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【全4巻完結・Amazonで販売中】冤罪で7年間鉱山送りにされた俺、出所後に《ダンジョンガチャ》を手に入れて人生をやり直す  作者: 月瀬 リュカ


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第61話 最深部から届いた知らせ


 朝、目を覚ましたとき、ウィルはしばらく天井を見つめていた。


 身体の痛みはない。


 昨日まで潜っていたダンジョンで負った傷も、すでに治療を終えている。


 それでも、起き上がろうという気にはなれなかった。


 目を閉じると、昨日の戦いが浮かんでくる。


 迫ってきた魔物。


 振り下ろした剣。


 仲間の声。


 そして、戦いが終わったあとに確認した、自分のレベル。


 確かに強くなっている。


 鉱山から出てきたばかりの頃とは比べものにならない。


 あの頃の自分なら、一撃で殺されていた魔物を、今では一人で倒せるようになった。


 装備も増えた。


 スキルも増えた。


 ガチャから得た仲間もいる。


 それでも――。


「まだ足りない」


 ウィルは、小さく呟いた。


 誰に言われたわけでもない。


 ゲイルと直接戦ったわけでもない。


 だが、分かっていた。


 王国槍士団の副団長。


 上位探索者として名を知られ、数多くの高難度ダンジョンを攻略してきた男。


 自分から七年を奪った男は、その七年間を立ち止まって過ごしていたわけではない。


 ウィルが鉱山で石を砕いていた間も、ゲイルは戦い続けていた。


 功績を得て、地位を得て、力を得た。


 こちらが一歩進む間にも、相手はさらに先へ進んでいる。


 その差を、ガチャだけで埋められると思うほど、ウィルは楽観的ではなかった。


 扉が軽く叩かれた。


「ウィル、起きてる?」


「ああ」


 返事をすると、リディアが扉を開けて顔を覗かせた。


 すでに出かける準備を終えている。


「珍しいね。まだ寝てるのかと思った」


「起きていた」


「天井を見てただけ?」


「そうだ」


「それを寝てたって言う人もいると思うけど」


 リディアは苦笑しながら部屋へ入ってきた。


「朝ご飯、できてるよ。みんな待ってる」


「先に食べていていい」


「ウィルが来ないと、たぶん誰も食べないよ」


「なぜだ」


「家族って、そういうものでしょ」


 リディアは当然のように答えた。


 ウィルは何も返せなかった。


 家族。


 その言葉を聞くたび、胸の奥が少しだけ痛む。


 昔の痛みとは違う。


 失ったものを思い出すだけではなく、今、自分のそばにいる者たちを意識させられる痛みだった。


「分かった。すぐ行く」


「うん」


 リディアが部屋を出ていく。


 ウィルはベッドから起き上がり、壁に立てかけていた剣を見た。


 何度も刃を研ぎ、何度も魔物の血を浴びてきた剣。


 この剣で、ゲイルを倒す。


 そう決めていた。


 だが、今のまま挑めば、結果は明らかだった。


 復讐心だけで勝てるほど、戦いは甘くない。


 ウィルは剣を腰に下げ、仲間たちの待つ部屋へ向かった。


     ◇


 朝食を終えたウィルたちが冒険者ギルドへ入ると、いつもとは違う空気が漂っていた。


 多くの冒険者が掲示板の前に集まっている。


 酒場の席に座った者たちも、酒や食事にはほとんど手をつけず、周囲と声を潜めて話し込んでいた。


「何かあったみたいだね」


 リディアが周囲を見回す。


 ウィルも掲示板へ視線を向けた。


 普段なら依頼書が何枚も並んでいる場所に、大きな羊皮紙が一枚だけ貼られている。


 その周囲を、武装した冒険者たちが取り囲んでいた。


「新しいダンジョンらしいぞ」


「新しい?」


「ああ。北の山脈で見つかった」


「また低級ダンジョンじゃないのか?」


「違う。先遣隊が戻ってこない」


「全滅したってことか?」


「分からない。だが、入口付近で見つかった魔物だけでも、最低でAランク相当らしい」


 聞こえてきた会話に、冒険者たちの表情が強張る。


 入口付近の魔物がAランク。


 その意味を理解できない者は、ここにはいなかった。


 ダンジョンは、深く潜るほど強い魔物が現れる。


 入口にいる魔物がすでにAランクなら、最深部に何がいるのか想像もつかない。


「道を開けてくれ」


 ウィルが声をかけると、何人かが振り返った。


 ウィルの顔を確認した冒険者たちが、黙って左右へ分かれる。


 以前なら、誰もウィルのために道を空けることなどなかった。


 鉱山帰りの犯罪者。


 危険な男。


 そんな目で見られていた。


 だが、今は違う。


 ダンジョンの攻略実績を積み重ね、町を守り、人を助けてきた。


 すべての者が冤罪を信じてくれたわけではない。


 それでも、少なくとも冒険者としての力は認められている。


 ウィルは掲示板の前に立ち、羊皮紙を読んだ。


 新たに発見されたダンジョン。


 発見場所は北部山岳地帯。


 内部の詳細は不明。


 先遣隊との連絡は途絶。


 現在、王国が大規模な調査隊を編成中。


 参加条件はAランク以上、もしくは同等の実績を持つ探索者。


 報酬は、これまでに見たどの依頼よりも高額だった。


 しかし、ウィルが見ていたのは報酬ではない。


 羊皮紙の一番下。


 調査隊に参加予定の者として、いくつかの部隊名が記されている。


 その中に、王国槍士団の名があった。


「ゲイルも来る」


 ウィルの口から、無意識に名前が漏れた。


 周囲にいた冒険者たちが静かになる。


 その名前を知らない者はいない。


「ゲイルって、あの雷槍か?」


「王国槍士団の副団長だろ」


「なら攻略は成功したようなもんじゃないか」


「馬鹿を言え。入口でAランクが出るダンジョンだぞ」


「それでも雷槍がいるなら……」


 期待する声。


 恐れる声。


 羨望の声。


 ゲイルは、英雄として語られていた。


 数々のダンジョンを攻略し、魔物から町を守り、王国から勲章を与えられた男。


 ウィルからすべてを奪った男が、人々から英雄と呼ばれている。


 拳に力が入る。


 羊皮紙の端が、わずかに揺れた。


「ウィル」


 リディアの声で、我に返った。


「大丈夫?」


「ああ」


「そうは見えないよ」


「問題ない」


「また一人で決めるつもり?」


 リディアの言葉に、ウィルは黙った。


 以前の自分なら、すぐに北へ向かっていたかもしれない。


 ゲイルがいると分かっただけで、他のことなど考えず追いかけていた。


 だが、今は自分一人ではない。


 仲間がいる。


 自分の判断一つで、その仲間まで危険に巻き込む。


 ウィルは拳から力を抜いた。


「受付で詳細を聞く」


「それから?」


「全員で話す」


 リディアは少し驚いた顔をしたあと、柔らかく笑った。


「うん。そうしよう」


     ◇


 受付で確認できた情報は、掲示板に書かれていたものと大きくは変わらなかった。


 新しいダンジョンは、三日前に発見された。


 山崩れによって塞がれていた洞窟が露出し、その奥に人工的な階段が見つかったという。


 最初に入ったのは、近くを活動拠点としていた冒険者たちだった。


 彼らは入口から数百歩も進まないうちに、見たことのない魔物に襲われた。


 一人だけが生還したものの、重傷を負い、まだ意識が戻っていない。


 その後、王国が先遣隊を送った。


 だが、戻ってこなかった。


「王国は、これまで発見されたどのダンジョンよりも危険度が高い可能性があると判断しています」


 受付の女性が、緊張した表情で説明する。


「参加するのであれば、明日の正午までに登録してください。調査隊は三日後に出発します」


「ゲイルは、いつ来る」


 ウィルが尋ねると、受付の女性は一瞬だけ言葉に詰まった。


「王国槍士団は、現地で合流する予定です。副団長が参加するという話は聞いていますが、詳しい到着時刻までは……」


「そうか」


「ウィルさん」


 受付の女性は、声を落とした。


「余計なことかもしれませんが、今回の依頼は、これまでとは違います」


「分かっている」


「本当に分かっていますか?」


 正面から見つめられる。


「あなたが強いことは、ギルドも認めています。ですが、先遣隊には、あなたより長く活動している冒険者も含まれていました」


「それでも行く」


「ゲイル副団長がいるからですか?」


 ウィルは答えなかった。


 否定するつもりはない。


 だが、それだけでもなかった。


 入口からAランク級の魔物が現れるダンジョン。


 そこには、これまでとは比べものにならない敵がいる。


 大量の経験。


 新しいガチャ報酬。


 ゲイルに追いつくために必要なものが、すべて揃っているかもしれない。


 危険なのは分かっている。


 それでも、ここで立ち止まれば、七年の差は永遠に埋まらない。


「参加登録は、まだしない」


 ウィルは言った。


 受付の女性が目を見開く。


「仲間と話してから決める」


「……分かりました」


 受付を離れ、ギルドの端にある席へ向かう。


 仲間たちはすでに座って待っていた。


 ウィルが席につくと、全員の視線が集まる。


「新しいダンジョンへ行きたい」


 ウィルは、隠さずに話し始めた。


「ゲイルも参加する。だが、今の俺では勝てない」


 口に出すと、胸の奥が重くなった。


 負けを認めるのは嫌いだった。


 弱いと認めるのは、もっと嫌いだった。


 鉱山では、弱さを見せれば奪われた。


 食事も、寝床も、命さえも。


 だから、すべてを一人で抱えることを覚えた。


 だが、そのやり方ではゲイルに勝てない。


「俺は強くなりたい」


 ウィルは仲間たちを見た。


「お前たちの力が必要だ」


 しばらく、誰も話さなかった。


 断られても仕方がない。


 今回のダンジョンは危険すぎる。


 これはウィル個人の復讐でもある。


 巻き込まれる理由などない。


「やっと言ったね」


 リディアが、呆れたように息を吐いた。


「何がだ」


「力を貸してって」


「前にも言った」


「言ってないよ。ウィルはいつも、『俺が行く』『俺が倒す』『俺が何とかする』ばっかり」


「今回は違う」


「うん。だから、断らない」


 リディアが笑う。


 他の仲間たちも、迷うことなく頷いた。


 ウィルは言葉を失った。


「危険だぞ」


「知ってる」


「帰れないかもしれない」


「それも知ってる」


「ゲイルとの戦いに、巻き込むことになる」


「もう巻き込まれてるよ」


 リディアは真っ直ぐにウィルを見つめた。


「ウィルが一人でゲイルに挑んで死んだら、私たちが何とも思わないとでも考えてる?」


「それは……」


「家族なんでしょ」


 朝と同じ言葉だった。


 今度は、胸の奥が痛むだけではなかった。


 長い間、凍っていた何かが、少しだけ溶けたような気がした。


 ウィルは視線を落とす。


「三日後に出発する」


「うん」


「それまでに準備を整える」


「うん」


「一人も死なせない」


「ウィルも含めてね」


 リディアが付け加えた。


 ウィルは少し迷い、頷いた。


「ああ」


 窓の外へ目を向ける。


 北の空には、黒い雲が集まり始めていた。


 その向こうに、新しいダンジョンがある。


 そして、ゲイルも来る。


 七年前。


 ウィルは、何もできないまますべてを奪われた。


 だが、今は違う。


 剣がある。


 力がある。


 帰る場所がある。


 何より、自分の隣で戦ってくれる仲間がいる。


 それでも、まだ足りない。


 足りないのなら、手に入れる。


 追いつけないのなら、追いつくまで前へ進む。


 ウィルは腰の剣へ手を置いた。


 ゲイル。


 今度こそ、お前のいる場所まで辿り着く。


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