心理の果て③
「お前が死んだら、俺はすぐにお前の後を追う」
私に生きろ、死ぬべきじゃなかったと、あれだけ責めてきたくせに。
思わず睨みつけると、水社一心は感情的になることなく私を見返した。
「お前が俺を助けようとして死んだら、俺は……苦しんで苦しんで、どんな人間も目をそむけたくなるような死に方で死ぬ。お前が命がけで俺を助けようが、意味なんて無かったって思い知るように」
家族いるだろお前には。
「お前にもいるだろ」
即答され視線を落とす。
そう、私には、お姉様がいる。
「お互い、家族がいる。一人ぼっちじゃない。お前にとって俺は、運命の相手ではないだろう。だが、お前が死ねば、俺は苦しい。その苦しみの分まで、死んだお前を苦しめる。死なれたくないんだろ、俺に。そんなに、黙ってるほど、お前のお姉様に何も言えないのと引き換えにしてまで」
私は視線を逸らす。
私は別にお姉様より水社一心を選んだわけではない。
助けてもらった人間より、自分の好きを優先したくないだけだ。
「別にそれでいい。お前が誰を優先しようが構わない。だが、お前がお前の命より何かを優先することは許さない」
許さないって言ったって、お前が死んだら仕返しも何も出来ないはずだ。
そもそも別に、今は、違う。
水社一心が煩いせいで、予定は狂った。
私は奥歯を噛み締める。
『冬に、帰ってきて、くれる? このワンピースを着て、あっ上に、コートっていう上掛けも、あるのだけれど……』
お姉様は私に訊ねた。
多分、私が死ぬ気なのを……確信とまでは至らないが、不安にはなったのだろう。
輝宮寺の件で、お姉様はあやかしと戦う私を見ていたし。
あの質問は、難しかった。
お姉様に嘘をつくのは好きじゃないから。
絶対に無いものを買いに行かせてしまった時も、心が痛かったし、その後のお姉様のあれこれでより一層駄目になった。
そして不安に揺れるお姉様を見て、想像できてしまった。
私が死んだら、駄目だろうなって。
お姉様は立ち直れない。運命の相手がいたとしても無理だろう。
私が死んでもお姉様は前向いて生きていける、幸せになれる、は、私の一方的な希望で、現実な見立てではない。
出来るか分からないけど、頷きはした。
水社一心と一緒に帰ると、沿えて。
ずっと悩んでいた。異能一本であやかしの襲撃を吹き飛ばすこと。
その先の未来にも敵はいるけど、そもそもそのあやかしの襲撃を何とかしなければ、その未来すらない。だから……だからと、今まで見ないふりをしていたし、それを正しいと考えていたけれど。
予定が狂った。
景色から水社一心に視線を移すと、水社一心は少し驚いた顔をした後、僅かに口角を上げた。
「狂ったんじゃなく修正だろ、最初からまともな予定じゃないものを、お前が勝手に正しいと決めつけていただけだ」
あーうるさいうるさい、元はと言えば全部お前のせいです。
「別に、俺のせいでもいい」
水社一心は小馬鹿にしたように笑う。
モラハラ嘲笑じゃなく、大人ぶった感じだった。
「結果的に、お前が死のうとしなければ、なんでもいい」
そうやって水社一心は他人に生きろだの、死のうとするなだの、綺麗ごとばっかり言うが、これだけ言っておいて死んだら、本当に絶対に許さないからな。
「お前が生きていれば、俺は後追いせずに済む。そもそも、物語とは変わってきてるんだろ?」
確かに、物語と変わってきている。
無理やり物語通りになる力がこの世界に作用しているならば、皇龍清明様とお姉様は、多分もう出会っている。
「なら、俺の死因はお前だよ」
水社一心は穏やかな調子でとんでもなく物騒なことを言いだした。
「お前は俺が死なないように生きろ」
何でこんな亭主関白の最終形態発言をされなきゃいけないんだ。
結婚もしてないのに。
お前こそ私に生きてほしいなら死ぬな。死ぬなって言ったじゃんって私に言わせるようなことになるな。お前が死んでもお姉様の心は壊れる。お前が死んだ私に気を遣い過ぎておかしくなるかもしれない。そんなお姉様を見るのは嫌だ。ちゃんと生きてろよ。他人に死ぬべきじゃなかったってがちゃがちゃ綺麗ごと言ってるんだったら。
水社一心を睨み返せば、水社一心は「そういう反応するようになったか」と理解者面して笑う。余裕そうな笑みには、少し安堵が滲んでいた。




