構える。
殺すためではない。
受けるために。
だが、その前に。
青白い槍が胸を貫いた。
ゲイルだった。
「なぜ……」
「お前ができないからだ」
元兵士の腕が落ちる。
ウィルの肩へ触れる寸前で止まった。
口がわずかに動く。
「……ありが……」
声は最後まで続かなかった。
身体から力が抜ける。
ゲイルは槍を抜いた。
「これで四体」
「勝手に決めるな」
ウィルが睨む。
「本人が頼んだ」
「それでも――」
「なら、お前が代わりに苦しめ続けるのか」
「助ける方法を探す」
「今、この場でか」
ゲイルは残る一体へ目を向けた。
槍士団が囲んでいる。
兵士たちは攻撃を受け止めながら、何度も名前を呼んでいた。
「戻れ!」
「俺たちだ!」
「分かるか!」
元兵士は反応しない。
唸りながら槍を振るい続ける。
その槍が、兵士の肩をかすめた。
血が飛ぶ。
「血に触れるな!」
別の兵士が負傷者を引き下げる。
「もう時間がない」
ゲイルが言った。
「待て!」
ウィルは最後の一体へ走った。
「聞こえるか!」
元兵士がウィルを見る。
「名前を言え!」
返事はない。
「仲間の名前は分かるか!」
黒い口が開く。
獣のような声だけが漏れた。
「まだだ!」
ウィルは剣で槍を弾く。
「思い出せ!」
元兵士の頭が揺れる。
かすかな声。
「……隊……長……」
「聞こえた!」
ウィルが叫ぶ。
「まだ残っている!」
「残っているからこそ苦しいのだ!」
ゲイルが迫る。
「どけ!」
「断る!」
ウィルはゲイルの前へ立つ。
「お前――」
「もう少しだけ待て」
「その間に誰かが死んだらどうする」
「俺が止める」
「先ほど吹き飛ばされていた男がか」
ウィルは何も言えない。
「救いたいと言うのは簡単だ」
ゲイルの声は低かった。
「だが、救えないと判断する者も必要だ」
「お前は諦めるのが早すぎる」
「お前は諦めるのが遅すぎる」
二人の視線がぶつかる。
その間にも、元兵士は苦しみ続けていた。
身体が膨らみ、結晶が伸びる。
人間の姿が少しずつ消えていく。
「……ころ……」
声が聞こえた。
ウィルは振り返る。
「今、何と」
「ころ……して……」
元兵士が自分の槍を手放した。
両腕を下げる。
「たの……む……」
兵士たちの誰も動かなかった。
ウィルも剣を握ったまま動けない。
ゲイルが前へ出る。
ウィルは止めなかった。
ゲイルは元兵士の正面へ立った。
「名前は」
「……ダン……」
「ダン。王国槍士団の一員として、最後まで命令に従え」
元兵士の身体が震えた。
それが頷いたように見えた。
「目を閉じろ」
目はすでに黒い皮膚に覆われている。
それでもゲイルは言った。
槍を構える。
「終わらせる」
一撃。
槍が胸を貫いた。
ダンの身体が大きく揺れる。
伸びていた結晶が止まる。
「……ありが……とう……ござい……ます……」
最後の言葉は、兵士のものだった。
ゲイルは槍を抜いた。
ダンの身体が、ゆっくりと床へ倒れる。
広間が静かになった。
誰もすぐには動かなかった。
五人の元兵士。
助けを求めた者。
殺してほしいと願った者。
仲間の名前を呼んだ者。
全員が動かなくなっていた。
ルークが、ハロルドのそばへ膝をつく。
変わり果てた手を握ろうとして、途中で止まった。
血に触れてはいけない。
それすらできない。
「すまない……」
声が震えていた。
「俺がもっと早く見つけていれば……」
「違う」
ウィルが言った。
「誰のせいでもない」
「でも……」
「悪いのは、あれを作ったものだ」
通路の先。
赤い光が強くなっている。
鼓動のような音が響く。
ドクン。
ドクン。
倒れた元兵士たちの黒い結晶が、その音に合わせてかすかに光った。
「離れろ!」
ウィルが叫ぶ。
兵士たちが下がる。
黒い結晶が身体から伸び、床へ突き刺さった。
まるで根のように、黒い線が床を走っていく。
その先は、地下へ続く階段だった。
「死体まで取り込むのか」
ゲイルが呟く。
「ここへ置いてはいけない」
ウィルは剣を振るい、床へ伸びた結晶を斬った。
硬い。
一度では切れない。
槍士団の兵士たちも加わる。
槍と剣で何度も叩き、ようやく結晶を砕いた。
元兵士たちの身体から、赤い光が消える。
「運べるか」
ゲイルが尋ねる。
「血に触れずに運べる装備が必要です」
「布で包め。地上へ戻す」
ルークが顔を上げる。
「連れて帰れるのですか」
「遺体だけでもな」
ゲイルは短く答えた。
「槍士団の兵士として葬る」
「はい……」
兵士たちは慎重に遺体を包み始めた。
ゲイルは冷たい男だ。
そう思っていた。
今も、その考えは大きく変わらない。
人を犠牲にすることを受け入れ、必要なら迷わず命を奪う。
だが、何も感じていないわけではない。
ウィルはそれを理解した。
「助けられなかった」
ウィルが呟く。
「そうだ」
ゲイルが答える。
「だが、苦しみを終わらせた」
「それを助けたとは思えない」
「思う必要はない」
ゲイルは槍についた血を拭った。
「お前は救う方法を探せ」
「ああ」
「俺は、見つかるまでに必要な決断をする」
「その決断が間違っていたら」
「責任は俺が負う」
「死んだ者は戻らない」
「分かっている」
ゲイルの声には迷いがなかった。
「だからこそ、迷い続けるわけにはいかない」
ウィルは倒れた元兵士たちを見る。
自分が間違っていたとは思わない。
最後まで救う方法を探したかった。
だが、ゲイルがすべて間違っていたとも言えなかった。
あのまま時間をかけていれば、さらに犠牲が出ていたかもしれない。
「お前は優しい」
ゲイルが言った。
「だが、優しさだけでは誰も救えない」
以前と同じ言葉。
だが今度は、ただの嘲りには聞こえなかった。
「なら、優しさ以外も身につける」
ウィルは答えた。
「救うために必要なものを、すべてだ」
「できると思うか」
「できるかどうかではない」
ウィルは赤い光の先を見る。
「やる」
ゲイルがわずかに笑った。
「なら、見せてもらおう」
遺体を地上へ運ぶ者たちが選ばれた。
負傷者も同時に戻す。
残る者は少なくなった。
それでもゲイルは進むつもりだった。
「本当に行くのか」
ウィルが尋ねる。
「ここで戻れば、同じ被害がまた出る」
「水晶を利用するためではないのか」
「それを判断するためにも、現物を見る必要がある」
「危険なら壊すか」
「壊すべきだと判断すればな」
明言はしない。
だが、進む理由が力を得るためだけではないことも分かった。
「お前たちはどうする」
「行く」
ウィルは迷わなかった。
ここで戻れば、五人の死の原因は残る。
赤い水晶が存在する限り、また誰かが同じ姿になる。
「リディア」
「私は行くよ」
「危険だ」
「ここまで来て、それを言うの?」
「血に触れれば戻れない可能性がある」
「ウィルも同じでしょ」
「ああ」
「なら、一緒に行く」
リディアは真っ直ぐに答えた。
ほかの仲間たちも頷く。
誰も無理に笑わなかった。
五人の死を目の前で見たあとだ。
怖くない者などいない。
それでも進む。
広間の奥。
巨大な石階段が地下へ続いている。
壁には黒い線が這い、階段の下から赤い光が漏れていた。
ドクン。
再び鼓動が響く。
今度は先ほどよりも大きい。
広間全体が、わずかに揺れた。
「下に何かいる」
リディアが言う。
「水晶だけではないかもしれない」
ウィルは剣を握り直す。
助けられなかった命。
最後まで人間として苦しんだ五人。
その姿を忘れない。
「行くぞ」
ゲイルが階段へ足をかける。
ウィルもその横へ並んだ。
先ほどまでなら、ゲイルの背中を追っていた。
今は違う。
同じものを確かめるために、隣を歩く。
二人の考えは交わらない。
それでも、赤い水晶を止めなければならないという目的だけは同じだった。
階段を一段下りる。
赤い光が強くなる。
さらに一段。
空気が熱い。
血のような臭いが鼻を刺す。
やがて階段の先に、巨大な黒い扉が見えた。
扉の中央には、赤い水晶が埋め込まれている。
その水晶の中で。
人の影が動いた。
ウィルは足を止める。
「誰かいる」
ゲイルが槍を向けた。
水晶の中に閉じ込められた人影が、ゆっくりと顔を上げる。
そして。
扉の向こうから、声が響いた。
「ようやく来たか」
人間の言葉だった。




