お姉様訪問・前編
私と水社一心が合流すると、郷田は「職務があるので」と言って去った。
管理局の面々は、「せっかくだしお姉さんに普段住んでるところ見せてあげたら?」と配慮してくれたらしく、私はお姉様と二人で屯所の敷地内にある局員寮に向かうこととなった。
「実は、冬物を持ってきたの……末理さん、おうちに全部置いていたから……」
四畳半の私の部屋で、お姉様は巨大風呂敷包みを広げる。
管理局までは郷田が持ち、ここに来るまでは私が担いでいた。お姉様は「そんな……」と言っていたけど、私は水社とお姉様を担いで逃げるくらいは出来る。
それにしても四畳半の大して手入れもされてない部屋の中央にお姉様がちょこんと正座している図。
すんごい、背徳感ある。
閉じ込めちゃった感ある。
これでお姉様が少しでも不愉快そう、嫌がる顔をしていたら、一刻も早くこの部屋を爆破して四畳半の閉鎖空間を澄み渡る青空の広がる解放空間にするけど、お姉様は私の幻覚の可能性もあれ、少し嬉しそうにしているので目に毒だった。
目に毒ってなんだよと思っていたけど今は分かる。視覚から入り込んだ情報が脳に伝達され真っ当な思考回路を破壊していく感じ。そんなわけない。お姉様がこんな部屋で嬉しそうにするなんて。刑務所みたいな四畳半なのだ、この部屋は。普通、四畳半というだけで刑務所みたいな雰囲気にはならない。空気感や内装により、こうなるのだ。だって酒呑童子がドア全開祭りした時の事態収拾にあたったとき、他人の部屋を見たけど、まともだった。住んでる人間の心象が出ていた。刑務所に入りかねない性格をしているので私の部屋はこのざま。
「末理さんいつもここで眠っているの?」
お姉様が問う。私は頷いた。
「頭は、どちらに?」
私は窓を差す。日が出たらすぐ分かるように、頭を窓側にしている。お姉様はジッと窓側の畳を見て、顔をほころばせていた。
畳を穏やかに見守るお姉様。
普通の人間がしていたら「こいつどうかしてるんじゃないのか」と思うし、そもそも他人に「頭どっち向けで寝てる?」と聞かれてその方向を眺められたら、気持ち悪すぎて咽び泣いてしまう。
なのにお姉様がするだけで神聖な儀式に見える。生きてていい感じするもん。あわよくば、お姉様の膝枕で看取られたい。
「今日は、冬物を届けに来たの」
お姉様が包みを広げ始めた。私は、水社家からひとつも冬物を持ってきていない。
「元の服より、丈とか伸ばしたほうがいいんじゃないかって、新しくしてて」
包みからは、見慣れない冬物の服が並ぶ。
「夏に、末理さんを抱きしめたときに、背が伸びたなぁって、思って」
お姉様は「お姉様じゃなかったらちょっと怖いな」と感じる発言を、とうとうと詰んでくる。
私がお姉様みたいな発言をしたら、多分水社一心に取り押さえられる。取り押さえてもらわないと困る。私がそうした発言をするときは、100%、純度の高い欲で形成されており、ゆえにお姉様と言葉を交わせるようになっても心の内に秘めておく。漏れ出そうになったら自決する。
でもお姉様は100%の純度の高い善意と無垢さだ。言葉そのままありのまま「抱きしめたら大きく感じました」という感想。
しかしこの洋服のお金の出どころは、なんだろう。お姉様が「水社家に買ってもらっちゃった」とニコニコするように思えない。申し訳なさそうにしてほしいわけでもないし、私も養ってもらってる立場なので何とも言えないが、違和感を覚えた。
「ただ、わ、私が選んで……い、嫌だったら持って帰ります……あ、も、勿論、お母様にも、お話聞いて、お母様が選んだものもあって……!」
緊張により途中で敬語になってしまうお姉様。
愛しています。
バレないように凝視して──気付いた。
あれ?
お姉様もしかして、水社ママのこと、お母様って呼んでる?
一瞬、下男と蒸発した実母がよぎったけど、文脈的に水社ママっぽい。




