ホラーハウスの誘い
「今は亡き、枯賀家当主が知っていたそうです」
水社一心が答えた。
嘘じゃん。
大嘘じゃん。
霧島先生だぞ相手。カスのマッドサイエンティストだぞ。お前の嘘を見抜くためによく分からない薬を発明してお前に飲ませかねないのになんてことするんだお前。
「ほほう、末理さんのお父様ですね。あやかしにされてしまったとか……大層残念でしたね。お悔やみ申し上げます」
霧島先生は私に手を合わせるが、ここで分かることがある。本当に慈愛に満ちた人間は身内が死んだ人間に対し頭を下げたとしても、拝むようにはしない。今の霧島先生は手をすり合わせている。ここが霧島先生の怖いところだ。知識として「思慮深い人間」をうっすら覚えるが、自分の本当に興味があることにしかきちんとした記憶力が発揮されないので、「心優しい人のマナー」が外国のスシみたいになる。
「しかしなぜ枯賀家の当主が、その刀について知っていたのでしょう。調べたところ軍でも把握できていない、よく分からない刀です。あやかしと通じていたのでしょうか……」
霧島先生が首をかしげ、私を見据える。そして「ああ」と高い声を上げた。
「末理さんをあやかしと疑ったわけではございませんよ。それにあやかしでも私たちに協力してくださるのならば、問題もないでしょうし。それに、かつて莫大な霊力を持ちながらもそれを失ってしまった貴女の身体には神秘がある。敵対する意向は一切ありません」
霧島先生はくすくす笑う。嫌な予感しかしない。
「なので、末理さんのお宿は私の自宅です」
怖すぎる。犯罪者の家じゃん。ホラー映画の導入じゃないんだから。霧島先生の家に泊まるなんて旅行中自家用車が故障して気のいい現地の人間に助けてもらい家に泊めてもらうことになったものの、恩人と思った相手は殺人鬼で──系から始まる洋画のシチュエーションと完全に一致だ。絶対地下室に一人二人心臓とか何かの臓器が無い死体があって、たまたま『仕入れ』をしているなにかを見かけて惨劇の一夜が始まるまで想像に容易いのだから。私は「申し訳ないです~」という表情を浮かべ、自分の右手をワカメをもすように揺らす。私は海藻です。にょろり。
「そんな、お邪魔だなんてとんでもない。皇都の寮は、帝都より予算は降りてますが結局は軍人の寮ですからね。女性ならばやはり私の自宅のほうが過ごしやすいと思いますし」
私は笑みを浮かべ右手でワカメを作りながら水社一心の足を蹴とばした。
私一人だけお宅にお邪魔するなんて忍びないです。末端二等兵なので、と言え。今すぐにだ。
「枯賀は、一人だけいい思いをしてしまうのは……と」
水社一心が言うと、霧島先生は「いいじゃないですか」と私の顔をのぞきこむ。
「言霊の異能は素晴らしく貴重です。貴重なものはそれ相応の扱いを受けるべきですし、私は貴女に泊まっていただきたいのです」
霧島先生がそう言うと、「ちょっと困りますねぇ」と蝦蟇貪が口を開いた。がつん、と私の座席に手をかける。
「申し訳ないんですけど、帝都一回、彼女と皇龍様の見合いをねえ、設けさせて頂きまして、まだ……日が経ってないんですよ。あんまり。なのでちょっとねえ」
蝦蟇貪が止めにかかる。
「ああ、ご安心ください。そういうのじゃありませんから。あははっ」
霧島先生は爽やかに返した。怖すぎる。話しが通じないタイプの人だ。すると加寿が、「あ、俺も泊まりたいなあ。霧島先生の家泊まったことないんですよね。いい酒置いてありそうだし」と立ち上がる。
霧島先生は想定外だったのか、「おや」と目を細めた。
「加寿くん、私の家に興味を示したことは、なかったような……」
「だって家に行きたいなんてこんな機会無いと中々言えないじゃないですか。それに、皇龍様や酒呑童子も霧島先生の家に泊まるんでしょう?」
「え」
「だって皇都の寮に……というのも難しくないですか?」
加寿は霧島先生の前で首をかしげつつ、こちらにウインクしてきた。霧島先生のハウスに単独宿泊は嫌なため、ギリ有罪に出来ないウインクだ。
「確かに、そうですねえ……あやかしの生態についても気になるところですし……」
「ほら、みんなで泊まったほうが面白そうですって。それに、末理さんと色々話がしたいなら、普通に先に列車内で話をしたほうが早いですし」
「うん、それもそうですね」
霧島先生は嬉しそうにして、私にまた視線を戻した。戻さないでほしい。
「では、早速質問に移ります。霊力をもう一度得たいと思うことは……ありますか?」
霧島先生は私を見据える。
霊力をもう一度得たいか。
答えはイエスだ。霊力があれば暗天妖王を殺しやすそうだし。戦力になる。
軽く頷くと、「それはそれは」と霧島先生は好感触だった。
「いや、今、私、霊力そのものについて調べているんですよ。でもほら、霊力を持たない人間に対して霊力を無理に注げば、やっぱり霊力を失うことと同じ反応が出てしまう……水社家みたいに。でも私、気付いたんですよね、霊力が元々大量にある人間に霊力を注げば──そうした心配はいらないって」
霧島先生は笑う。
カスのマッドサイエンティストらしい笑みだった。




