列車の終わり・神の穢れ
「風呂入ってねえのか? 俺が入れてやろうか?」
酒呑童子が私の座席に肘をつく。映画館で絶対しちゃいけないことをするな。
しかも水社一心が横目でにらんできた。
「神の穢れは人々が脅威とする埃や汚れとは大きく異なるのですよ」
霧島先生が真っ当なことを言った。もう終わり。
「清らかなる霊力を持つ女性の御心による浄化が必要なのです」
そして千年桜は恋と咲くの説明を難化させた言葉を用いて酒呑童子に伝えるが──、
「女の精神ってなんだよ。身体が違うから女の身体だけいるならまだしも精神ってなんだ?」
酒呑童子に理解できるか怪しんだけど理解しているし哲学を始めた。
女の身体は女の身体だし、男の身体は男の身体、別物である。
精神といわれると、月経の時に神経の乱れが発生し判断力に影響が出る場合もあれど、個人差が強いしそもそも月経そのものが起きない、起こさないようにしている人間もいるわけで。
女も男もそれぞれ異なる部分があるわけだが──、
「女性の御心……」
福野さんが首をひねる。
「今、女性の御心とはなんて言うて例題出して、別にそれに枯賀が当てはまる当てはまらない無しに、この場にいる女は枯賀しかおらへんで、枯賀が居心地悪なるでしょうから、僕が言うんですけど、僕以外全員女の輪に入れられとるんで、なんか、神様が考える女性の御心いうんは、繊細で、配慮出来て、おしとやかみたいな、まさに大和なでしこみたいな感じと違いますか。僕の血縁は全員対極ですけどね」
真原さんが私を気遣ってくれたらしい。自分の身を切りながら例題を上げる。
「女々しいとかって言葉もありますけどね」
福野さんが空気を一変させた。
「くよくよ悩むとか、気にしいとかなぁ」
蝦蟇貪が例を出した。男女間の問題は全部蝦蟇貪に説明させたほうが周囲、気を遣わない気がする。蝦蟇貪はもう、現代なら分かりやすく燃える人だし、下手に「自分は分かってます」ではなく「偏見の塊」「シンプルに不正とかする」「悪い幹部」の代表なので、多分気を遣わないだろうし。
「へえ、じゃあこいつだろ」
びしっと酒呑童子が指さしたのは皇龍清明様だった。
それはそう。皇龍清明様に対する低評価レビューに頻発する単語三選『性格が暗すぎる』『女々しい』『ネガティブすぎる』だ。しかも該当レビューが出るようになったのはノベル5巻、コミカライズでは8巻を過ぎたあたり、きちんと読んだファンが、皇龍清明様視点のモノローグを知り、「こいつはやべー」と判断した結果である。
「お前の活躍の機会だろ、お前くよくよ悩むし、うじうじしてるし、俺手伝ってやるから」
ドン、と酒呑童子が皇龍清明様の肩を叩く。お姉様が未覚醒なのにどうしようという不安が酒呑童子の無茶振りで何とかなりそうな気がしてくる。
清らかなる霊力を持つ『女』の精神による浄化を、「女々しい男」でなんとかしましょうってどうなんだろう。
「いや、熾窪神のことは、熾窪神社で……」
そして、先ほどから周囲の雰囲気に圧倒されていた熾窪が、ようやく口を開く。しかし加寿が、その肩を叩いた。
「猫屋敷様がお怒りなんですよ? 帝都の皆さんにもお越しいただいて、猫又は絶対討伐しなきゃいけない。その時にオキクボ神からのご加護を満足に得られないのは困るじゃないですか」
「でも」
「それにほら、猫又の調査は皇都本部とも連携するわけで。猫屋敷様のこともあるんだから。結局変な待機時間とか、皇都に到着してちょっと待っててくださいって時間もあるでしょうし、そういう時どうするんです? 皇都観光してくださいって言って待たせても皇都の上層部からすれば遊びに来たように見えて帝都と皇都の分裂が進んじゃうじゃないですか」
加寿の言葉に、熾窪が考え込み、「まぁ……」と視線を落とす。
霧島先生は「確かに皇都に到着したら本部に向かった後、少々時間もありますし、オキクボ神社に参拝するのもいいかもしれませんね」と微笑んだ。
「研究も出来ますしね。皇都に住む人間として、オキクボ神の穢れは気になります」
気持ちがだいぶ先走っている。研究したさ100だ。霧島先生と熾窪、加寿は長い間チームでやってきた設定があるが、チームへの心配ではなく研究100。THEカスのマッドサイエンティスト。とんでもないなと思いつつ、水社一心に視線を向ければ、奴はこちらを見ていた。怖すぎる。ホラー映画の20分過ぎくらいかとおもった。怖い奴がひょろっと出てくるやつ。
私は気を取り直して車窓に視線を向ける。ただ、すぐにトンネルに入ってしまった。お先真っ暗。
「おい」
ひとまず戦いに備え、寝に入る。10時間以上の長旅だ。それに皇都に着けば熾窪の神様問題、猫又討伐、それに伴う猫屋敷様のお相手でどうせ疲れる。
私はアイマスク代わりに手ぬぐいを目に当て眠りに入った。




