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悪役義妹がお姉様の溺愛結婚を壊すまで  作者: 稲井田そう
第八章 お姉様を面白がるあやかし
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お姉様の大切


 そういえば千年桜は恋と咲くでは、お姉様は枯賀末理に対して、嫉妬していたと吐露していた。和風溺愛ファンタジーあるある、ヒロインに近かった他の女がヒーローを欲しがる場面がある。


 枯賀末理が皇龍清明様を狙い、お姉様は皇龍清明様のお相手は、自分より妹のほうがいいのではと悩むのだ。


 なにをどうすればそうなるの⁉


 あの女は和風御殿の水社家の内装をホテルラウンジみたいにしちゃうんだぞ?


 むしろあんな事故物件とお似合いって言うの、名誉棄損にならない?


 どんなに霊力高かろうと、他人の家をリフォームする人間って危なくない?


 とツッコめる人間は千年桜は恋と咲くでは出ない。


 そして皇龍清明様はキングオブ無口。


 悩むお姉様に「自分にはあなたしかいない」なんて言えるはずもない。


 お姉様の人生を縛るのが嫌だから。自分の支配欲求のなすりつけではと悩み、お姉様が質問してくるまで、何も言わないのだ。ゆえに拗れに拗れる。


 でもまぁ、千年桜は恋と咲くのお姉様は枯賀末理をいいものと認識しているし、そう誤学習するくらいの環境に置かれていたので複雑なところだが、妹に嫉妬していて、なおかつそんな自分を醜いと考えていたらしい。


 お姉様を醜いと考える人間なんて、お姉様じゃなかったら殺している。


「末理さんと一緒に働いている方々に……」


 ん?


 私じゃなく?


 管理局の人たちに?


「え」


 富山局長が戸惑いの声を漏らした。お姉様が相手だからか柔らかめに話をしていたけど、普段真原さんに「そういえば予算、どないされました~?」と詰められた時と同じ「え」だった。


「それは、どういうあれで……?」


 真原さんも不思議そうにしている。


 真原さんも分からないの?


 水社一心の顔を見ると、平然としていた。なんだこいつ。何だ?


「いいなぁって……末理さんと、一緒に、いられて……異能とか霊力があれば、私に戦う力があれば、って。軍は、そんな気持ちで働く場所じゃないのに」


 お姉様は自責で苦しそうに話すが、混乱した。


 え。


 異能とか霊力について言っていたのは……自分の存在価値みたいなコンプレックスじゃなくて、わ、私と、一緒にいるため?


「それに、私に力があれば、あの子を守れた。枯賀快炎様から……」


 お姉様は自分の手のひらをきゅっと握りしめた。その声音は、『あの子』の時は優しく温かなのに、『枯賀快炎』と口にしたときは、周囲の温度が下がったと錯覚するくらい、冷たかった。


「え」


 真原さんが戸惑いながらも「お父様のこと、知ってはるんですか……」と、壊れ物を扱うみたいに問いかける。


「はい…あやかしとなり、軍に討たれたと……地域部の方々が水社家のお屋敷で報告をされているのを、聞いて……」


 ヒロインあるある「重要な報告をうっかり聞いてしまう」をいかんなく発揮してる。


 ならばお姉様は、既に枯賀の父親があやかしになったことも、死んだことも知っているのだろう。


 なら皇龍清明様の名前も耳に入ったのだろうか?


「こんなこと言うのは、人の道を外れているのでしょうが……討伐したのがあの子でなくて、私安心してるんです」


 お姉様は、細々と呟く。


「私が快炎様にお会いしたのは、一か月にも満たない。でも末理さんは違う。末理さんは快炎様と一緒に暮らしていた。どんな関係か、わかりません。でも、どうであれ、あの子が責任をもち戦わなければと、思い詰め、一人で戦いに向かっていったらと、それだけが怖かった。父親があやかしになったと聞いたのに、私にはそれだけです。その後は、私に力があれば、と思いました。あの子は自分が討伐すべきだったと悩んでいるかもしれない。ずっと、考えているんです。あの子が枯賀快炎について知ったのは知ったのはいつだろうって。討伐される前に知ったら、自分がなんとかしなければって、悩んでいたかもしれない……」


 確かにお姉様の言う通り、なんとかしなければと思っていた。


 でもたぶん……お姉様の想像とは違う。


 お姉様の想像の中の私は、自分の父親があやかしになったと聞き、心を痛めながら討伐する私だ。実際の私は違う。記憶を取り戻した初日に、状況が良ければ殺す気だったし、元々記憶を取り戻す前から自我は私だったので、嫌いだった。


 自分は金持ちの娘の立場で、そのメリットを享受していたはずなのに、自分が恵まれている位置にいることを理解できず、それでいて被害者顔をし、異常なほど商人欲求の強い出しゃばりの癖に、細々地道にこつこつやっている人間という他者認識を欲する醜い感性が不愉快で仕方なかった。


 人生はそれぞれ人間がいて、その意思は変えられないのに、自分が主人公のゲームをプレイし、周囲の人間は全員NPCだと思っている、そういう姿勢が心の底から気に入らなかった。


 だから……お姉様の考える家族の物語はない。


 一方でハッピーホームドラマを押し付けられているとも感じなかった。


 お姉様はすぐに暮日村に奉公に出された。そこで……虐げられる日々を過ごした。霊力や異能があるから価値がある、私には霊力や異能がないから価値がないという認識を植え付けられ、霊力や異能があれば幸せであり、家族とも仲良く暮らせる……そんな風に、考える部分もあるのだろう。


 水社一心は私について説明していたが、まさか、私が本気で父親を殺そうとしているなんて思わない。そもそも水社一心は私とお姉様のことを考え、私とお姉様の間にあった誤解を解く以上に、その殺意を強く訴えることはしない。


「でも、私に戦う力があれば、その苦しみを分かち合うことが出来た。あの子を守ることが出来た」


 お姉様は枯賀の父親の死から、私について考えていたらしい。


 愕然としていれば、富山局長が「ありますよ」と答えた。


「お姉さんにも、枯賀さんを守る力はあります」


「え」


「好きだ、大切だって、伝えてください。言葉で伝えるのが難しければ、隣にいるだけでいい。異能や霊力が無くても、それだけで、守れることはあります。それにこうして、会いに来るだけでも、十分だと思いますよ」


 富山局長が、お姉様を励ます。


 富山局長みたいな人がお姉様の傍にいたらなと思ったけど、思った通りだ。


 お姉様は、目を潤ませた後、深々と富山局長に頭を下げる。


「ありがとうございます……」


「全然、それより、枯賀さん遅いですね……」


「ああ、僕探して来ますわ」


 そう言って真原さんが部屋を出ようとした、その時──どんっと後ろから水社一心に押された。


 あぶない。階段下りきってるからまだしも、死ぬところだぞ。


「死なせるわけないだろ、ほら」


 水社一心は私に前を向くよう促す。郷田と、管理局の面々と──お姉様が私を見ていた。


 ひとまず私は──敬礼をした。





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― 新着の感想 ―
花宵お姉さまの嫉妬告白のくだりから、ずっと、ここがこうとかではなく、広範囲に擦りむいた傷から時間差で血が滲むみたいに、全体に心が衝かれて、じわじわ泣きをし続けておりましたー!! 稲井田先生の作品を拝読…
真原さんに詰められた時と同じ「え」で笑ってしまいましためっちゃびっくりしてる。 末理ちゃんと一緒にいられるのいいなぁって嫉妬しちゃうお姉様あまりにも可愛くて…!!いやそういうことじゃないんでしょうけど…
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