すれ違い皇龍清明様
なんじゃこいつと思っていれば相模局長がこちらに歩いてきた。
郷田は不貞腐れた顔になった。
「郷田、またお前管理局に絡んだのか」
早速、注意されてるじゃん。
というかこいつ相模局長の前で媚び売ったり取り繕ったり、態度変えたりしないんだ。
郷田の人間尊びラインってなに?
てっきり郷田の態度から、こいつは人によって態度を変えるような分かりやすいアホバカタレだと思ってたけど、ややこしいタイプなのか?
富山局長の沸点は、輝宮寺みたいな親。
真原さんは部下を庇わない上司と、多分女。
福野さんは……多分、管理局の面々は彼なりに大事にしていて、最愛は短足動物。
お姉様は、罪を憎んで人を憎まず、人を尊ぶ。
水社一心とかは多分……気分で人はゴミみたいに思ってる時と、そこそこ守ろうと思ってる時とどちらもあるのだろう。前に野狐禅を前に伊能局長が「人間嫌いだけど守る」話をしていたが、そこに近い感性だとは思う。
皇龍清明様はお姉様か、それ以外。完結。
郷田は何?
相模局長に助力を求めるそぶりも見せないし。
「誰しも自分の身内があやかしになる可能性はある。今回は皇龍清明公による討伐だったが、本来、枯賀快炎氏の討伐は、我々戦闘局の任務だった」
え。
皇龍清明様、出たの?
軍に入ってもう、半年。
名前すら出てこなかった皇龍清明様……。
出たの?
暮日村に?
っていうか枯賀の父親を、倒したの?
確かに酒呑童子が強くしようとしていたあやかしならば、相当な強さだろうし……正直会っても見てもいない、姿かたちすら分からないけれど……。
酒呑童子がそもそも皇龍清明様のドラゴニックファイナルクラッシュに敗れたので、それで倒せるだろうけど……。
愕然としていれば、真原さんが「あっ」と顔色を変えた。
「あの、相模局長、その件、まだ枯賀、何も言ってなくて」
「……は?」
真原さんに続き相模局長が顔色を変える。
どうやらこちらへの配慮で、情報伝達がなかったらしい。
え、じゃあ、いつ皇龍清明様は……暮日村に?
戸惑う真原さんや相模局長を前に、郷田は怪訝な顔で私を見ていた。
「親族に伝達をしない? 秘匿扱い?」
郷田の疑問は、軍人としてはある意味真っ当だ。時期や様子見をしていたのだろうが、そういう疑問も出てくるだろう。
「まぁ、あの……富山局長の復帰が今日ですからねぇ。それで、武具の発注に関してなんですけど、福野が頼んだ書類が、来とらんで、一応確認に」
真原さんは話題を変えた。相模局長が「確認しておく」と、その場を切り上げようとするが、郷田が「書類もってきますか」と気を利かせた。悪意はないのだろうがおそらくこの場を離れたい相模局長に対して中々の一手である。相模局長はしばらく悩んだ後、「悪いが取ってきてくれ」と郷田に頼んだ。郷田はすぐに戦闘局の奥へと入っていく。
「すまない。ってきり富山局長が復帰する前に話をしていたとばかり……さっき伝えた通り、枯賀快炎は皇龍清明公が討伐した。消滅も確認できている。野狐禅が出現したらしいがすぐに撤退したらしい。真原と福野が立ち会って確認していることだから……まぁ、間違いはない」
相模局長は私を見た。
皇龍清明様が枯賀の父親を討伐したところに、野狐禅が出現した……?
というか、なんで真原さんと福野さんがそのばに立ち会っている?
もしかして二人は……富山局長や私の知らない間に、枯賀の父親を討伐しようとした……?
私や、富山局長に気を遣って……。
真原さんを見ると、「別に枯賀を信用してへんわけやないよ」と付け足した。
「ただほらお前、前科あるやん。刀ん時も、賊に襲われた時も、一人で飛び出すやろ。親があやかしなったら責任感じてとんでもないこと起こすんちゃうかって思ってん。相模局長や伊能局長が討伐行くまで、局長同士時間合わすんも大変やし、その間、お前、なんかするかなって」
真原さんの言う通りだ。
頃合いを見てひとりで殺しに行く気だった。水社一心にバレないよう、あいつを完全に避けていたくらいだ。それを見越してか、めちゃめちゃ付き纏われたけど。そのせいで、すぐに行けなかったのもあるし。
「野狐禅、僕らんこと皇龍清明様の攻撃から守ってくれたんよ。皇龍清明様は殺す気ないやろうけど、とんでもない威力でな、よう分からん光のあれがビャアアズドドドドドドーンッて、山とか木ィボコボコボコボコーンッて、してん」
ドラゴニックファイナルクラッシュだ。音で分かる。これ本当に和風シンデレラの威力ですか? 少年漫画の覚醒後の必殺技だったりしません? 漫画の見開きで太めのフォントで上下左右の端に四文字くらいで書かれる技だったりしません? 少女漫画カテゴリでいいんですか? という威力だ。やっぱあれ、街中で出しちゃいけない威力なんだ。
皇龍清明様……いるんだ。
死ぬほど会えないし、野狐禅現れてもなお、みたいなところがあったけど……下手したら野狐禅が屯所を襲撃している時、皇龍清明様は暮日村で枯賀家の父親に目をつけていて、最悪のすれ違いが発生した可能性がある。
ただ、枯賀の父親でもお姉様にとっては父親だろうし、皇龍清明様がドラゴニックファイナルクラッシュを放ってるところに連れていけない。
それに枯賀のあの父親についてお姉様に言う……べきだろうか。
知らん間に消えたことにしようかな。お姉様はあんなカスの父親でもあやかしになったと知ったら悲しむだろうし……。普通に蒸発したことにしても……。実母が下男と駆け落ちだし。第二段……。いやでも二回親に捨てられたみたいな悲しみを……。
知らない間に起きた皇龍清明様の登場と撤退、お姉様への説明に悩んでいれば、相模局長と真原さんが押し黙る。
「枯賀二等兵と、父親の関係は複雑です。でも一般的な、想像とは大きく異なります。今、枯賀二等兵が悩んでいるのは、自分の姉に関してだけです」
にゅるっと水社一心が戦闘局の奥から出てきた。郷田と入れ違いじゃん。
ていうか助かった。真原さんと相模局長に誤解させるところだった。かたじけない。
「今日は素直だな」
ぼそっと誰にも聞こえないよう、口すら動かさず水社一心が言う。
怖。腹話術かよ。こいつが腹話術を習得すると漏れなく無言の私にアテレコされかねないので困る。ただでさえ謎補足により管理局をかき乱すし。
「ああ、離れて住んどって、軍の情報も入ってないやろうから、お姉さんからしたら突然父親あやかしなって死んでるなるんか……難しいな……」
「まぁ、そう急ぐことも無いでしょう。元々、彼女の姉は枯賀快炎と長く住んでいたわけでもない。姉の関心は、彼女なので」
水社一心が私を見る。
言葉そのままの意味だろうけど、お姉様も私を想っているんだから変なことをするなと圧を駆けられている気がする。分からないけど。圧をかけられていると思っている時点で、中々居心地が悪い。お姉様が私を大切に思っていると考えると、そんな価値のある自分じゃないという想いが巡り、受け取れなさで、逃げ出したい気持ちが湧く。お姉様に失礼と言うのは十分わかっているのに。
「説明する時間はいくらでもあります。別に焦る必要もないでしょう」
水社一心が念を押すように言う。
生き急ぐなと暗に警告されている気がした。




