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【Kindle電子書籍発売中!】冤罪で7年間鉱山送りにされた俺、出所後に《ダンジョンガチャ》を手に入れて人生をやり直す  作者: 月瀬 リュカ


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第50話 風を読む



 《風鳴りの塔迷宮》から戻った翌朝。


 俺とリディアは、冒険者協会の奥にある部屋で、エドガーへ最初の探索結果を報告していた。


 机には、一階の簡単な見取り図。


 回収した《風切りコウモリ》の翼膜。


 それから、塔の中で拾った灰色の羽が並べられている。


「窓から入った風を利用して、広間を旋回していたのか」


「ああ」


「一つの窓を氷で塞いだら、飛び方が乱れました」


 リディアが説明する。


「なるほどな」


 エドガーは左手で翼膜を持ち上げた。


 薄い青色の部分を、窓から入る光へ透かす。


「この膜が風を集めている。身体が軽いだけじゃない。少ない羽ばたきで、塔の中の風へ乗れるようになっているらしい」


「風の刃も、そこから出ていた」


「なら、次に同じ魔物と戦うときは、胴体より先に翼を狙え」


「分かっています」


 リディアが答える。


 昨日も、翼へ《氷針》を当てたことで地面へ落とせた。


「ただ、毎回窓を氷で塞いでいたら、リディアの魔力が先になくなる」


「ああ」


「別の方法で、風を読む必要がある」


 エドガーが机の下から、細長く切った赤い布を取り出した。


 指二本ほどの幅。


 長さは腕一本分ほど。


「何だ、それは」


「風見布だ」


「そういう道具があるのか」


「今、俺が名前をつけた」


 ただの布らしい。


「塔の曲がり角や窓の近くへ結べ。風向きが目で分かる」


 エドガーが布の端を持ち、軽く息を吹きかける。


 赤い布が横へ揺れた。


「羽でも風は読める。だが、戦闘中に毎回投げるわけにはいかん」


「六本あります」


 リディアが布を数える。


「安い布だから、失っても問題ない。ただし、全部同じ場所へ使うなよ」


「分かっている」


「ウィルは分かっていても、必要だと思ったら全部使う」


「そんなことはしない」


「灰晶王蛇のとき、杭を何本打った?」


「必要な数だ」


「持っていた分を全部だろ」


 必要だったから全部使った。


 間違ってはいない。


 リディアが赤い布を三本ずつ分け、俺へ渡した。


「一人で全部持たない方がいいですね」


「ああ」


 俺は《探索用ベルト》へ布を挟む。


「今日、二階まで確認する」


「一階で大きな損傷がなければ、だな」


 エドガーが見取り図を指で叩く。


「塔は上へ行くほど危険になる。階段を上ったからといって、すぐ探索範囲を広げるな」


「二階の入口付近だけだ」


「戻る判断は?」


「俺かリディアのどちらかが危険だと言ったら戻る」


「よし」


 エドガーは満足そうにうなずいた。


「それから、安全帯は一階からつけておけ」


「一階の床は崩れていなかった」


「昨日無事だった床が、今日も無事とは限らん」


「……分かった」


 リディアが、俺の横で大きくうなずいている。


「今の返事は聞きました」


「ああ」


「入口で確認します」


「自分の分だけ確認しろ」


「ウィルさんの分も確認します」


 仲間が増えるたび、確認されることも増えている気がする。


     ◇


 《風鳴りの塔迷宮》へ入る前。


 リディアは本当に、俺の安全帯を確認した。


 胸。


 腰。


 両脚。


 革帯を一つずつ引き、金具が閉じているか確かめる。


「少しきつくないか」


「緩いより安全です」


「動きにくい」


「剣は振れますか?」


 《疾風の鋼剣》を抜き、横へ振る。


 革帯が肩へ触れるが、動きを止めるほどではない。


「振れる」


「なら大丈夫です」


「お前の方は」


「自分で確認しました」


「見せろ」


「私は大丈夫です」


「俺だけ確認されるのはおかしい」


 リディアの安全帯も確認する。


 背中の金具。


 太腿の革帯。


 右側の留め具が、少しだけ浅かった。


「ここを締めろ」


「えっ」


「外れかけている」


 リディアの顔が青くなる。


「確認したつもりでした」


「だから二人で見る」


「はい……」


 締め直したあと、塔へ入った。


 一階の円形広間には、昨日と同じように複数の風が吹いている。


 壁の細い窓。


 上階へ続く階段。


 中央の太い石柱。


 風がぶつかるたび、低い音が塔の中へ響く。


 オオオオオ……。


 俺は窓の近くへ、赤い風見布を一本結んだ。


 布が左上へ強くなびく。


「昨日より、少し風が上向きです」


 リディアが言う。


「ああ」


 もう一本。


 階段の手すりへ結ぶ。


 こちらは、ほとんど真横へ流れた。


 同じ広間でも、場所によって風向きが違う。


「上だけ見ないでください」


 リディアが杖を構える。


「分かっている」


 昨日、風切りコウモリがいた場所へ近づく。


 石柱の陰。


 天井。


 窓の縁。


 何もいない。


 階段へ足を乗せたとき。


 赤い布の向きが変わった。


 真横へ流れていた布が、急に下へ垂れる。


「風が止まった」


「何かが塞いでいます」


 頭上を見る。


 石柱の向こうから、黒い影が二つ現れた。


《風切りコウモリ》


 昨日と同じ魔物。


 今度は二体だった。


「二体……」


「下がるか」


 リディアが杖を握る。


「まだ戦えます」


「なら、一体ずつ落とす」


 風切りコウモリが広間を旋回する。


 一体が高く。


 もう一体は低く。


 同時に翼の端が青く光った。


「右から来ます!」


 風見布が大きく揺れる。


 円盾を斜めに構える。


 二枚の風の刃。


 一枚は盾へ当たり、右側へ流れた。


 もう一枚は頭上を通る。


 背後の壁へ細い傷が入った。


「高い方を狙え!」


「《氷針》!」


 三本の氷が飛ぶ。


 リディアは、風見布の向きを見て、最初から右側へ狙いをずらしていた。


 風が氷を左へ押す。


 一本が、高い位置にいたコウモリの翼へ刺さった。


 黒い身体が揺れる。


 だが、落ちない。


 低い方のコウモリが、リディアへ向かってくる。


「前へ出るな!」


 俺は二人の間へ入る。


 円盾を正面ではなく、少し上へ向ける。


 風切りコウモリが風の刃を放つ。


 盾へ当たった風が、上へ流れた。


 その流れに巻き込まれ、コウモリの身体が少し浮く。


「今だ!」


「《凍結》!」


 白い冷気。


 低空を飛んでいたコウモリの片翼へ、薄い氷が広がる。


 重さに耐えられず、石の床へ落ちた。


 すぐに走る。


 牙を見せて飛び上がろうとする首へ、剣を振り下ろす。


 一体目。


 頭上から、風の音。


「ウィルさん、後ろ!」


 振り返る。


 翼を傷つけられたもう一体が、真っすぐこちらへ降下している。


 剣を戻す時間がない。


 《沼甲の円盾》を上げた。


 黒い身体が盾へ激突する。


 重い。


 足が一歩下がった。


 だが、盾の表面が衝撃を広げる。


 腕だけを持っていかれない。


 コウモリが跳ね返る。


「《氷針》!」


 近い距離。


 三本のうち二本が、胴体へ刺さった。


 床へ落ちる。


 俺は剣を持ち替え、首へ突き立てた。


 動きが止まる。


 新しいガチャチケットは出ない。


 一度倒した種類だからだ。


「二体でも倒せました」


 リディアが息を整える。


「ああ」


「昨日より、魔力も使っていません」


 《氷針》と《凍結》を一度ずつ。


 《氷壁》を使わず、風見布と盾で流れを変えた。


「布は使える」


「エドガーさんに報告できますね」


「ああ」


 魔石と翼膜を回収する。


 階段の前へ戻り、上を見る。


「今度こそ二階ですね」


「ああ」


 安全帯の背中へ、短い縄をつなぐ。


 反対側を階段の手すりへ通した。


 一つ先の場所へ進むたび、縄をつなぎ替える。


「面倒です」


「落ちるよりいい」


「昨日、私が言ったことです」


「正しいから使った」


 リディアが少し笑った。


     ◇


 二階へ続く階段は、半分ほど上ったところから外壁に近づいていた。


 右側には石壁。


 左側には低い手すり。


 その向こうは、一階の広間まで吹き抜けている。


 下を見る。


 石の床が遠い。


 落ちれば、腕輪があっても助からない可能性が高い。


「怖さは」


「八です」


「上がったな」


「下を見たので」


「見ない方がいい」


「足元を確認しないと歩けません」


 間違ってはいない。


 風が吹く。


 階段の外側から内側へ。


 盾を斜めにし、身体へ当たる力を流す。


 リディアは手すり側ではなく、壁側を歩く。


 安全帯につないだ縄が、手すりへ触れる音。


 一段。


 もう一段。


 二階の床が見えた。


「あと少しです」


 リディアが言った直後。


 右側の石壁が動いた。


「止まれ!」


 灰色の塊が、壁の上を横へ走る。


 石と同じ色。


 四本の脚。


 長い尾。


 身体は、大型犬ほどある。


《壁走りトカゲ》


 壁と天井の境目を走り、俺たちの真上へ移動した。


「上です!」


 リディアが杖を向ける。


「撃つな。狭い!」


 階段の途中。


 魔法を避けようとして身体を動かせば、落下する危険がある。


 壁走りトカゲの喉が膨らんだ。


 次の瞬間。


 短い突風が吹きつける。


「っ!」


 盾を向ける。


 風そのものに攻撃力はない。


 だが、階段の外側へ身体を押された。


 右足が段から外れる。


 安全帯の縄が張った。


 胸と腰。


 両脚へ力が分散する。


 身体は手すりの外へ出たが、落ちない。


「ウィルさん!」


「動くな!」


 片手で手すりをつかむ。


 《革の戦闘手袋》が、古い石を捉えた。


 身体を引き上げる。


 戦靴の爪先を階段へかけた。


 壁走りトカゲが、もう一度喉を膨らませる。


「《氷針》!」


 リディアの氷が飛ぶ。


 狙いは魔物ではない。


 壁走りトカゲの前にある壁。


 氷針が刺さり、その周囲へ霜が広がった。


 魔物が足を置く。


 滑った。


 四本の脚のうち、前脚二本が壁から離れる。


 突風が止まった。


 俺は階段へ身体を戻す。


「今です!」


 壁走りトカゲが、尾だけで石壁へ張りついている。


 剣は届かない。


 俺は《探索用ベルト》から、投擲用石弾を取り出した。


 凍った前脚へ投げる。


 命中。


 片方の爪が外れた。


 もう一つ。


 尾の付け根へ当てる。


 壁走りトカゲの身体が、完全に石壁から離れた。


 階段へ落ちてくる。


「下がれ!」


 リディアと一緒に二階側へ動く。


 壁走りトカゲが階段へ激突した。


 すぐに起き上がる。


 近い。


 口を開き、俺の脚へ噛みつこうとする。


 円盾を下げる。


 牙が盾の縁へ当たった。


 前へ押し返す。


 壁走りトカゲの身体が横へずれた。


 長い尾が振られる。


 肩へ当たる直前、盾で受ける。


 衝撃が広がった。


 足は階段へ残っている。


「《凍結》!」


 白い冷気が、後ろ脚へまとわりつく。


 完全には止まらない。


 だが、踏み込む力が弱くなった。


 《疾風の鋼剣》を突き出す。


 首の下。


 柔らかい部分へ刃が入る。


 壁走りトカゲが暴れる。


 剣を抜く。


 もう一度。


 同じ場所へ深く突き込んだ。


 身体から力が抜ける。


 階段の外へ落ちないよう、尾をつかむ。


 重い。


 リディアも安全帯の縄を外し、尾を持った。


 二人で二階の床へ引き上げる。


《壁走りトカゲ》を初めて討伐しました。


ガチャチケットを1枚獲得しました。


所持ガチャチケット:8枚


風鳴りの塔迷宮討伐記録:2/10


「安全帯がなければ……」


 リディアが、俺の胸元を見る。


「ああ。落ちていた」


「つけてきて、よかったです」


「ああ」


「最初から最後まで必要ですね」


「場所による」


「今のあとでも、そう言うんですか?」


「広い部屋の中央なら、縄が足へ絡む」


「では、階段と外壁の近くでは必ずです」


「ああ」


 それなら正しい。


 壁走りトカゲの魔石を回収する。


 脚の先には、透明な膜がついていた。


 これで石壁へ張りついていたらしい。


「売れるでしょうか」


「協会で調べてもらう」


 リディアが二階を見回す。


 円形の通路。


 一階より天井が低い。


 中央には、下階へ続く大きな吹き抜け。


 外壁側には、いくつもの窓と崩れた穴がある。


「入口付近だけ確認します」


「ああ」


     ◇


 二階の通路へ、風見布を一本結ぶ。


 布は、塔の外側へ向かって強く引かれた。


「一階とは逆です」


「外へ吸い出されている」


 窓から風が入る場所だけではない。


 塔の内部を通った風が、外へ抜ける場所もある。


 通路の先へ進む。


 床に、白い線が残っていた。


「協会の印です」


 以前ここまで来た冒険者が、進路を記録したものだ。


 安全な床。


 崩れやすい場所。


 壁には簡単な矢印も書かれている。


 白い線に沿って進む。


 正面に、外壁が大きく崩れた場所があった。


 幅は十歩ほど。


 通路の左側が、塔の外へむき出しになっている。


 遠くに森と街道が見えた。


 下には岩場。


 風が、横から強く吹き込んでいる。


 リディアが足を止めた。


「ここを通るんですか?」


「今日は通らない」


 偵察範囲は入口付近だけだ。


「向こうに階段があります」


 崩れた場所の先。


 三階へ続く石階段が見える。


 だが、その前に十歩ほどの外通路を渡る必要がある。


「次に進むなら、縄を二本使う」


「壁へ杭も打ちます」


「ああ」


 風見布を、崩れた壁の近くへ結ぶ。


 布が激しくはためいた。


 ちぎれそうなほど強い。


 そのとき。


 布が、急に下へ引かれた。


「何か来ます!」


 塔の外。


 下から、白い影が上昇してくる。


 細長い翼。


 鋭く尖った嘴。


 身体の周囲には、薄い風の渦があった。


《風槍ツバメ》


 一羽。


 白い鳥が、崩れた外壁の前を旋回する。


 すぐには襲ってこない。


 こちらを見ながら、風の強さを確かめるように翼を傾けている。


「戻りますか?」


「階段まで間に合うか」


 風槍ツバメが、身体を反転させた。


 嘴をこちらへ向ける。


 周囲の風が細く集まる。


「来る!」


 白い身体が、一直線に飛んできた。


 速い。


 円盾を斜めに構える。


 風槍ツバメの嘴が盾へ当たった。


 金属を打つような音。


 衝撃。


 盾全体へ広がる。


 それでも、身体が二歩押された。


 戦靴が床を捉える。


 安全帯の縄が、壁へ打った杭との間で張った。


 落ちない。


 風槍ツバメは盾を蹴るようにして離れ、外へ戻った。


「盾が……」


「壊れていない」


 表面に細い傷。


 泥ガメの甲羅までは届いていない。


「次は、私を狙うかもしれません」


「ああ」


「《氷針》を撃ちます」


「今は当たらない」


 横風が強い。


 距離もある。


 リディアが狙いをずらしても、魔物自身が風へ乗って軌道を変える。


「では、どうしますか?」


「風の弱い場所を作る」


 俺は崩れた外壁へ背を向けるように立った。


 円盾を、風に対して斜めへ構える。


 盾の後ろ。


 そこだけ風が弱くなる。


「俺の後ろへ入れ」


 リディアが、盾の陰へ移動する。


 外套の裾が静かになった。


「風が弱いです」


「ここから撃て」


「でも、ウィルさんに当たります」


「俺が動いたあとだ」


 風槍ツバメが、外で大きく旋回する。


 二度目の突進。


 今度は、リディアを見ている。


「詠唱を始めろ」


「はい」


 リディアが盾の後ろで杖を構える。


「冷たき針よ」


 風槍ツバメの嘴へ、風が集まる。


「我が敵を貫け――」


 距離が縮まる。


 十歩。


 八歩。


 五歩。


「今だ」


 俺は盾を横へ倒した。


 正面から流れていた風が、急に変わる。


 盾の後ろにあった風の弱い場所。


 そこへ風槍ツバメが飛び込んだ。


 翼が一瞬、支えを失う。


 身体が沈んだ。


 俺は横へ踏み出す。


「《氷針》!」


 三本の氷。


 風の弱い場所から放たれた。


 一本が嘴の横。


 一本が胸。


 もう一本が翼へ刺さる。


 風槍ツバメの軌道が崩れた。


 石の床へ、身体を擦りながら落ちる。


「まだ動きます!」


 翼を広げ、外へ逃げようとする。


 俺は円盾を正面へ突き出した。


 外への道を塞ぐ。


 風槍ツバメが方向を変える。


 中央の吹き抜けへ向かう。


「《凍結》!」


 リディアの冷気が、傷ついた翼を凍らせた。


 完全には広がらない。


 白い鳥が床へ落ちる。


 嘴をこちらへ向け、短く突進する。


 速さはない。


 盾で嘴を横へ流す。


 首が伸びた。


 《疾風の鋼剣》を振る。


 白い首へ刃が入った。


 風槍ツバメの身体が止まる。


《風槍ツバメ》を初めて討伐しました。


ガチャチケットを1枚獲得しました。


所持ガチャチケット:9枚


風鳴りの塔迷宮討伐記録:3/10


3種類の魔物を討伐しました。


報酬を獲得します。


《風圧耐性・小》


強風や風魔法を受けた際、姿勢を崩されにくくなります。


風による切創や落下を無効化する能力ではありません。


 身体の周囲を、弱い風が通り抜けた。


 先ほどまで強く感じていた横風が、わずかに軽くなる。


 風が消えたわけではない。


 押される力に、身体が反応しやすくなったような感覚だった。


 さらに、別の表示が続く。


経験値が一定値に到達しました。


レベルが6から7へ上昇しました。


生命力が3上昇しました。


筋力が2上昇しました。


敏捷が2上昇しました。


魔力が2上昇しました。


名前:ウィル・クロード

レベル:6→7

生命力:52→55

筋力:45→47

敏捷:37→39

魔力:33→35

ダンジョンガチャレベル:2

所持ガチャチケット:9枚

次回11連ガチャまで:あと1枚

迷宮完全攻略数:3

風鳴りの塔迷宮討伐記録:3/10


 身体の奥から、力が広がる。


 脚。


 腕。


 剣を握る手。


 完全攻略報酬ほど急激な変化ではない。


 それでも、先ほどまでより身体が軽い。


「レベルが上がりましたか?」


「ああ。6から7だ」


「おめでとうございます」


「ありがとう」


 風槍ツバメの魔石を回収する。


 嘴は、細い金属槍のように硬い。


 翼にも、風切りコウモリとは違う青い筋が通っていた。


「素材も持ち帰る」


「はい」


 リディアが、三階へ続く階段を見る。


 俺も見る。


 風は強い。


 だが、《風圧耐性・小》を得た今なら、先ほどより進みやすいかもしれない。


「ウィルさん」


「分かっている」


「まだ何も言っていません」


「今日は戻る」


 リディアが安心したように息を吐いた。


「はい」


「魔力は」


「半分より少し下です」


「俺の安全帯の縄も、表面が削れている」


 風槍ツバメの一撃を受けたとき、強く張った。


 今すぐ切れるほどではない。


 だが、このまま上へ進む理由はない。


「次は縄を交換してからだ」


「エドガーさんにも、二階の風を報告します」


「ああ」


 風見布を一本だけ残す。


 次に来たとき、風向きが変わっているか確認するためだ。


 残りは回収した。


 来た道を戻る。


 階段では、安全帯の縄を一つずつつなぎ替える。


 壁走りトカゲがいた場所。


 風切りコウモリと戦った広間。


 同じ道。


 だが、入ったときより足取りは軽かった。


 レベルは7。


 討伐記録は3/10。


 所持ガチャチケットは9枚。


 次の11連まで、あと1枚。


 風は目に見えない。


 それでも。


 布の揺れ。


 盾へ伝わる圧力。


 翼の傾き。


 仲間の声。


 見えないものを読む方法は、少しずつ増えていた。


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