次は終点、皇都。
朝になり目が覚めると──、
「朝じゃない」
お坊ちゃんのモノローグ介入型夕焼け目覚ましを聞き流しながら目を覚ますと、見慣れない景色が車窓に広がっていた。
オール竹林。
竹林、仏塔、城、竹林、畑、畑、森林、仏塔、城、森林、森林、滝、山、田んぼ、畑。
五秒間隔で横切る仏塔に、皇都の到着を実感する。
「起きたそばから煩い」
起きたそばから煩い。
水社一心とハモった。ハモハモ一心じゃん。なんなんだろうなこいつと思いつつ伸びをすれば、「はしたない」と鎖骨のあたりを腕でおさえつけられた。安全レバー一心じゃん。なんだこいつ。
「張るな」
何を。
「どう」
どうってなに。
「胴体だよ。察しろ!」
ああなにおっぱいの話してる?
「バカ!」
水社一心が小声で注意してきた。
どうやら伸びたことで、グラビア誌にあるようなポージングになっていたらしい。
その様子を霧島先生がじっと見つめている。
霧島先生は私に気付くと「ご安心ください。性別問わず、胸は見ません。それがとても失礼で、相手の心を傷つけてしまう行為だということを、私はきちんと知っています。こちらが見ているのはあくまで霊力回路、あやかしとの適応性、実験の可能性のみです」と笑みを浮かべた。怖いよー。それが分かるなら他人を実験台にすることも傷つける行為だと理解してほしいよー。
そしてこういう時、加寿は静かだ。女好きだが、相手からの許可が発生するまで触れたり見たりしない。しかし近づくし口説くので加害性が無いとも言えない。
「そろそろ到着するから気つけとけよ」
蝦蟇貪の声が遠くで響く。かなりのヘビースモーカーと推察するけど、列車乗ってる間どうしてたんだろう。後ろを確認すると、皇龍清明様が福野さんを観察していた。
福野さんはおそらく列車内の移動販売で購入したらしい、列車のマスコットキャラの絵ハガキを食い入るように見つめていた。足の短いぽてっとした金の鳥だ。ビジュアルが若干、野狐禅と戦った時に富山局長が召喚して失神した鶏に似てる。
「あれは鳳凰だ。皇都の……象徴だが?」
水社一心が怪訝な顔で耳打ちしてくる。
あれが、鳳凰?
鳳凰は千年桜は恋と咲くでも出ていた。でも福野さんのもっている絵葉書は、600倍くらい可愛く描かれているし、本物は神々しいビジュアルなので、ギリギリ不敬に感じるし、正直ぱっと見で分からなかった。水社一心が怪訝そうな顔をしてきたのは、多分皇都の情報なのになんで千年桜は恋と咲くを知る私が知らないんだ? あのキャラは出ないのか? といったところだろうが、外見がかけ離れ過ぎている。皇都の人間はセーフなのだろうか。本物もっと、大人がやる、タイトルが英語とか長めのカタカナのカードゲームの作画みたいなのだ。
「なんだそれ」
水墨画とか。っていうか何だ水社一心は。なんで、こうもナチュラルに「こいつは千年桜は恋と咲くを知ってるから皇都知ってるだろ、なんでマスコットキャラ知らない?」みたいな態度で接してくるんだ。何? 転生ものも読んでたけど、転生知識を身近な人間に伝えるのは終盤だったし、基本口頭なので、相手の理解は比較的遠い。でもこいつはカタカナも覚えるし、マスコットキャラという単語もおそらく理解しているし、カードの絵みたいという、他は分かってます感、何? こわ。
「お前怖いと思う所がずっと5年はズレてる」
「何が怖いのですか?」
霧島先生が目をキラキラさせながら問いかけてきた。
水社一心は、「枯賀二等兵は、水社の異能に、委縮しないので」と簡潔に答える。
「私は興味深いと思っていますよ」
霧島先生が即答した。張り合わないでほしいし、水社一心に興味を持つのもやめてほしい。霧島先生を倒すのは本当に大変なので。
考えていれば、ゆっくりと列車が停まる。
「さて、皇都についたようですね。では改めまして、ようこそ、皇都へ」
ニタァと霧島先生は笑う。どう考えてもそれまで仲良くやってきたキャラが裏切るときの顔だった。
富山局長が「忘れ物ない?」と周りを見渡す。酒呑童子は「ないぞ⁉ こっちもない‼」とちょこまか確認し始めた。素直。福野さんと真原さんはゆっくりと立ち上がり、加寿はこちらに寄ってくると「荷物持ちましょうか?」と声をかけてきて、私は、重そうな荷物を抱えた熾窪を指さした。
「いや、俺はいいよ」
熾窪は断る。
「私の荷物を持っていただきましょうか? ああ、蝦蟇貪様のお荷物でも」
断られた加寿に対し、霧島先生が蝦蟇貪に視線を向けるが──、
「俺はいいですよ、そもそも荷物なんかその場で買って送り付けたほうが早いのでね」
蝦蟇貪は断り、運転手兼護衛は蝦蟇貪の代わりに会釈した。怒涛の勢いで加寿がふられている。
とうとう皇都に着いた。
誰も欠けず、猫又だけぶっ殺して帰れればいいなと思いながら列車から降りた。




