中二病の片鱗
まさか元々鍔は一つしかなく、鵺を吸収したあと鵺が勝手に刀を乗っ取るようになり、おそらく鵺の精神世界で握手したら鍔が一枚追加され、さらに謎ギミックにより回転発光し必殺技みたいなものが撃てるようになりましたなんて言えるわけがない。
考えていると、酒呑童子が立ち上がった。
「これが、本体! こっちが、多分あやかしだな!」
酒呑童子が鍔を指でさした。
「あやかしを鍔にしたのですか⁉」
霧島先生はさらに大きく目を見開いた。
「何か新たなる異能の目覚めで⁉」
さらに手をわきわきさせながら刀に触れようとする。すると、鵺の手みたいなデザインのほうの鍔が細長く黒い二本の手を伸ばし、バツを作った。
霧島先生の質問のせいでこの鵺謎刀は変な主張方法まで獲得した。
「よく見ろよ、勝手に鍔になってるぞ、このあやかし……っていうかもうあやかしじゃなくてよく分かんねえ何かだけどよ。元はあやかしな気がするが、今はもう物みたいだし」
酒呑童子が二本の手を指でつつく。鍔はびっくりしたのかピャっと元のデザインに戻った。
「だからこいつの刀は、よくわかんねえのとよくわかんねえのが合体してるんだ‼」
「へぇええ‼」
酒呑童子の言葉に霧島先生の興奮が止まらない。
「この刀、元は霊力を吸う刀とお伺いしていますが、今は任意とのこと。あやかしを吸収し、その力をものに出来る刀……なのでしょうか⁉」
霧島先生は私に話しかけてくるが、知らない。
この刀は千年桜は恋と咲くでは持ち主を変えまくり、お姉様を傷つける尻軽クソ刀だったが、強いて言えばそれ以外のことは何も知らないし、ここ最近皇龍清明様により「色々な恨みつらみの集合体ですよ」と分かっただけで、正式回答が「普通の謎の呪い刀」というホラーアイテム。
「末理さんは霊力が無いから、この刀に霊力を吸われずに済んだ……ゆえの適合でしょうか。ならば霊力が無い人間であればこの刀を使いこなせる……?」
確かに。
私は霊力が無いからこの刀に霊力を吸われ死ぬことは無い。
霊力が無い人間はいっぱいいるわけで、誰でも使えそう。
ヴッ
刀振動した。肯定しているのか否定しているのかさっぱり分からない。
「末理さんがこの刀で戦っている姿を、拝見したいところですが……」
嫌だ。
霧島先生に見せるのが嫌。
だって霧島先生に興味を持たれることは、変態に好かれるのと同じことだから。酒呑童子に「おもしれー女枠」にぶち込まれても命に関わらないし、毎晩酒呑童子が会いに来ることはないけど、霧島先生は枕元に立ってくるくらいのことを平気でする。そして実験に付き合わされる。
千年桜は恋と咲くを読み込めば誰でも分かることだ。
「ああ、気になる……気になります……‼ この刀……神も喰らえるのでしょうか」
そう言ったところで熾窪が表情を曇らせた。
不謹慎すぎる。
水社一心の顔を見ると、特に気にしていない顔だった。水社一心なら私の心をそのままお届けしているので、私がミヤシロ様をちょん切るなんて思わないし。むしろミヤシロ様をちょん切ろうとする存在を私が切断排除に動くこと、その時の残酷な工程について止めなきゃみたいな考えになるが、熾窪からすれば私の心なんて読めないので不安だろう。
「ああっ熾窪くん、ご安心ください。熾窪神社の神様は皇都でも重要ですし、実験につかうことはしませんよ。ふふふ」
霧島先生は誤魔化すように笑うが、熾窪は「どうも……」と引き気味に相槌をうつ。加寿が「ほらあ」と霧島先生を押さえた。
「駄目ですよもう。皇都に着いたら合同調査で猫又の討伐なのに内部分裂まで始まったらどうするんですか⁉ ただでさえ今熾窪神社大変なんですから!」
「大変? どういうことです?」
霧島先生が目をぱちぱちさせる。そこでもう知らない、連携取れてないとなると困るが。
「加寿」
熾窪は加寿の言葉を止めようとする。
「今、熾窪さんのところの神様大変なんですよ、弱ってて」
「加寿」
「言っておいたほうがいいじゃないですか。皇龍清明様もいて、あやかしの知見も得られるいまのうちに助け求めないでどうするんですか」
「……どういうことです?」
それまで黙っていた蝦蟇貪が目を細めた。
すると、加寿がキッパリと告げる。
「今物凄い穢れてるんですよ、オキクボ神」
「神が穢れる……?」
水社一心が深刻そうにつぶやく。
神の穢れ。
千年桜は恋と咲くで定期的に発生する。
神様が穢れているので、浄化しなくてはならない。
穢れの理由はあやかしや、他の者に恨まれて、もしくは神自体が何かの負の感情に苛まれてといろいろだが、解決策は──一つしかない。
覚醒後のお姉様が、浄化することだ。
清らかなる霊力を持つ『女』の精神による浄化じゃないと、神の浄化は出来ないから。




