第60話 風の頂
風鐘甲虫を倒してから、二日が過ぎた。
その二日間、俺たちは迷宮へ入らなかった。
本当に入っていない。
「誰に言い訳しているんだ?」
冒険者協会の奥にある部屋で、エドガーが言った。
「言い訳ではない」
「なら、何度も言う必要はないだろう」
机の上には、四階の見取り図が広げられている。
正面の石扉。
その先に現れた、壁のない螺旋階段。
階段の上から俺たちを見ていた、翼を持つ大きな影。
「治療師の確認は?」
「受けた。腕に異常はない」
「盾は?」
「ベルクに直してもらった」
《沼甲の円盾》の縁には、新しい補強金具がついている。
風鐘甲虫の角を流したときについた傷も、補修用の油と樹脂で塞がれていた。
「リディアは?」
「魔力も戻っています」
隣に座ったリディアが答える。
「怪我もありません。魔力回復薬も二本あります」
「中治癒ポーションは?」
「俺が二本持っている」
「命綱は」
「《耐切創ロープ》を使う。予備の麻縄も持っていく」
エドガーは一つずつ確認した。
怪我。
装備。
薬。
縄。
戻るための道。
「迷宮主が飛んでいた場合、階段の途中では戦うな」
「ああ」
「上に足場がなければ?」
「戻る」
「縄を固定できる場所がなければ?」
「戻る」
「迷宮主が階段まで降りてきたら?」
「石扉の中まで撤退する」
エドガーが頷いた。
「迷宮主を倒すことより、戦える場所を作ることを先に考えろ」
「ああ」
「それから」
エドガーがリディアを見る。
「ウィルが怪我を隠したら、お前が撤退を決めろ」
「はい」
「俺は隠さない」
「自分で歩ける間は怪我ではないと言う人の言葉は、全部信用できません」
アレナと同じことを言っている。
「痛みがあれば言う」
「どのくらいの痛みですか?」
「戦えないほどだ」
「それでは遅いです」
「少しでも痛ければ言え」
エドガーにまで言われた。
「分かった」
「今の返事は覚えておけ」
◇
翌朝。
俺とリディアは、《風鳴りの塔迷宮》へ入った。
名前:ウィル・クロード
レベル:7
生命力:55
筋力:47
敏捷:39
魔力:35
ダンジョンガチャレベル:2
所持ガチャチケット:6枚
次回11連ガチャまで:あと4枚
迷宮完全攻略数:3
風鳴りの塔迷宮討伐記録:10/10
通常魔物の記録は、すべて埋まっている。
残るのは迷宮主だけ。
一階。
二階。
外通路。
三階。
四角、丸、三角の順に重りを置き、隠し階段を開く。
四階の石室へ入る。
右側の通路から聞こえていた低い音は、もうない。
正面の石扉だけが、開いたまま残っていた。
「上から風が来ています」
リディアが《風読みの耳飾り》へ触れる。
「強さは?」
「弱いです。でも、一定ではありません」
「呼吸のような風か」
「はい」
耳栓は外している。
風鐘甲虫の音は、もう聞こえない。
代わりに、階段の上から下りてくる風が、ゆっくりと強くなり、また弱くなっていた。
俺は安全帯へ《耐切創ロープ》をつなぐ。
反対側を石扉の横へ打った二本の杭へ固定する。
一本ずつ、別の場所へ。
二本とも同時に外れないようにする。
リディアの安全帯も確認した。
「胸」
「はい」
「腰」
「はい」
「両脚」
「閉じています」
「金具」
「二重に閉じました」
「行くぞ」
「はい」
螺旋階段へ足を置く。
左側には、塔の中央を貫く太い石柱。
右側には壁がない。
暗闇の向こうに、遠く地面が見えた。
《岩走りの戦靴》が石段を捉える。
一段。
もう一段。
階段は長い。
何度回ったのか分からなくなるほど、石柱の周囲を上り続けた。
上へ進むほど、風が強くなる。
《風渡りの外套》が銀糸を光らせ、身体へ当たる風を左右へ流す。
「止まってください」
リディアの声。
足を止める。
「上から、風が下りてきます」
石柱へ身体を寄せる。
次の瞬間。
ゴオオオオオッ!
強い風が階段を駆け下りた。
外套が膨らむ。
身体が右へ傾く。
《高所平衡・極》が、重心のずれを伝える。
左足を内側へ。
腰を石柱へ。
盾を下げ、風を上へ逃がす。
足は石段から外れなかった。
「大丈夫ですか!」
「ああ!」
「今の風は、翼の音も混ざっていました!」
迷宮主が起こした風。
階段の上にいる。
まだ姿は見えない。
「下りてこないな」
「待っているんでしょうか」
「上で戦うつもりかもしれない」
俺たちは再び階段を上る。
やがて、頭上に光が見えた。
青白い空。
塔の頂上。
最後の石段を上がる前に、床へ石弾を投げる。
何も起きない。
風見布。
右から左へ、強くなびく。
「先に俺が出る」
「はい」
円盾を構え、頂上へ足を踏み出した。
◇
塔の頂上は、円形の石床だった。
屋根はない。
周囲を囲む壁も、腰ほどの高さしか残っていない。
中央には、螺旋階段を囲んでいた太い石柱の先端が突き出している。
その上に。
大きな鳥がいた。
灰色の羽。
広げれば、円形の石床を半分ほど覆いそうな翼。
太い脚。
岩を砕けそうな鉤爪。
淡い青色に光る二つの目。
鳥が息を吸う。
塔の周囲を流れていた風が、翼へ集まった。
羽根の隙間を通り。
胸へ入り。
低く長い音を生む。
ゴオオオオ……。
《風喰らい大鷲》
迷宮主が翼を広げた。
「杭を打つ!」
「周囲を見ます!」
頂上へ出てすぐ、石床の亀裂へ二本の杭を打つ。
一本は石柱の右側。
もう一本は左側。
命綱を分ける。
リディアの縄も、別の杭へつなぐ。
「固定しました!」
風喰らい大鷲が羽ばたいた。
「右から来ます!」
リディアの声。
盾を右へ向ける。
翼から、白い風が飛んだ。
目には見えない。
だが、石床の埃が細い線になって走っている。
盾を斜めにする。
風が盾へ当たった。
重い。
風鐘甲虫の音とは違う。
身体を押すだけではない。
盾の表面を削る。
白い傷が一本増えた。
風の残りが背後の石柱へ当たり、石の表面を薄く切った。
「風の刃です!」
「ああ!」
正面からすべて受ければ、盾でも長くは持たない。
「《氷針》!」
リディアの前に三本の氷が生まれる。
風喰らい大鷲へ飛ぶ。
大鷲が翼を一度動かした。
横風。
三本の氷がすべて外側へ流された。
「当たりません!」
「風が止まる瞬間を待て!」
大鷲が石柱を蹴った。
飛び上がる。
翼を大きく動かしているようには見えない。
塔の周囲を上昇する風へ乗り、円を描くように飛んでいる。
「上です!」
円盾を頭上へ。
鉤爪が盾へ当たる。
身体が沈んだ。
膝が石床へ触れる。
衝撃緩和の腕輪が熱を持つ。
大鷲は盾をつかめなかった。
そのまま上へ抜ける。
「怪我は?」
「左腕に衝撃だけだ。動く」
「痛みは?」
「少しある」
言った。
リディアが一度だけ頷く。
「次も受けられますか?」
「同じ強さならな」
大鷲が上空で旋回する。
追いかけても剣は届かない。
氷針は風で流される。
「耳飾りで、飛ぶ方向は分かるか」
「近づく風は分かります。でも、塔の風と重なっています」
「分からないときは?」
「分からないと言います」
「ああ」
大鷲が再び息を吸い込む。
ゴオオオオ……。
周囲の風が、一か所へ集まる。
リディアが右耳を押さえた。
「風が減っています」
「何?」
「大鷲の後ろです。翼へ風が集まって、石柱の左側だけ音が弱くなっています」
風を作っているのではない。
塔を流れる風を集め、刃に変えている。
「吸い込んでいる間は、飛べないかもしれない」
「石柱へ止まっています」
「そこを狙う」
俺は石柱の左へ走る。
風喰らい大鷲がこちらを見る。
胸が膨らんでいる。
「《氷針》!」
今度は、風が弱い左側から撃つ。
三本の氷。
一本目は翼へ。
二本目は胸へ。
三本目は風で外れた。
胸へ当たった氷は浅い。
だが、翼へ刺さった一本が羽根の隙間へ残った。
大鷲が鳴く。
「ギィアアアッ!」
集めていた風が乱れた。
翼から白い刃が、複数の方向へ飛ぶ。
「伏せろ!」
盾を地面へ近づける。
リディアも石柱の後ろへ隠れる。
風の刃が石床へ何本もの傷をつけた。
一本が命綱へ向かう。
《耐切創ロープ》の表面が強く震えた。
切れてはいない。
「縄は?」
「残っています!」
大鷲が石柱から飛び立つ。
右の翼。
氷が刺さった場所の動きが、少し遅い。
「もう一度、翼を狙えるか」
「同じ場所なら」
「地面へ下ろす」
「どうやってですか?」
「俺が前へ出る」
「危険です」
「ああ」
「戻れる方法は?」
「縄がある。外套もまだ使っていない」
リディアが大鷲を見る。
次に、俺の安全帯。
杭。
盾。
「一度だけです」
「ああ」
「失敗したら戻ります」
「ああ」
勝手に決めない。
二人で決める。
◇
石床の中央へ出る。
風喰らい大鷲が、上空からこちらを見ている。
盾を剣で叩いた。
硬い音が頂上へ響く。
「来い」
大鷲が翼を畳んだ。
急降下。
「正面です!」
リディアの声。
鉤爪がこちらへ伸びる。
真正面では受けない。
ぎりぎりまで待つ。
一歩、左へ。
円盾を鉤爪の側面へ当てる。
流す。
大鷲の身体が右へずれた。
だが、二本目の脚が伸びてきた。
鉤爪が盾の縁へ引っかかる。
身体ごと引かれた。
足が石床から離れる。
「ウィルさん!」
大鷲が翼を開く。
俺を盾ごと持ち上げようとしている。
命綱が張った。
一つ目の杭が、石床から半分抜ける。
だが。
二本目は残っている。
身体が塔の外側へ振られた。
足元に何もない。
遠く下に、岩場。
大鷲が盾を離した。
落ちる。
身体が背中から回る。
石床が上。
空が下。
《高所平衡・極》が、自分の向きを伝える。
右肩を塔へ。
左脚を下へ。
《風渡りの外套》が大きく広がった。
周囲の風が背中へ回る。
身体の向きが一度だけ変わった。
塔の壁が正面へ来る。
《岩走りの戦靴》の爪先が、螺旋階段の外縁へ当たった。
滑る。
だが、命綱が身体を支えた。
「縄を固定します!」
上からリディアの声。
白い氷が、石床と縄の周囲へ広がる。
抜けかけた杭を、氷が固める。
俺は左手で階段の縁をつかんだ。
右手の剣は離していない。
足を石段へ乗せる。
一段。
もう一段。
頂上へ戻る。
リディアが駆け寄ろうとする。
「来るな!」
大鷲が上空で向きを変えている。
リディアは足を止め、杖を構えた。
俺は石床へ上がる。
「怪我は?」
「左肩を引かれた」
「動かしてください」
腕を上げる。
痛みはある。
だが、骨は折れていない。
「戦えますか?」
「一度なら」
「それでは足りません」
リディアが《探索用ベルト》を指した。
「中治癒ポーションを使ってください」
「まだ動く」
「痛みがあると言いました」
決まり。
怪我を隠さない。
薬を惜しんで、次の一撃を受けられなくなれば意味がない。
中治癒ポーションを一本取り出す。
飲む。
身体の中へ熱が広がる。
左肩の痛みが弱くなった。
「残り一本だ」
「はい」
「お前の魔力は」
「半分より少し下です」
「氷槍は?」
「今のままでも一度。魔力回復薬を飲めば、もう一度使えます」
「飲め」
「まだ使えます」
「俺に言ったことを忘れたか」
リディアが口を閉じた。
青い小瓶を取り出す。
魔力回復薬・小。
一本を飲む。
「残り一本です」
「ああ」
大鷲はすぐには来ない。
右の翼に刺さった氷を、嘴で抜こうとしている。
「地面へ下ろせた」
「でも、また飛びました」
「同じことはしない」
「次は?」
「飛ぶために風を集める場所を壊す」
塔の中央。
石柱。
その周囲を、下から風が吹き上がっている。
大鷲は石柱の上に止まり、風を吸い込んでいた。
「氷壁で風を塞ぎますか?」
「全部は無理だ」
「はい」
「向きを変える」
リディアが石柱を見る。
円形の石床。
右から左へ流れる風。
下から上がる風。
「斜めに氷壁を作れば……」
「ああ」
「大鷲の翼の下へ、風を流せます」
「片方だけにな」
左右の翼へ均等に風が入れば飛べる。
片方だけへ強い風が入れば、姿勢は崩れる。
「私が壁を作ります」
「俺が大鷲を石柱へ戻す」
「どうやって?」
「もう一度、狙わせる」
「また落ちたら?」
「今度は落ちない」
「理由は?」
「落ちたから、次は位置が分かる」
リディアは不安そうだった。
それでも、反対しなかった。
「本当に危険だと思ったら、私が戻ると言います」
「ああ」
「そのときは?」
「戻る」
◇
俺は石柱の前へ立った。
大鷲が上空を旋回する。
右の翼の動きは、まだ少し遅い。
「風が集まります!」
大鷲が高度を上げる。
急降下するため。
俺は剣を構えた。
盾は左。
石柱まで、三歩。
「来ます!」
大鷲が翼を畳む。
正面。
鉤爪ではない。
硬い嘴をこちらへ向けている。
一歩。
まだ。
二歩。
まだ。
嘴が盾へ届く直前。
右へ動く。
円盾を斜めに出す。
嘴が盾の表面を滑る。
大鷲の身体が石柱へ向く。
「今だ!」
「我が前に、冷たき壁を――《氷壁》!」
石柱の左側。
斜めに傾いた氷壁が生まれる。
下から吹き上がった風が、氷壁へ当たった。
右上へ流れる。
大鷲が翼を開いた。
右の翼だけが、強く押し上げられた。
身体が左へ傾く。
鉤爪が石床へ当たる。
着地できない。
「《氷槍》!」
リディアの前に長い氷の槍が生まれた。
大鷲の右の翼。
先ほど氷針が刺さった場所。
氷槍が深く入る。
翼の骨が砕けた。
大鷲が石床へ落ちる。
左の翼を動かし、もう一度飛ぼうとする。
だが、片方では上がれない。
嘴が俺へ向く。
低い音。
胸が膨らむ。
「風の刃が来ます!」
「撃たせない!」
踏み込む。
円盾を嘴の下へ入れる。
頭を上へ押し上げる。
大鷲の喉。
羽根の薄い場所が見えた。
《疾風の鋼剣》を振る。
塔を流れる風が、剣の周囲へ集まる。
刃が加速した。
喉へ入る。
深い。
だが、大鷲は止まらない。
左の翼が俺の身体へ当たる。
外套が風を流す。
足は動かない。
盾で頭を押さえたまま、剣を抜かない。
「リディア!」
「《氷針》!」
三本の氷。
一本目。
喉の傷。
二本目。
剣の横。
三本目。
胸。
傷口の内側から氷が広がった。
大鷲の身体が大きく震える。
左の翼が石床を叩いた。
一度。
二度。
そのあと。
力が抜けた。
すぐには離れない。
剣を抜く。
後ろへ下がる。
石弾を頭へ当てる。
反応はない。
もう一つ。
動かない。
視界へ光が浮かんだ。
《風喰らい大鷲》を初めて討伐しました。
ガチャチケットを1枚獲得しました。
所持ガチャチケット:7枚
《風鳴りの塔迷宮》の迷宮主を討伐しました。
通常魔物討伐記録:10/10
迷宮主討伐:完了
《風鳴りの塔迷宮》を完全攻略しました。
迷宮完全攻略数:4
完全攻略報酬を獲得します。
《風塔狩人》
強風が吹く場所や高所において、周囲の空気の変化を感知しやすくなります。
強風の中での姿勢維持能力と身体能力が上昇します。
全基礎能力が12上昇します。
名前:ウィル・クロード
レベル:7
生命力:55→67
筋力:47→59
敏捷:39→51
魔力:35→47
ダンジョンガチャレベル:2
所持ガチャチケット:7枚
次回11連ガチャまで:あと3枚
迷宮完全攻略数:3→4
風鳴りの塔迷宮討伐記録:10/10
風鳴りの塔迷宮の特性が、今後のガチャ候補へ反映されます。
身体の奥から力が広がる。
脚。
腕。
左肩。
痛みが完全に消えたわけではない。
疲労も残っている。
それでも、自分の身体が以前より軽くなったことは分かった。
「終わりましたか?」
リディアが尋ねる。
「ああ」
「本当に?」
「ああ。完全攻略だ」
リディアの杖が下がる。
膝から力が抜け、その場へ座り込んだ。
「怪我か?」
「違います」
「魔力切れか」
「まだ残っています」
「なら、なぜ座る」
「怖かったからです」
「どのくらいだ」
「十です」
「今までで一番か」
「落ちたウィルさんを見たときは、十二でした」
十を超えている。
「それでも魔法を使った」
「使わないと、ウィルさんが帰れないと思いました」
「ああ」
「私も、帰りたかったです」
リディアが立ち上がる。
まだ脚は少し震えていた。
だが、自分で立った。
「戻れるか」
「はい」
リディアは風喰らい大鷲を見る。
折れた翼。
喉の傷。
石床へ落ちた灰色の羽根。
「二人で帰れます」
「ああ」
魔石。
大きな羽根を数枚。
折れた翼の骨。
鉤爪を一本だけ回収する。
すべてを持ち帰ろうとはしない。
命綱を確認する。
《耐切創ロープ》に深い傷はない。
抜けかけた杭は使わず、残った杭と石柱へ縄を固定し直す。
階段を下りる。
行きと同じように。
一段ずつ。
風は、まだ吹いていた。
迷宮主を倒しても、塔から風がなくなるわけではない。
高所から落ちれば死ぬことも変わらない。
だから縄を外さない。
疲れているからこそ、確認を増やす。
「足元」
「大丈夫です」
「魔力は」
「まだあります」
「肩は」
「ウィルさんの肩です」
「少し痛む」
「治療所へ行きます」
「ああ」
四階。
三階。
外通路。
二階。
一階。
俺たちは、二人で塔を出た。
◇
町へ戻ったあと。
先に治療所へ向かった。
左肩は強く引かれていたが、骨や関節に大きな異常はなかった。
リディアも、魔力と疲労を確認してもらった。
治療師から二日間の休養を言い渡された。
今度は反論しなかった。
冒険者協会へは、迷宮主の討伐と完全攻略だけを報告した。
正式な認定は、調査隊が塔へ入ってからになる。
それでも。
通常討伐記録は10/10。
迷宮主討伐は完了。
完全攻略数は四。
表示は消えない。
夜。
食堂の扉を開ける。
アレナが厨房から顔を出した。
最初に俺の顔を見る。
次に、盾。
左肩。
隣にいるリディア。
「怪我は?」
「治療所で診てもらった」
「大きな怪我は?」
「ない」
アレナがリディアを見る。
「本当?」
「本当です。治療師さんにも確認してもらいました」
「なら、信じる」
俺だけでは信用されなかったらしい。
「塔は?」
「完全攻略した」
アレナの目が大きくなる。
すぐには声が出なかった。
やがて、小さく笑う。
「おかえり」
七年前。
鉱山へ送られた俺を、誰も迎えには来なかった。
暗い坑道から戻っても。
傷を負っても。
明日も生きているか分からなくても。
帰りを待つ人間はいなかった。
今は違う。
盾には、新しい傷がある。
左肩には、まだ少し痛みが残っている。
失った七年間が戻ったわけでもない。
ゲイルが英雄でなくなったわけでもない。
それでも。
俺は今日、迷宮から帰ってきた。
待っている人間がいる場所へ。
「ただいま」
口から出た言葉は短かった。
だが。
七年間、一度も言えなかった言葉だった。
◇
第四章 風鳴りの塔 完
【第四章終了時ステータス】
名前:ウィル・クロード
年齢:23歳
職業:冒険者
レベル:7
生命力:67
筋力:59
敏捷:51
魔力:47
ダンジョンガチャレベル:2
迷宮完全攻略数:4
所持ガチャチケット:7枚
次回11連ガチャまで:あと3枚
【現在のパーティー】
ウィル・クロード
エドガー・リース
※右肩の治療中。迷宮探索は休止。
リディア・ノール
【主な装備】
武器:《疾風の鋼剣》
盾:《沼甲の円盾》
※風喰らい大鷲との戦闘で新しい傷あり。修理が必要。
外装:S《風渡りの外套》
※大きな破損なし。
脚部:R《岩走りの戦靴》
装飾品:《衝撃緩和の腕輪》
手部:《革の戦闘手袋》
防具:《初心者用革防具》
【リディアのパーティー装備】
R《風読みの耳飾り》
滑り止め金具を取りつけた長靴
【主な残存消耗品】
中治癒ポーション×1
魔力回復薬・小×1
【攻略済み迷宮】
《ユーカリ森林迷宮》
《灰晶洞窟迷宮》
《霧の沼迷宮》
《風鳴りの塔迷宮》
Kindle版を出版しました!
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