福野さんの却下
「だから、霧島先生に相談しているんですけど、まぁ無理みたいなんで、それで、末理さんの言の葉の異能とか、ミヤシロ様の霊力とかでどうにかならないかなーと思う時期は、あったりなかったり」
はは、と加寿は笑う。
不謹慎な態度だが、おそらく熾窪単独ではこんな風に話すことは無い。
現に熾窪は「それは、うちの家の問題だ」と反論する。
「でも水社家にご挨拶に言ったじゃないですか。何か手がかりが欲しかったんじゃないですか」
「挨拶だ」
熾窪は言うが、そうは思えない。だって水社家に参拝したときの様子は、気もそぞろだった。
「末理さんの言葉の異能でどうにかならないものなんですかねえ」
加寿はバックミラー越しに私を見据える。
「おい」
「それに、一回試し撃ちもありだと思うんですよ。もう四、五年は使ってないでしょう? 花火大会みたいになっちゃった事件」
花火大会みたいになっちゃった事件。
時期は水社一心のハウスに上陸し、しばらく経ったころだ。そこまで全力ではないが、街で花火の暴発事件があったと誤解されるくらいの騒ぎにはなった。
事件の発端は、お姉様を馬鹿にされる、水社家に有害と、殺していいやポイント──ころポが5倍キャンペーン状態だったから。
その後に、ミヤシロ様に霊力を差し出して、もう完全に温存しようになった。
「水社家として、それは、看過できません」
それまで黙っていた水社一心が顔を上げた。
「でも、水社家も、末理さんに助けてもらったんですよね」
「加寿」
「命に関わるとかなら、もちろん別ですよ。でもそうじゃないなら」
加寿の言葉はもっともだ。でも私は、この異能をもってして、暗天妖王を倒す。
暗天妖王の討伐には、お姉様の覚醒が必要だけど、私は──お姉様に戦ってほしくない。千年桜は恋と咲くで、私はお姉様が戦う姿に心打たれたけど、今のお姉様の戦場は、きっともっと別の場所だ。霊力で結界をはったり、異能で人を癒すことだって素晴らしいとは思うけど、今のお姉様は、異能も霊力もない状態から、0から自分でものごとを成し遂げていた。
そんなお姉様の腕を掴んで、戦いを指さすなんてしたくはない。
だからこそ、この異能は温存したい。
「だめです」
福野さんが返事をした。予想してなかったのか、水社一心は福野さんに振り向く。
心が読めてない……?
いや、もしかしてだけどほぼ脊髄反射で言葉を返した?
「枯賀、何するか分かんないんです。大きいあやかしが出たら、なんか飛んでっちゃうし。そもそもこの刀を見つけたときも走っていっちゃうし。管理局の局員なので、困ります」
福野さんは「すいません」と頭を下げた。完全に断る前提で押し進めている。
「管理局のお仕事、末理さんいないとしんどいですか? 皇都に来てほしいと、結構本気で思ってるんですけど」
加寿はアッサリと話を変えた。ここでしつこくしないのが何かのテクニックなのだろうか。
「駄目ですね」
福野さんが即答した。びっくりするくらい即答だった。「そういうのは枯賀が決めることです」みたいな躊躇いが微塵もない。水社一心が加寿を見た後に福野さんをバッと見てびっくりしている。
「それ、福野さんが決めるんです?」
「先輩ですからね」
「末理さんの本当の気持ちはどうか分からないじゃないですか」
「行きたかったら退職届出してますからね」
それはそう。福野さんの言う通りだ。私はうんうん頷いた。水社一心は「これでいいのか?」とでも言いたげな顔をしている。水社一心は散々「自分が言うべきラインか」「これは権利の侵害ではないか」と考え続ける男だ。一方の福野さんは他人の境界に音速で突っ込んでいきそのまま走り去る男である。私の家庭環境が明らかになったあとの真原さんへの謎フリもそうだった。あれ真原さんが特殊なだけで、絶縁の原因に充分なる行動だった。
「福野さんがそう言ったら、末理さん皇都に残るって言い辛くなるかも」
「そのうえで決めるのは枯賀ですからね。なので、言います。決めるのは枯賀。俺は、俺が何を思うか言う。俺が枯賀が皇都にいるのを止めることは出来ないし、枯賀が、俺がいやだって言うのを止めるのも出来ない、ですよね」
福野さんがぼんやり私を見た。景色見てるのと大して変わらない、何の圧も感じない目だ。最初の頃は本当に何を考えてるか分からなかったし、こちらを拒否しているとも感じていた。
いまは分かる。
福野さんは今、「そのうえで決めるのは枯賀ですからね」としか思ってない。その目だ。
水社一心の仕草からして、福野さんは考えたことを声にするまでにラグが無いように思う。お腹すいたな、中華が食べたいな、ラーメン食べようと考えて「ラーメン食べに行かない?」と訊ねるのではなく、「ラーメン食べます」と宣言するみたいな。
「なので、オキクボ様について聞いてしまったので、話変えますね」
福野さん的には自分が神様が可愛いか聞いて私に関しての話題になったので、責任取って話題を変えたい──としてるのだろうか。分からないけど。思ったまま話をしてるのか。
「皇龍清明様って、有名なんですか」
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