第14話 初めての11連ガチャ
ウィルの指が、《はい》へ触れた。
所持していた10枚のガチャチケットが、淡い光へ変わる。
光は父親の剣へ吸い込まれ、錆びた刀身の周囲をゆっくりと回り始めた。
11連ガチャを実行します。
目の前に、白い光が十個並ぶ。
その最後尾には、ほかより強く輝く青白い光が一つ浮かんでいた。
「最後が、R以上の枠か」
合計十一個。
何が出るのかは分からない。
ウィルが自分の意思で集めたチケットだったが、結果を選ぶことはできなかった。
その感覚に、少しだけ身体が強張る。
鉱山刑務所では、食事も、仕事も、眠る時間も選べなかった。
何を与えられるかは、すべて看守が決めていた。
だが、これは違う。
結果は選べなくても、ガチャを引くと決めたのは自分だ。
「開けよう」
ウィルが最初の光へ触れる。
白い光が弾け、小さな瓶が現れた。
レアリティN。
《小治癒ポーション》×2
浅い傷を治療する低級回復薬です。
ウィルは一本を手に取った。
透明な瓶の中に、薄い緑色の液体が入っている。
「治療院へ行けないときに使えるな」
《小治癒》を使えば傷を治せる。
だが、魔力を消費する。
頭痛や疲労が強いときには、ポーションの方が安全かもしれない。
二つ目の光へ触れる。
レアリティN。
《低級魔石》×3
魔道具の燃料や売却に使用できます。
「魔物から取れるものと同じか?」
見た目は、スライムが残す魔石に似ていた。
ただし、大きさや形がきれいに揃っている。
売ることもできるが、魔道具の燃料として残しておく方がいいかもしれない。
三つ目。
レアリティN。
《保存食セット》×3
白い固焼きパン、干し肉、乾燥果実の組み合わせです。
目の前に、布で包まれた小さな袋が三つ現れた。
ウィルは中を開ける。
硬そうなパンだったが、色は白い。
黒パンではない。
指で押してみると、鉱山で支給されていたものほど硬くもなかった。
「迷宮へ持っていける」
食事を抜いたまま戦えば、判断が鈍る。
これまでの探索は短時間で終えていたが、階層が増えれば、迷宮にいる時間も長くなるだろう。
四つ目の光が弾ける。
レアリティN。
《携帯砥石》
剣や刃物の簡単な手入れに使用できます。
手のひらほどの細長い石だった。
表面は滑らかで、革のケースに収められている。
父親の剣は古い。
初心者特典で手に入れた片手剣も、魔物を斬るたびに少しずつ傷んでいる。
道具を長く使うためには、手入れが必要だった。
「使い方を教えてもらった方がいいな」
間違った角度で研げば、かえって刃を傷めるかもしれない。
武器屋か、防具の修理職人へ聞いてみよう。
五つ目。
レアリティN。
《補修用革》
軽装防具や革製品の補修に使用できる素材です。
厚みのある革が、数枚束ねられている。
ウィルが使っている革防具と、よく似た色だった。
防具職人へ渡せば、修理代を少し抑えられるかもしれない。
「必要なものが多いな」
今のところ、役に立たない品は一つも出ていない。
武器や強力な魔法ばかりではない。
だが、生活や探索を続けるために必要なものが揃っている。
六つ目の光へ触れた。
レアリティN。
《投擲用石弾》×10
投げやすい形に加工された石の弾です。
丸みのある灰色の石が、革袋に入って現れた。
大きさも重さも、すべて同じだった。
ウィルは一つ取り出し、手のひらに載せる。
樹上猿が集めていた石よりも、わずかに重い。
表面には指がかかりやすいよう、浅いくぼみがついていた。
「これなら、大針蜂にも当てやすいかもしれない」
使えばなくなる。
無駄に投げるつもりはない。
それでも、普通の石を探す手間がなくなるのは大きかった。
七つ目。
レアリティN。
《簡易魔石灯》
低級魔石を燃料として使用する携帯照明です。
小さな金属製の灯りだった。
取っ手がついており、腰へ下げることもできる。
側面の蓋を開くと、先ほど手に入れた低級魔石を入れられるようになっていた。
「第三階層が暗ければ使える」
第二階層までは、木々の隙間から光が入っていた。
だが、さらに下へ進めば、太陽の光が届かない場所もあるかもしれない。
八つ目の光へ触れる。
白い光が弾け、金属の音が食卓へ響いた。
レアリティN。
《修繕用釘セット》
木材の修繕に適した釘50本と、小型の金槌のセットです。
ウィルは、しばらく表示を見つめた。
戦闘には使えない。
迷宮攻略にも、直接は役立たない。
それでも、今回のガチャで出た中で、最も嬉しい品の一つだった。
家の屋根を直すためには、板や防水布だけでなく、釘も必要になる。
アレナの父親が持ってきてくれたものを、いつまでも借り続けるわけにはいかない。
「家にも使えるんだな」
《ダンジョンガチャ》は、魔物と戦うためだけの力ではない。
自分の生活を取り戻すための道具も出る。
ウィルは釘の入った木箱を、母親の作業机の近くへ置いた。
九つ目の光へ触れる。
白い光が大きく広がった。
その中から、見覚えのある円形の盾が現れる。
レアリティN。
《初心者用円盾》
初心者向けに作られた、扱いやすい円盾です。
「同じ盾……」
今使っているものと、まったく同じだった。
大きさ。
形。
金属の縁。
裏側に取りつけられた革の持ち手。
違うのは、傷一つないことだけだ。
ウィルが使っている円盾は、現在、防具修理店へ預けている。
角ウサギ。
大針蜂。
樹上猿。
牙猪。
何度も攻撃を受け、金属の縁が歪んでいた。
「新しい方を使えばいいのか?」
視界に、新しい文字が表示された。
同名装備を確認しました。
同名装備は、以下のいずれかの方法で使用できます。
・通常装備として使用する
・売却する
・《装備統合》の素材として使用する
「装備統合……」
以前、スキルの説明を確認したときに、名前だけは表示されていた。
だが、同じ装備がなかったため、詳しい内容までは分からなかった。
ウィルは《装備統合》へ意識を向ける。
《装備統合》
同名の装備を一つに統合し、基礎性能を上昇させます。
一回目の統合:防御力および耐久力がわずかに上昇。
二回目の統合:防御力および耐久力が上昇。
三回目の統合:装備が進化し、名称、形状、性能が変化します。
統合素材として使用した装備は消滅します。
「同じ盾が、無駄にならないのか」
新品の盾を、そのまま使うこともできる。
今まで使っていた盾を修理せず、新しいものへ交換する方法もある。
だが、古い盾はまだ壊れていない。
何度もウィルの命を守ってくれた。
ただ捨てるつもりはなかった。
同じ装備を吸収させれば、さらに丈夫になる。
「統合する」
ウィルが選択しようとすると、新しい表示が現れた。
統合対象となる装備が、現在近くにありません。
対象装備を手元へ用意してください。
「修理店か」
預けた盾を受け取るのは、明日の朝だ。
ウィルは新品の円盾を《アイテムボックス》へ収納した。
修理された盾を受け取ってから、統合を試すことにする。
十個目の白い光へ触れる。
レアリティN。
《体力回復薬》
肉体疲労を軽減する低級薬です。
傷を治療する効果はありません。
瓶の中には、薄い橙色の液体が入っていた。
小治癒ポーションとは違い、傷ではなく疲労へ作用するらしい。
連戦で身体が重くなったときや、逃げる力を残しておきたいときに使える。
ただし、疲労を感じなくなっただけで身体の限界を超えて動けば、かえって危険かもしれない。
「無理をするための薬ではないな」
使う場面は慎重に選ぶ必要がある。
残ったのは、青白く輝く最後の光。
11枠目。
レアリティR以上が確定している枠だ。
ウィルは、ゆっくりと手を伸ばした。
指先が触れた瞬間、青白い光が室内いっぱいに広がる。
光が収まったあと、銀色の腕輪が食卓の上へ落ちた。
レアリティR。
《衝撃緩和の腕輪》
盾で攻撃を防御した際、装備者の腕や身体へ伝わる衝撃をわずかに軽減します。
特殊効果は、ウィル・クロードが装備した場合のみ発動します。
攻撃そのものを無効化する効果はありません。
「衝撃を軽くする……」
牙猪の肩が盾へ掠めただけで、左腕は長い間痺れていた。
角ウサギの攻撃も、何度も受ければ肩や肘へ負担が残る。
この腕輪があれば、盾を使ったときの負担を減らせる。
ただし、表示には「わずかに」と書かれている。
牙猪の突進を正面から受け止められるようになるわけではない。
「試してみよう」
ウィルは銀色の腕輪を左手首へ通した。
見た目より軽い。
手首へ触れた瞬間、腕輪が淡く光り、ウィルの太さに合わせて縮んだ。
硬くも、きつくもない。
腕を振っても邪魔にならなかった。
装備者を確認しました。
《衝撃緩和の腕輪》の特殊効果が有効になりました。
これで、11連ガチャは終了したらしい。
並んでいた光がすべて消える。
所持ガチャチケット:0枚
ウィルは、食卓へ並んだ品々を見渡した。
回復薬。
魔石。
保存食。
砥石。
補修用の革。
投擲用の石。
魔石灯。
家の修繕に使える釘。
新品の円盾。
体力回復薬。
そして、衝撃を軽減する腕輪。
剣や強力な攻撃魔法は出なかった。
それでも、外れだとは思わなかった。
どれも、今のウィルが生き続けるために使えるものだった。
◇
ウィルは、手に入れた品を一つずつ整理した。
ポーションと体力回復薬は、《アイテムボックス》の取り出しやすい位置へ収納する。
保存食も、三つに分けたまま保管した。
低級魔石のうち一つを、簡易魔石灯へ入れてみる。
側面の留め具を閉じると、灯りの内部に淡い白色の光が生まれた。
ランプの火より少し弱い。
だが、風が吹いても消えることはない。
腰へ下げれば、両手も自由になる。
「燃料は、どのくらい保つんだ?」
魔石灯へ意識を向ける。
低級魔石一個につき、連続使用可能時間は約8時間です。
「一日分は使える」
迷宮へ入るときだけ点灯すれば、さらに長く使えるだろう。
ウィルは光を消し、《アイテムボックス》へ収納した。
投擲用石弾は、樹上猿から拾った石と比べる。
ガチャから出た石の方が、形が揃っていた。
同じ力で投げれば、軌道も安定しそうだ。
だが、全部を迷宮へ持っていく必要はない。
まずは三つだけ、腰の革袋へ入れることにした。
残りは家へ置いておく。
修繕用釘の木箱を開く。
釘は長さごとに分けられていた。
小型の金槌も、ウィルの手にちょうど収まる。
つるはしを握り続けて厚くなった手には、少し小さく感じた。
それでも、屋根の上で使うなら、重い金槌より扱いやすい。
ウィルは、昨日銀貨を入れた木箱へ目を向ける。
屋根の修理代は、銀貨2枚と銅貨20枚。
必要なのは、最低でも銀貨10枚以上だ。
まだ足りない。
だが、釘の一部は用意できた。
「一つずつだな」
金が貯まるのを待つだけではない。
使える材料が手に入れば、それも積み重ねになる。
ウィルは修繕用釘を、屋根の金を入れている箱の横へ置いた。
それから、母親の作業机に残されている糸巻きを見る。
補修用革も、アレナなら何かに使えるかもしれない。
だが、防具を直すために必要になる可能性が高い。
まずは職人へ見せるべきだろう。
最後に、《衝撃緩和の腕輪》へ触れた。
銀色の表面には、飾りらしいものがほとんどない。
目立たない。
犯罪者として噂になっているウィルには、その方がよかった。
◇
翌朝。
ウィルは防具修理店へ向かった。
店へ入ると、職人が作業台の上へ円盾と革の胸当てを置いていた。
「ちょうど終わったところだ」
歪んでいた盾の縁は、元の形へ近い状態まで戻されている。
だが、完全ではない。
牙猪の肩が当たった場所は、わずかに波打っていた。
「使えるが、前にも言ったとおり、金属は弱くなっている」
職人が盾の縁を叩く。
「次に牙猪のような重い魔物を受けたら、今度こそ曲がるか、割れると思え」
「分かりました」
「本当に分かっている顔か?」
「同じ盾が手に入った」
「買ったのか?」
「似たようなものです」
ウィルは《ダンジョンガチャ》について話さなかった。
職人も、詳しく尋ねなかった。
「なら、新しい盾を使え。これは予備にすればいい」
「古い方も使う」
「二枚同時に持つつもりか?」
「そうではない」
装備統合のことは、説明しても信じてもらえないだろう。
ウィルは修理代の銅貨16枚を払った。
そのあと、《アイテムボックス》から補修用革を取り出す。
「これを修理に使えますか?」
職人は革を受け取り、指で表面を押した。
裏返す。
匂いも確かめる。
「悪くない革だ。どこで手に入れた?」
「報酬です」
「軽装防具の補修なら使える。今の胸当てと腕当てを二、三回直せる量はあるな」
「預けておいてもいいですか?」
「構わん。次から材料代は引いてやる」
「お願いします」
修理代を少し減らせる。
これも、屋根へ回せる金が増えるということだった。
「砥石の使い方も教えてほしい」
ウィルが携帯砥石を見せると、職人はさらに眉を上げた。
「今日は妙な物をいろいろ持ってくるな」
「使い方を間違えたくない」
「それは正しい」
職人は作業台から、傷んだ短剣を一本取り出した。
「刃を立てすぎるな。寝かせすぎても駄目だ。一定の角度で、根元から先へ動かす」
砥石を水で濡らし、刃を滑らせる。
しゃり、しゃり、と小さな音がした。
「力は入れすぎない。お前の腕力で押しつけたら、刃の形が変わるぞ」
「屋根を直したときも、似たことを言われた」
「力が強い奴ほど、細かい作業は苦手だからな」
アレナの父親と同じ意見らしい。
ウィルは職人の手元を見ながら、動かす方向と角度を覚えた。
鉱山でも、つるはしの先端を手入れすることはあった。
ただし、囚人が使う道具は、壊れるまで交換されない。
丁寧に扱わなければ、その分だけ自分が苦労した。
「毎日研ぐ必要はない」
職人が砥石を返す。
「刃こぼれを無理に直そうとするな。大きく欠けたら、店へ持ってこい」
「分かりました」
「防具も武器も、使ったあとに見ろ。壊れてから気づく奴が一番長生きできん」
ウィルは頷いた。
修理された円盾と胸当てを受け取り、店を出た。
◇
家へ戻ったウィルは、食卓の前に二つの円盾を並べた。
一つは、新品。
もう一つは、何度も修理した盾。
形は同じだ。
だが、並べれば違いははっきりしている。
古い盾には、角ウサギの角が滑った跡。
大針蜂の針が当たった傷。
樹上猿の石が残したへこみ。
牙猪の肩で歪んだ縁。
どの傷も、ウィルが生きて帰った証だった。
ウィルは古い盾を左手に持ち、新しい盾へ右手を触れた。
「装備統合」
視界に、二つの装備が表示される。
統合元:《初心者用円盾》
統合素材:《初心者用円盾》
統合後:《初心者用円盾+1》
統合素材は消滅します。
実行しますか?
ウィルは迷わなかった。
「はい」
二つの盾が、淡い白色の光に包まれた。
新品の盾が光の粒子へ変わる。
粒子は、ウィルが使ってきた盾へ吸い込まれていった。
金属が低く震える。
盾の縁が、ほんの少しだけ厚くなる。
波打っていた部分が滑らかになり、表面に残っていた細かなへこみが薄くなった。
すべての傷が消えたわけではない。
大きな傷跡は残っている。
だが、盾を持った瞬間、以前よりわずかに重く、硬くなっていることが分かった。
装備統合が完了しました。
《初心者用円盾》→《初心者用円盾+1》
防御力がわずかに上昇しました。
耐久力がわずかに上昇しました。
次回統合まで、同名装備があと1個必要です。
装備進化まで、同名装備があと2個必要です。
「これが、統合……」
見た目の変化は小さい。
手にしただけでは、どの程度強くなったのかも分からない。
それでも、修理職人から弱くなっていると言われた盾が、以前より丈夫になった。
買い替えれば、銀貨3枚以上。
同じ盾がガチャから出たことで、その金を使わずに済んだ。
さらに同じ盾が二つ出れば、形と名前まで変わる。
ウィルは左手首へ《衝撃緩和の腕輪》を装着した。
その上から腕当てをつけ、円盾を持つ。
庭へ出た。
地面に落ちていた太い薪を拾う。
盾を左腕へ構え、右手の薪で表面を軽く叩いた。
こつん。
衝撃が腕へ伝わる。
もう少し強く叩く。
がんっ。
左肘と肩へ、鈍い力が届いた。
だが、以前より少し柔らかい。
腕輪が衝撃の一部を吸収しているのかもしれない。
次は、盾を外して同じ強さで叩いてみる。
腕輪の効果がある場合と比べる。
明らかな差ではない。
だが、何度も攻撃を受けたときには、この小さな違いが大きくなるだろう。
「受け止めていい攻撃が増えたわけではない」
牙猪の突進を正面から受ければ、盾が強くなっていても危険だ。
腕輪も、衝撃を完全に消してはくれない。
装備が強くなったからといって、戦い方まで無茶に変えてはいけない。
それでも、選べる方法は増えた。
ウィルは盾を下ろした。
表面には、今叩いた程度の傷はついていない。
◇
家へ戻ると、食卓の上にはガチャで手に入れた品が残っていた。
釘。
砥石。
回復薬。
保存食。
投擲用の石弾。
どれも、すぐに人生を変えるほどの品ではない。
銀貨が何百枚も出たわけでもない。
一撃で強敵を倒せる剣も手に入らなかった。
だが、ウィルにはそれでよかった。
傷を治す薬がある。
武器を手入れする石がある。
家を直すための釘がある。
傷んだ盾を、以前より丈夫にできた。
昨日までなかったものが、少しずつ増えている。
ウィルは冒険者証を開いた。
レベル3。
迷宮討伐記録:6/10。
ガチャチケット:0枚。
所持装備。
《初心者用片手剣》
《初心者用円盾+1》
《初心者用革防具》
《衝撃緩和の腕輪》
所持スキル。
《アイテムボックス》
《小治癒》
《ダンジョンワープ》
《森林歩行》
《気配察知・小》
《毒耐性・小》
ガチャチケットは、また一枚目から集め直さなければならない。
だが、最初にスライムを倒したときとは違う。
装備もある。
スキルもある。
第二階層の魔物も、すべて一度は倒した。
次は、第三階層への道を探す。
そこで新しい魔物を倒せば、チケットも再び手に入る。
ウィルは、修繕用釘の箱を持ち上げた。
そのまま、屋根の修理代を貯めている木箱の横へ置く。
銀貨2枚。
銅貨20枚。
釘50本。
まだ、屋根を完全に直すことはできない。
それでも、昨日より必要なものは揃っていた。
古い盾も同じだった。
傷がついたから、捨てるのではない。
壊れる前に直す。
同じものを重ね、前より強くする。
ウィルは《初心者用円盾+1》へ目を向けた。
傷跡は残っている。
元どおりにはなっていない。
それでも、以前より丈夫になった。
「人間も、そうならいいな」
誰に聞かせるでもなく呟く。
失った時間は戻らない。
身体に残った傷も消えない。
それでも、新しいものを少しずつ重ねていけば、以前とは違う形で強くなれるのかもしれない。
ウィルは父親の剣を腰へ下げた。
明日は、第三階層へ続く道を探す。
最初の11連ガチャは終わった。
だが、ウィルが人生を取り戻すための積み重ねは、まだ始まったばかりだった。




