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悪役義妹がお姉様の溺愛結婚を壊すまで  作者: 稲井田そう
第六章 お姉様を面白がるあやかし
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意図しない三角関係(深い因縁つき)

 千年桜は恋と咲くにおいて、酒呑童子はお姉様に惚れ、皇龍清明様との三角関係っぽいことになる。


 ここで「ん?」となる人間はいるかもしれない。「お姉様って心優しいんだよね? あやかしって人食べるんだよね? 酒呑童子って人ころしてない? なんでそんな人をお姉様が許すの?」と。


「まだまだいける! 根性だ! いけーっ」


 頭上で酒呑童子が喝を入れてくる。あれから私はずっと酒呑童子の生み出した謎空間で稽古していた。


 断続的にガリガリと石砕きASMRと共に。


 発生源は、酒呑童子だ。


 私は頭上を見上げる。


 空中で酒呑童子が石を喰っていた。


 あやかしは霊力目当てで人を喰う。


 酒呑童子は人間を雑魚と定義しており、「雑魚なんて食ってどうすんだ」と霊力が籠った石を喰う。


 ──人間より霊力の籠った岩石のが硬い。


 ──だから俺は岩石を喰う。


 こういう理論だ。


 そんな酒呑童子の分身たちは、異能を使った相模局長をゆうに越した速度でこちらに斬りこみ、弓を撃ちこんでくる。私は思い切り踏み込んだ。


「お前なぁ! 根性足りねえぞ‼ 最初から捨て身してどうするんだ! 投げやりなんだよ! 踏み込み過ぎだ‼ 適当にやってんじゃねえぞ‼」


 すぐさま頭上から叱責が飛んでくる。


 バケモン相手に捨て身で戦わないって無理があるだろと心の中で言い返す。


 千年桜は恋と咲くのコミックの特典では、小さいデフォルメの三妖士が描かれたが、酒呑童子はトラ柄のパンツを履いて石をかじっていたし、アニメでは酒呑童子が登場すると「石の人」「石」「良い子は真似しないでください」「彼は特殊な訓練を受けています」「※鬼」とコメントが流れていた。


 酒呑童子の石食いは、あやかしの中では、悪食に該当する。


 人間で例えるとガードレール齧ってるのと変わらない。


 酒呑童子は、あやかしの中では重要人物……軍で例えるなら局長なので、人間世界で例えるならどっかの局長がガードレールを主食にしているイメージだ。


 バケモン。


 正直、霊力の籠った石と比べれば、人間を食べたほうが、あやかしの栄養にはなる。まぁ……そもそも食べなくていいけど……。


 酒呑童子の中では「やわっこい人間なんか食ったところで強くなんかなれるか」なので、このありさまだし、強くなるために人間を食べるあやかしよりも酒呑童子は強いので、常識を根性でねじ伏せてくる。


 そのため酒呑童子は人を喰わないあやかしとして君臨するも、戦闘に固執しすぎてお姉様や皇龍清明様サイドと一応……敵対というか戦いにはなっていた。誰かを探していたり、追いかけている途中に「おうおうおうおう楽しそうじゃねえか‼」と乱入してくる。普段、福野さんほどではないがローテンション気味の皇龍清明様も「またお前か」と言うくらいの男だった。


「お前みたいな雑魚は勘違いしがちだが、倒れようが武器壊されようが、ここだ、根性だ‼」


 そう言って酒呑童子は自分の胸をドン、と叩いたあと、私の頭の上を指さした。


「お前、自分の頭の上を見てみろ」


 数えるとかのレベルじゃないバツが浮かんでいた。


「これはお前が戦いに挑んだ数だ。相当な根性だ。いいか、根性は育て、鍛えるものだ。元々どうであったかなんて、なんも関係がねえ‼ 誰が何と言おうと、お前の身体がバラバラになって地に伏せようとも、たとえ死んじまっても‼ お前の根性が死んでねえ限りは負けじゃねえ。勝負ってのはそういうもんだ! わーっはっはっはっは‼」


 病に関する勝ち負けに抗っていた輝宮寺を思い出した。


 酒呑童子は、死ぬ奴は根性がないとか言いそうなのに。


 そこの論理は違うらしい。 


「お前は中々見込みがある。一人前になったら、俺がもっと強くしてやるよ」


 そう言って酒呑童子は私の前に降りてきた。


 彼はレビューにおいてユーザーからドスケベインナーと称される、上裸なのか一応……着てるのか? と判断に迷うインナーの上に羽織を着ている。


着ていると言っても羽織だって「……着ている?」という疑問がつく着方だ。下は括り袴という裾がキュッとしてるキチンとしたものを履いているので、「上も、着ませんか?」という気持ちになるし、夏は涼しそうだけど冬は見ていられない。


 まぁ、彼は冬の到来を待たずして皇龍清明様のドラゴニックファイナルで消滅するわけですが。


 丁度、今頃の時期に。






 日が暮れると酒呑童子は帰っていった。


 酒呑童子自身の鍛錬があるらしい。日が暮れたら帰るタイプの小学生かと思った。


 千年桜は恋と咲くの酒呑童子はバトル動機の付き纏いって感じだった。そのしつこさたるや帰らないと駄々をこねる幼稚園生みたいだった。皇龍清明様……酒呑童子が戦いたくなるような強さがない相手にはサッパリしている……もしくは、強い相手の前だと嬉しくてバカに拍車がかかるのかもしれない。


 権力や金は人を狂わせるというが、戦いで自発的に狂ってるのは酒呑童子だけだろう。


 そんな酒呑童子は、枯賀の父親を強化した罪がある。


 正直……親の仇みたいな感情は一切ない。枯賀の父親を殺していたとしても、そうした気持ちにはならなかっただろう。そもそも私が枯賀の家に火つけて殺そうとしたし。


 枯賀の父親の霊力に勝てるか、というところだが、勝てる算段はあった。


 当時は水社一心と会ってないし、異能の温存はもしもの為で、絶対に喋っちゃいけないレベルではなかった。


 霊力で圧かけて火打石で燃やして駄目そうなら異能。


 それがちょっと、水社家と関わり計算が狂い、水社一心がガチャガチャガチャガチャ煩いし、お姉様は……私が……いなくなったら……悲しむ問題が……チラチラしているので……面倒になってるのだ。


 来年の冬のことなんか考えなくてよかったはずなのに。


 今年の冬も、まだ来てないし。冬物も買ってないってのに。


 水社一心は振袖がどうこう言ってたけど、そもそも──


「お前今までどこ行ってたんだよ」


 うわああああああああああああああああああああああああああああああ。


 ぬるっと出てきた水社一心に心の中で絶叫する。


 屯所の傍に来たら水社一心ジャミングしようと思ってたのにもう屯所だしなんでこいつ屯所の門のそばにいんだよ。


「今日は俺が門の警備なんだよ」


 水社一心が配属されている退妖対実地戦闘局では、定期的に門の警備が割り当てられる。内勤の日も一応あるらしいが、細々した書類仕事より門の前で立っているほうがマシと人気らしい。


「変な状況説明で話そらすな、お前どこ行ってたんだよ」


 水社一心は喚く。門の前で別の局の二等兵に怒ってんのお前だけだろ。ほかの門番見てみろよと思えど、慣れた顔をしていた。なんなんだよ。


 普通に、お休みでーす。


「金も持たずに手ぶらでか?」


 なんか、借金とか賭け事の悪癖がある結婚相手を責める配偶者みたい。というか千年桜は恋と咲くで枯賀末理と水社一心は結婚してたけど、水社一心のほうが家に帰らず枯賀末理に責められてたのに。


 こいつは水社家嫡男として力があればお姉様を幸せにできたのでは、みたいなことを考えており仕事に精進していたようだが、枯賀末理は天才なので地道な努力に無頓着。水社一心の帰りが遅いと、仕事が忙しいのではなく浮気に直結させ責め詰るのだ。


 普段、枯賀末理は自分に自信があるような振る舞いをしていたが、結局のところ、結果を出さないと自分は認めてもらえないという世界にいる。


 つまり自尊心が高いわりに自己肯定感の低い仕上がり。自分の価値と外部評価を完全接続させているタイプだった。さらに自分が水社家の内装を宮殿みたいに無断リフォームしておいて、自分に一切の非はない、相手が協力的じゃないと他責を繰り返す。そして水社一心は、嫁も煩いし水社家の思い出の内装を総とっかえされるしで、余計家から遠ざかる。


「今はお前の話をしてるんだぞ。今までどこ行ってたんだ、変なことしてないだろうな」


 水社一心は私を睨む。


 言いがかりだ。


「今日、軍人二人救護局に運ばれた。片方は軽症だが、もう片方は壁に叩きつけられ、骨にヒビが入ったそうだ」


 骨のヒビのほうは酒呑童子のせいだろう。結構吹き飛んでたし。でもまぁ、その二人は一般市民を恫喝して金巻き上げようとしてたし、罰ですね。


「酒呑童子って、前にお前が話をしていたあやかしか?」


 水社一心は声を落とす。理解があって何より。私は周りの様子をうかがいながら頷いた。


 酒呑童子は馬鹿だから人を食べない。


 人を見下す……というと分かりづらいが、好戦的になるのは皇龍清明様や覚醒お姉様など、自分の認めた強者だけ。


 あとは……軍人四人で一人の人間を囲うみたいな犯罪者くらいだ。


 人間でも扱えない、神の加護を授かりし伝説の神器とか、呪いに呪った呪いの剣とか、強い武器を持ってたら奪ってくるところもあるけど、基本、関わらなければいいだけ。


 下手に軍が酒呑童子に目をつけ討伐しようとしたら、そのほうが被害が出る。


「被害が出るって?」


 今日は何ともなかったけど、酒呑童子は強いので他のあやかしが酒呑童子に集まるのだ。


 強者に惹かれおこぼれに預かろうとするのは人間もあやかしも変わらないのだろう。


 酒呑童子本人は、自分より弱いあやかしを従える気はなく、放置していた。


 軍人が酒呑童子と戦い、酒呑童子が軍人を殺さず見逃しても、その見逃された軍人を狙うあやかしがごまんといる、ということだ。


「そんなに強いのか……」


 水社一心は考え込む。


 酒呑童子は、野狐禅より強い。


「でも酒呑童子は、お前の、父親を」


 水社一心がぼそっと呟く。


 そう、酒呑童子は枯賀の父親をあやかしにした。


 でも仇討ちみたいな感情はサッパリない。普通に私が殺そうと思ってたし。屯所のそばでも考えていたけど、水社一心には聞こえていなかったようだ。


 私が父親について考えているのは、目下これ。


 お姉様に、枯賀の父親についてなんて話そう。


 これ。


 これしかない。


 お姉様の御心は海より広く、同時に自尊心が死海の湖面より低い。自分のこと遠ざけてきたカスの同情の余地のない父親でも、心を痛めて同情してしまうし、


 育ててもらった恩はあるし、それを当たり前だと思うわけでもない。娘を性的に見るような救いようのない父親と比べれば、マシだ。


 でも、「虐待もモラハラもせずご家庭の子供を育てている親御さんっていらっしゃいますよね⁉」とも思うのだ。「貧しくて食うに困ってる子供もいるんだよ」と言われても、そう返したい。


 ただ……今後、お姉様へ枯賀の父親の顛末を話すとなると、酒呑童子についての説明はどうしようか問題も同時浮上する。


 酒呑童子はお姉様のときめき候補の一人。コミックの特典イラストにお姉様と酒呑童子のイラストもあったし。


 お姉様、貞操観念バリ高の女なのでほかの男に迫られても、ドキ、にならず「怖い‼」「びっくり」の女だけど。


 そういうところ、大変、好き。


 千年桜は恋と咲くにハマった理由はそれかもしれない。


 私は相手役が決まってるのに、他の男の動きで頬を染める女が好きではない。


 皇龍清明様が素敵女性とかに顔を赤らめていたら死ぬほどゲンナリするのと同じだ。


 お姉様は、そもそも皇龍清明様に対してだって、最初はドキッとしてなかった。


 自分の身辺が落ち着いてきて、ようやくといったところだ。


 普通に枯賀家でみっちり虐げられていたのだから、恋愛よりもまず自尊心の回復のほうが先だし。


 皇龍清明様も、そういうのを分かっていて恋愛文脈で近づくことはしなかった。


 元々、両想いであっても手に触れることすらできないので、弱虫と言われればそれまでだが。


 っていうか皇龍清明様が、枯賀の父親をドラゴニックファイナルしてるじゃん。


 千年桜は恋と咲くでは、皇龍清明様は枯賀の父親に対し、ドラゴニックファイナルクラッシュをしてない。


 お姉様。


 お姉様の父親があやかし化したのを、強化した酒呑童子。


 強化されたあやかしは人の手に負えないので、ドラゴニックファイナルした皇龍清明様。


 物語も始まってないのになんでこんな「深い因縁が絡み合う……」みたいな三角関係になってんの?


 っていうか最悪、説明しくじれば、お姉様……皇龍清明様、父親の仇みたいに思ってしまうのでは?


 複雑な……。


「……お前、次の休み、外出禁止だからな」


 水社一心が冷ややかに告げる。


 なんでそんなことお前に決められなきゃいけないんだよ。


「嫌なら勤務時間外、外出禁止だ。休日問わず」


 なんで厳しくなってんだよ‼


 すると水社一心は無言で軍支給の懐中時計を私の目の前に突き出した。


 休日の外出許可時間が過ぎている。1分でも過ぎれば違反だが、その1分が過ぎていた。ちゃんと間に合うはずだったのに。


「違反だ」


 水社一心は少しだけ笑った。なんだこいつ。普通に門限の1分前くらいに門の中に入れって注意しろよ。


「俺のせいにするな。そもそも、お前は屯所の外に出てもろくなことしない。軍をやめないならずっと屯所の中で、管理局の局員たちと修理してればいい」


 水社一心は私の背中を押し、屯所の敷居をまたがせてくる。最初にしてくれよ。


 こういう卑怯な手を、嫌う人間だったのに。なんなんだ水社一心は。


「それはお前のせいだな」


 水社一心はこちらに一度だけ振り返ると、また門番の仕事に戻ったのだった。




 

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― 新着の感想 ―
末理ちゃんにちゃんと一心の言葉が届いてるし、一心と違反だって笑うくらい余裕が出てきてる…お互いに影響を受け合ってる関係最高ですよね!
「まだまだいける! 根性だ! いけーっ」好きww。  「──人間より霊力の籠った岩石のが硬い。──だから俺は岩石を喰う。」 うん、うん、うん…??すごい酒呑童子氏だから通せる理論で、人食べないのは良い…
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