猫屋敷様
「駄目だぞ、こいつバカだからよ、霊力の回路勝手に捨てちまってな!」
酒呑童子がわははははと笑い飛ばす。
「なぁ」
酒呑童子の呼びかけに、皇龍清明様は「捨てたかどうかは知らないが、機能はしていない」と付け足した。
「機能を復活させることが出来ないかと思うんです。それこそ、酒呑童子さんと皇龍清明様の両者が上手く回路を作りなおせば──」
「死ぬ」
霧島先生の言葉を皇龍清明様が遮った。
「死ぬ。人にそんなことをすれば死ぬ」
「一回あやかしにしなくちゃいけねえんだよな」
酒呑童子が「バカな弟子だ、前は戦い方までバカだった」とバカを繰り返す。
「あやかしにする過程のギリギリの範囲で回路を復活させる方法も……」
霧島先生が私を興味深く見つめる。嫌だな。この状態で霧島先生のまわりで瀕死になろうものなら確実に酒呑童子にあやかしにされ、霧島先生のウキウキ謎実験に巻き込まれかねないし、最悪霧島先生に半殺しにされ、酒呑童子にあやかしに……ルートを辿りかねない。
「せんせ、駄目ですよ。末理さん怖がらせたら。こんな男ばっかりの中に入れられて、ただでさえ霧島先生背も高いんですから、怖いことばっかり言ってたら余計怖いですよ?」
加寿が止めに入った。
「ね、熾窪さん」
「まぁ確かに……そもそも、皇都に向かうのは、猫又の討伐ですし、帝の許可なしに帝都の人間を実験に使ったら、皇都の令嬢たちが怖いというか……それこそ猫屋敷様が猫又の事件でかなりお怒りなので……」
猫屋敷様。
皇都の人物だ。お姉様を気に入る、ご令嬢キャラである。
お姉様を「お姉様」と呼び慕う。血縁無しのシスコンキャラだ。
「猫屋敷様? ねこ」
福野さんが目を輝かせ、突然勢いよく振り向いた。どんなあやかしが出ようと驚かない皇龍清明様がびくっと肩を跳ねさせる。真原さんが「申し訳ないです、彼、財閥や貴族にものすごく距離があって」と誤魔化した。
皇都には、苗字に動物がいっぱいいる貴族グループが存在する。
その代表が猫屋敷家という家で、文字通り猫がいっぱいいる。猫の神様を奉っており、霊力を発揮する時は猫耳がぽんと出てくる一族で、皇龍清明様のように異能はないがドラゴニックファイナルクラッシュのような必殺技がうてる。皇龍清明様は遠距離攻撃だが、猫屋敷様は接近系だ。
その当主である猫屋敷様はご令嬢。幼い頃から当主として君臨しており、他の動物が苗字に含まれたグループのトップにも立っている、にゃんにゃん系極道の女だ。
猫又事件が明るみになる前に、皇龍清明様とお姉様の皇都旅行中に登場、映画で例えるなら声が声優ではなくタレントや芸人起用の限定ゲストキャラのような立ち振る舞いなので、猫又とは無縁であるが……。
「猫又については、たとえ生きて捕らえようとも速やかに討伐せよと、猫屋敷様から厳命があり、なおかつ霧島先生には、実験目的で生かそうなどとぬるいことは考えるな、猫への偏見が助長されることがあれば、分かっているな……と、お話がありましたので」
加寿が笑う。
笑い事ではない。
猫の神様を奉っている家の人間として猫又事件とかち合えばキレるだろう。
だって千年桜は恋と咲くにおいての猫又は結局、三本爪の痕を刻んで人を殺すゴミカスが、たまたま猫耳をつけている程度の存在だから。猫好きからすれば「なんじゃこいつ殺してしまえ」になるだろう。
「猫屋敷様は一刻も早く猫又の討伐をと強く訴えておりますので、霧島先生が、それこそ帝都の軍人の霊力を回復しよう、なんて……末理さんには悪いですけど、寄り道していたら、確実に、殺しに来ますよ、霧島先生のこと。実験室も家も、めちゃくちゃにされるかも。しかも猫屋敷様って、皇都に多額の献金が……」
「それは恐ろしいですね、研究費用も天秤にかけられて……すみません末理さん。貴女の霊力を回復させるための努力を、まだ私はできないようです……」
霧島先生は残念そうに私を見る。全然しなくていい。霊力の回路は、治ったらいいなレベルで、実際のところ、この刀と強くなる方向で行きたい。
ヴヴッ
刀が振動した。
返事してんのこれ?
心読んできてるの?
水社一心とキャラ被ってんじゃん。
「被ってない」
水社一心がぼそっと否定する。
「この刀……」
霧島先生の関心が刀に戻ってきてしまった。
「美しいですね、二重鍔……本当に素晴らしい……どんなふうに戦うのでしょう……」
ふふ、と霧島先生は笑う。
……中二病?
マッドサイエンティストは中二病扱いされることがよくあるけど……。
いやでもギミックが好きなタイプかもしれない。
「これ、なんで二重鍔なんです?」
霧島先生は目を輝かせる。
怖いくらい子供みたいな目つきだった。




