差し入れお姉様
「退妖対実地戦闘局・曹長・郷田です。関係者案内に来ました」
郷田が管理局に入っていく。扉が開きっぱなしだったが、真原さんはいないのだろうか。お姉様は女性だが、真原さんは軍人として表面上は民間人の女性、女性局員、食堂の調理員の女性とも対話するし、嫌いを出さない。多分、大丈夫だと思うし、「真原さんは女性苦手だよね」と気を遣い過ぎても本人の負担になる気がする。
そもそも私は郷田がいるため中に突入することも出来ない……。
「関係者……?」
しかし私の予想に反し、真原さんの声が聞こえた。そーっと扉の傍に近づき、中の様子を伺うと、管理局全員が揃っていた。いつもいるような位置で、各々お姉様を見ている。
「枯賀二等兵の親族です」
野狐禅輝宮寺事件の貰い事故で私とお姉様の家庭事情は調査資料に添付され、要するに拡散された。しかし顔写真は出されなかったため、管理局の面々は私のお姉様の家庭事情や異能がないことは知っているが、顔は知らないという奇妙なことになっていた。
交流機会なんて無いと思ってたし、普通に、春には学校の文化祭みたいな感じで軍人の親族や屯所の近隣住民向けサービスイベントがあるけど、その時期もう私は──じゃばじゃばじゃばじゃばじゃば。「こんにちは」
真っ先に福野さんが挨拶をした。
なんの抑揚も無いホラー映画の導入の様な挨拶だが、これが福野さんの「普通」である。
「えっと、この管理局の一応、統轄をしている富山と申します。彼が枯賀さんの指導をしている真原で、こちらが先輩として一番近く……で、働いている福野です」
富山局長は緊張気味に真原さんと福野さんを紹介する。真原さんは「初めまして、ご挨拶出来て嬉しいです~」と明るい調子で声をかけた。
「枯賀花宵と申します。いつも……妹がお世話になっております」
お姉様は深々と頭を下げた。すかさず真原さんが「そんなん下げんとってくださいよ」と止めた。
「枯賀にはお世話されてるほうですからね、はは……」
真原さんは笑みを浮かべながら、富山局長と福野さんを見た。
お世話した覚えはない。
ただ、富山局長が開けっ放しの蓋を閉めたり、福野さんが開けっ放しにしていた扉を閉めることは多い。そして二人とも記憶が無いので、真原さんが「あれ、ちゃんと閉まっとる」と驚き、二人ともぼんやりしていて、真原さんが二人に怒り出す流れがずっと続いている。
「あの、もしよろしければこちらを……軍の検査は、して頂いて……」
お姉様は包みを富山局長に差し出す。
軍の検査。
おそらく手荷物検査のことだ。軍では一応、軍人以外の立ち入りは、色々検査して万が一が無いよう調べる。毒や凶器など、「そんなものもって出歩くこと自体アウト‼」とされるものから、センシティブ……いわゆるアダルトな本は風紀が乱れるから駄目で、サイコロは賭けで使われる? らしく駄目とのことだった。福野さんの娯楽……手足の短い犬や猫の置物は許されるので、娯楽全般アウトとも言えないし、ゆるいとも言えない。
わかんない。
これに尽きる。
酒呑童子が強行突破してきてるし、野狐禅も入ってきてるので軍の警備がザル扱いされそうだが、本来皇龍清明様と戦うレベルの相手なのだ。酒呑童子も野狐禅も。二体の侵入を防ぐこと自体無理な話だけど、それでも……どうにかならないかとは思ってしまう。
「あ、ありがとうございます。お気遣いいただき……」
局長は連続した会釈をしながら包みを受け取る。お姉様も合わせて会釈をしており、お互い「いえいえ」と配慮合戦が繰り広げられている。
「え、えっと、そちら、ひょ、兵糧丸です」
「兵糧丸……」
富山局長が驚いていた。
だって戦国時代の食べ物だから。
千年桜は恋と咲くのお姉様は、手作りの和食や和菓子の差し入れをしていた。
そんなお姉様が、戦イメージの兵糧丸。
兵糧丸を売っているところはないので、ようするにお姉様が、作ったんだろうけど……?
どういう経緯?
「うちの爺だ」
ぼそっと水社一心が呟いた。
お前が、原作だと俺は孤独だったって被害者面していないもの扱いしていた、私に弓を貸してくれた、水社一心の自己都合で透明化された悲劇のおじい?
「言い方……まぁ、お前のいう話だと、そうだったんだろうが……あの人は、そういうの得意だから。忍者とか、武士とか、好きだから」
水社一心は複雑そうな顔で説明する。
そんな顔するなら孤独面するなよ。「俺は孤独……」の自己憐憫の為にいないもの扱いした水社おじじが可哀そうだろ。腰も悪いのに。
「してないだろ、俺は、一人じゃないって思ってるし……」
まぁお前はしてないな。家族もいる。
「……むしろ今はお前のほうがそのフシあるだろ」
水社一心は私を睨む。私はお姉様のほうを向いた。




