心理の果て①
完全勝利じゃん、水社一心。
心の中で呟けば、水社一心がこちらに振り返る。
「別に勝ち負けじゃない」
そういうと思った。お前はそういうやつ。
「そんな風に俺のこと分かってるなら、郷田を角材で仇討ちしなくてもいいことも分かってくれないか」
さぁ。
私は水社一心から顔をそむけた。
「俺は、言葉でなんとかする。殴る必要はない。それに俺は、誰でも彼でも、白黒はっきりさせたいわけじゃないしな」
そう言うが、完全に水社一心は白黒はっきりつけたいマンだろ。
めちゃめちゃ私に色々言ってくるじゃん。
「お前だからだよ。お前以外は別に、白黒もなにも、はっきりつけなくていい」
なにこいつ。
お前さえいれば何もいらないって自分を大事にしてくれる家族いるくせに言っちゃうタイプか?
ああいうのは何も持ってない人間の台詞だろ。めちゃめちゃ持ってる人間が全部捨てても君が欲しいと告白することに愛を感じる人間もいるが、私としては「捨てるくらい持てて羨ましいことですね」と憎悪が勝つ。全然何も持ってなくて、それでもあなたさえいればのほうが、切実な感じがして理解が出来る。
「そういう意味じゃない。たとえばお前が良く話題に出す、爺は……考えをすり合わせたいとか、分からなくても分かりたいとは思わない」
最低。
「だから……考えが合わなくても、いいから、知らないところがあってもって意味だよ」
じゃあ何、お前は考えを合わさないと気が済まない人間がいるのか。それが私か。怖い。人格補正される。考え押し付けマンされる。
「お前は、知りたいと思うよ。考えが合う合わない以前に、なるべく知っておきたいと思う。何が、理解できないかも知ったうえで、いる」
はぁ。
私は手短に返事をした。今、長く何かを話すと、ミスる気がする。
「交流機会なんて無いと思ってたし、普通に、春には学校の文化祭みたいな感じで軍人の親族や屯所の近隣住民向けサービスイベントがあるけど、その時期もう私は死んでるつもりだったし」
案の定だった。
水社一心は、私が郷田を角材で襲撃したのを看破したのと同じ調子で、私の過去の心を読み上げた。
「お前、冬まで生きてる気なかったんだろ」
水社一心が、私を冷めた目で私を見る。
人間、いつ死ぬか分からない生き物だろ。
「お前、水社家に冬物全部置いてきただろ」
水社一心がこちらの言葉を揃えるように返す。
人の生き死にについて、そんな稚拙な根拠で、よくもまぁそこまで話せる。
気にしすぎ。
繊細すぎ。
お姉様がレビューで無限に言われたことが、今はそっくりそのまま、水社一心にあてはまる。
「水社への送金の額の粗さ」
水社一心は冷静に指摘してきた。
「異能を温存して手紙すら書かないお前のことだ。万が一を考え少しは金を貯めようとするはずだ。それなのに、二等兵の報酬のほぼ全額、水社に送金されてる。お前が軍に入って、ずっと、自分自身の未来を、否定するみたいに」
私は視線を逸らす。
軍にいれば衣食住を保証される。
別に、ずっと軍にいれば、考える必要はない。水社家には恩がある。お姉様を住まわせてもらってる恩が。
「なら、いつまでも甘えてばかりでいられないと、いつまでも居候するわけにはいかないと考え、家を借りる金の工面くらい考えるはずだろ。でもお前何にも考えてなかったよな。管理局で、一人暮らしの話が出たとき」
その場に居たわけでもない水社一心は続けた。
この間、管理局で暮らしの話題になった時、私はお姉様との暮らしについて考えなかった。
「意識してない間にも、人間は思考する。何かを思い出して、未来を考える。お前にはそれがない──今年の冬を超えての考えが、一切ない」
私は黙ったまま水社一心を見据える。
「俺が、死ぬんだな」




