心理の果て②
水社一心はそのまま、事実を射貫く。
「お前の話に、二年目とか一年目とか、一巻がどうとか、春がどうとか言うけど、俺の未来の話を、したことがないよな。野狐禅と俺に関する話もなかった。野狐禅にとって俺の異能は天敵のはずだ。でもお前の言う物語で野狐禅が俺を気にした素振りは無かった。俺はお前の頭の中の話では、冬に──今年で死ぬ」
水社一心は私を見据える。ジャミングする気になれなかった。その行為そのものが、証拠にされてしまうから。
「お前はそれを命がけで阻止するつもりだったんだろ。だから、ずっと黙ってる。皇龍清明様に会えば、お姉様は絶対に守られるんだろ? それなのに、ずっと異能を温存してる。お前のことだ。どうでもいいような場所を異能で爆破させて騒ぎを起こして、皇龍清明様を呼び寄せることだってしかねないのに。根拠を気にしていたが──根拠は、今までのお前の行動全部だよ」
前もこんな風に、真正面から水社一心に射貫かれたことを思い出す。前世について看破された時だ。
この世界は小説の世界。起承転結があるわけで、普通に小説の後半、お姉様には悲劇が襲うし、国に危機が訪れる。
この小説での危機は、あやかしの大襲撃だ。そこでお姉様が守護の力で結界を張り、皆を守って、皇龍清明も大活躍する。その活躍の途中、枯賀家のクソ夫婦や枯賀末理はあやかしにより無残に食い殺され、いわゆる最終的な「ざまぁ」の完成となるわけだが……水社一心もそこに含まれる。
あやかしの襲撃のときお姉様を庇い、死ぬのだ。死ぬ間際にお姉様への暴言を詫びる。
いわゆる「ざまぁ」だ。
今回水社一心はお姉様に暴言を吐いてないし、なんかめちゃくちゃ私に小姑してくるけど人格否定はしてないし、間違ったことは言ってない。生きてたほうがいい人だから、生かしてやることにした。
死ぬべきじゃないと思った。
死なせたくないと思った。
私は大勢のあやかしが発生する場所に単身で向かう。私は優秀と設定されていたけど、その本質はカップ麺だ。すぐ出来上がって、中身を食べたらすぐ捨てる。私の祓いの力は言霊および声に依存しており、人間に対して効かないが、言葉を吐けば吐くほど、後々あやかしに対して使える祓いの力が無くなる。
小説の中では「生まれてこなければ良かったのに」とか、そういう強い言葉をお姉様に吐き続け、本来ならば人を助けるはずの言葉を無駄打ちし続けてきたことで、実際にあやかしを相手にするときに祓いの力は尽き、何もできなくなった。
だから私は一切喋らず、今日──あやかしが世界を滅ぼそうとする日の為に温存していた。お姉様の活躍を奪うのは心苦しいけれど、別に世界を救うことがお姉様の存在意義ではないし、何もできずともお姉様は素晴らしい。
なにもしなくても価値のある人だ。私は前世を反芻する。
生きてるときの救いが小説だった。小説の中のお姉様には誰も味方がいなかった。孤立無援だ。そんな姿に自分を重ねていた。私も味方がいなかったから。みんなは、味方がいる世界なのに、私は世界で一人だった。お姉様も同じ。だからお姉様みたいに愛されたいじゃなく、一緒にいるんだな、私ひとりじゃないんだな、と思っていた。
ド級に痛いファンだと思う。知ってる。
だから、お姉様の為に、お姉様の幸せのためになんでもするつもりだった。
私にはそれだけで良かったはずだった。
お姉様以外、どうでもいいはずなのに。
なのに。
「後を追うからな」
水社一心は躊躇うそぶりすら見せず言う。




