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悪役義妹がお姉様の溺愛結婚を壊すまで  作者: 稲井田そう
第五章 お姉様を狙っていた見合い相手
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隣にいるだけ


 救護局を出て、私は黙々と屯所の廊下を歩いていた。野狐禅が姿を現したのならば、霊力を辿り皇龍清明様が現れるかもしれない。そう思ったからだ。


「嘘つけ」


 なのに、救護局を出てからずっと私の後をついてくる水社一心が、勝手に私の心を読み、勝手なことを言いだす。なんだこの勝手コンボ。勝手についてくるし。勝手ビンゴ野郎じゃん。勝手ビンゴ一心。


「勝手さはお前といい勝負だろ……はは、言い返せないか」


 水社一心はわざわざ私の思考を待ちとどめを刺してきた。なんなんだこいつ本当に。


「……富山局長が、お前の為に倒れて、どうしていいか分からないんだろう」


 諭すような響きに足を止めた。何も考えないよう努めていれば水社一心は一方的にしゃべりだす。


「嫌だったんだろ」


 嫌だったらなんなのか。普段お前がしてることだとか、気持ちが分かったかとか、がちゃがちゃ言うつもりか。


「お前が……学べばいいとは思う。捨て身の行動をとると、誰がどう思うか。思い知ればいいと、思わないって言えばうそになる」


 ややこしい言い方ばかりしやがって。


 心の内で返すけど、こいつのややこしさは今に始まったことじゃない。


 直球で物言えよと思えど、こいつが直球で私に伝えてきた言葉がよぎる。


 ──お前が死ぬことで完成する幸せなんて、俺は絶対に認めない。


 ──お前は生きてるべきだった。


 言葉を伝えることに怯え、心を読んだうえで何かを伝えることを避けていたこの男が。


「でも、傷ついた人間に、ざまあみろなんて言えないよ」


 言えないよってなんだよ。普段そんな話し方なんてしないくせに。野狐禅が成りすましているのかと言いたいところだが、目の前の水社一心が、本物であることは分かる。直感でしかないけど。


 私は……傷ついている、のだろうか。分からない。自分の気持ちなんてどうでもいいから。お姉様のことさえ何とか出来ればいい。なのに、寝台で眠る富山局長の顔がよぎる。私は、もしお姉様と富山局長のふたりが死にそうになっていたら確実にお姉様の命を優先する。一番最初、局長たちが死ぬはずだった刀を折ったのだって、お姉様を傷つける刀だったから。


 あとは、普通に、ただ同じ職場で働いているから、別に敵対する意味もないから、働いていただけだ。いざとなった時、結局私はお姉様を優先する。


 でも酷い気分だった。


 寝台に眠る富山局長を見たとき。


 私の自己犠牲は、富山局長の動機と違う。局長のあれは皆を守りたいという想いや優しさ。お姉様と似たようなものだ。私は、誰かのために命を使えば、少しは生きていていい気がするという打算がある。だから局長とは違うし、私が捨て身で行くのは戦略や効率化で、局長は本来すべきじゃない。


 そう思っている。


 そう思っているけど。


「お前のまわりの人間は、そんなこと思わないよ。お前が捨て身で行くのを、戦略的だな、効率的だな、合理的だななんて思わない。今、お前が富山局長に感じている想いと、多分同じことを想うよ。管理局の人たちや、お前のお姉様が、みんなを守りたいって想う、優しい人たちなら」


 水社一心は私の隣に立った。前に立とうとも、顔を見ようともしない。ただ、隣に立つだけ。だから下手に反論できず、誰か廊下を通りがかればと思ったけど、誰かがこちらにやってくることも無かった。



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― 新着の感想 ―
お前のまわりの人間は、そんなこと思わないよ。〜みんなを守りたいって想う、優しい人たちなら」 本当に、末理ちゃんそうなのよ…本当に。 一心くんが隣にいてくれるの本当に良い。一緒にいて…。
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