水社ジャミング
「……人違いではないでしょうかねえ……あんまり、皇都来たことないですし……」
私が枯賀の父親への殺意を増幅させている間、富山局長はおろおろしていた。真原さんに蓋閉めを責められている時と同じオロオロだ。あと、珍しく自分で管理局のタイプライターみたいなファックスの紙を補給しようとして、延々と謎の印だけ新しい用紙に印字されながら排出が止まらない、と言う時と同じ顔でもある。
「ああわたしも、前任の特務課に喧嘩を売ったとお伺いしていますがねえ」
霧島先生が悠然とした笑みで富山局長に探りを入れる。
前任の特務課は誰だったか知らない。千年桜は恋と咲くでも出てない。霧島先生が特務課のトップに就任した状態から結構経って本編開始だし、そもそも、シナリオにある管理局の解体よりずっと前に霧島先生は特務課のトップに就任している。霧島先生の回想で、一コマだけ出ていたけど、死体──ぱからっぱからっぱからっひひーんでででーんでんでんでんでけでーん。
「……」
水社一心が無言でこちらを睨む。完全にバレている。水社ジャミングが。すごい、仇を見るみたいな目つきだ。私別にお前の大事な人間を傷つけたり殺したりしてないんですけど。
「殺そうとはしただろうが。何年も何年も」
は?
「お前だ」
水社一心は小声で即答して、さらに眼光を鋭くする。もっと爽やかに言えよ。怖いわ。犯行予告だよ。ホラーの「ああもうこれで全部終わったな」の後に聞いてエンドロール入って最悪な気持ちになるやつ。
「どうしたお前ら」
熾窪が引いている。傍目に見れば私はただ無表情で水社一心だけ唐突に睨み出したので、普通に引かれるわな。
「お、新しい顔だ、なんだおまえ、皇都のやつか?」
とうとう高齢者輸送シャトルランを終えた酒呑童子が戻ってきた。猫屋敷様は酒呑童子をつま先から頭の先までじっくりと値踏みして、「ふん、近くで見ると悪くないわね、品がなさそうだけど」と目を細めた。
「品ってなんだ?」
「品って言うのはね、洗練されて美しく、一日では身につかないものよ。生まれ持っていても、すぐ無くなってしまう」
「へぇ、初めて知った! お前かしこいんだな!」
「ええ。分かってるじゃない」
「ところで洗練ってなんだ?」
「きちんと磨いていることよ。技術でも所作でも、きちんと学んで、自分で選んだこと」
「なら俺洗練してるぞ‼」
「ふぅん。そうは見えないけれど、何を洗練しているって言うの?」
「戦い‼」
「戦いねえ。戦いばかりではまだまだだわ。教養も身につけないと。品は教養からも生まれるのよ」
「教養ってなんだ?」
「お稽古ね。詫び錆び。茶道でも華道でも……殿方なら剣道や弓道でも。ああ。絵やお習字もいいわね。貴方したことある」
「全部ない‼」
「だからだわ。それがちゃんと出ているもの。一つでもすれば随分変わるのではなくって」
猫屋敷様は高飛車キャラみたいな言い方をするが、やる気のある人間への助言はそこまで惜しまない。
「で、早速ですけれど猫又について帝都の皆様とすり合わせをさせていただけたらと思っておりますの。準備はよろしくて?」
猫屋敷様はあたりを見渡す。「は、はい……」と富山局長が困惑気味に頷くと、彼女は扇子を取り出し口元を隠した。
「猫ノ陣・転」
ぱしっと猫屋敷様が扇子を閉じる。その瞬間、景色が駅前から和風御殿の前に一変した。猫屋敷様のおうちである。任侠や極道物の和風家屋の豪華版だ。
「すげーお前こんなこともできるのか⁉」
酒呑童子が猫屋敷様に驚いている。
「ええ。何人もの殿方を一気に転移させることくらい、お手の物ですわ」
「すげー‼ で、ここどこだ?」
「わたくしのお屋敷ですの」
「でけー! 大工すげー頑張ったんだな!」
「え、ええ」
猫屋敷様が酒呑童子に戸惑っている。猫屋敷様は基本的にすぐ自慢するし家や自分の能力についてめちゃめちゃひけらかす。そして嫌われることが多くレビューでも「自分の家がすごいのであって自分がすごいわけではないことに気付かない高飛車御嬢様」と結構嫌われていたが、酒呑童子はにはそういう感情が無い。私は……金持ちは嫌いだけど、正直猫屋敷様に対してはお姉様を傷つける言動を複数回繰り返したことが嫌なのであって、正直今は微妙だ。嫌悪はない。お姉様を傷つけてないし。傷つけたら別だけど。
でもなんだろう。金持ちへの憎悪みたいなのが若干薄れてきた気がする。水社一心の影響か? それとも、ゴミみたいな金持ちとそうじゃない金持ちと、種類が見えるようになったからだろうか。
郷田あたりが猫屋敷様に会ったらどうなってたんだろう。あいつも金持ちというか恵まれた人間が嫌いで……おそらく同族だし。




