お姉様訪問・後編
「あと、えっと、わ、私が、帝都で初めて……は、働いたお金……で、末理さんの、冬の、服、買ってあげたいと思って、こ、これ」
お姉様は手をカタカタ震わせながら、こちらに広げたのはワンピースだった。
待って待って帝都で働くって何?
お姉様私聞いてないです。
帝都で働くって何⁉
何の仕事‼
「き、輝宮寺啓介さんと、お取引のあった、舶来品のワンピースっていう、服で、お洋服って言うの」
輝宮寺と取引のあった店の、品物。
お姉様は野狐禅が輝宮寺に化けあんな感じだったのを知ったのだろう。そして買い物をした。
お姉様がどれほど情報を得ているか分からないが……思う所があったのだろう。
ワンピースは紺の上品なレースがあしらわれたものだ。
それで何のお仕事されてる⁉ お姉様⁉
「そ、それと、これ」
お姉様は手ぬぐいを取り出した。郷田に巻いていたものと、多分同種。
離れていたから分からなかったけど、ハンカチのすみに刺繡が施されていた。
柄は──デフォルメされたミヤシロ様だ。
「み、ミヤシロ様って、人々の関心が薄れたことで、力がなくなってしまったと聞いて……みんなが思い出せるようにって、こういう風に身近にミヤシロ様を感じるものがあれば、ミヤシロ様をお助けできるんじゃないかって……それに、修繕費とかにもなるって……お母様に刺繍をお見せしたら、売ろうって話になって……」
水社家に伝わるミヤシロ様は、人々が水を身近に感じ当たり前だと認識したことで、逆にミヤシロ様への関心や信仰心が薄まり、弱体化したようだった。
こんな風にマスコットグッズ化しておけば、正直ミヤシロ様を信仰せずとも、「ミヤシロ様かわいー」と関心を集めることが出来る。
「今、ミヤシロ様を刺繍した、手ぬぐいと、あと、お守りとか、紙に印刷したご祝儀袋を売ったらどうかって、お伝えしたの。ミヤシロ様って神様だから、そういうお祝い事に、神様がいたら心強いかなって」
なら、大体の企画立案、お姉様では?
じゃあ何? お姉様の仕事って……なんかのプロデューサー?
プロデューサーお姉様なの?
「それで、お祝いのときって、お饅頭配ったりするでしょう? だから、ミヤシロ様の、お饅頭どうかなって、そうしたら、売ることになって……」
お姉様は控えめに事業計画を語る。
結構手広くしてる?
これ、プロデュースだけで済むの?
経営されてません?
「和菓子屋さんが、二つあるでしょう。水社家の近くに」
私はとりあえず頷いた。
水社家に行ったとき、水社一心が「和菓子いくつもある」みたいなことを言っていたが、あの和菓子屋だ。
「片方だけだと、良くないんじゃないかと思って、片方の和菓子屋さんは、ミヤシロ様を模した練り切りを売ることになって、もう片方の和菓子屋さんは、ミヤシロ様の判を押したお饅頭なの。練り切り屋さんは、お茶会に品出しをすることが多くて、お饅頭屋さんは、普段使いのお客さんが多いから……」
すごい手広くしてる。
似たような店で客の奪い合いが起きないよう、調整までしてる。
やっぱり経営してない?
「まだ、和菓子屋さんとかで、接客? に慣れてない方が、練習したいって、水社家のそばで、お饅頭売っていて」
研修施設化してない?
マネジメント兼任してません?
お姉様は気にしいである。繊細で、あらゆる人に気を遣う。人の前に立ち色んな人を巻き込んでガンガン進めるタイプじゃない。
全体を見て、「あの人大丈夫かな」「この人無理してないかな」と立ち止まる。
結果的に、色んな人に配慮し──ミヤシロ様グッズプロジェクトと化したということ……?。
じゃあこの服、お姉様がミヤシロ様プロジェクトで買ったってこと?
待ってお姉様、水社家で……経営始めてない?
お姉様、今、水社家で経営しているの?
お姉様の過剰なほどまわりに気を遣う気質がこういう方向に向かった?
じゃあなに今、プロデューサーお姉様っていうより、取締役お姉様みたいになってない?
お姉様⁉
混乱する私の手を、お姉様はそっと触れた。
刀を握り、訓練で出来た豆が固まったりして、触り心地は良くないはずなのに、慈しむように撫でてくれる。
「私も、食べていく術が欲しいと思ったの。末理さんが、軍をやめてもいいように」
普段のお姉様の遠慮や心細さのようなものは、一切ない、芯のある瞳だった。
「軍を、続けたい?」
私は頷く。お姉様は「そう」と、静かに相槌をうつ。
「なら……冬に、帰ってきて、くれる? このワンピースを着て、あぁ……上に、コートっていう上掛けも、あるのだけれど……私のもとに、帰ってきてくれる?」
お姉様がこちらの顔色を伺う。
その目で分かった。
気付かれていると。
私はお姉様が眺めていた畳に視線を落としてから、お姉様に目を合わせた。




