皇都直行列車②
千年桜は恋と咲くあるある。
クソほど治安が悪い。
「おい」
水社一心にモノローグ介入をされながら私は立ち上がる。
千年桜は恋と咲くにおいて、基本的にお姉様と皇龍清明様が出かけると、暴漢がこんにちはしたりスリや強盗が現れ皇龍清明様や直近登場の新キャラが成敗する……という流れが中々の頻度であるのだ。
「スリもおるんですねえ、こんないい列車でも」
真原さんが立ち上がり、その後方では福野さんが無言でこちらに来る。
「よし、根性叩きなおしに──」
「酒呑童子、お前は富山押さえ係だ」
酒呑童子が蝦蟇貪に止められた。
「うお? 何でだよ」
「泥棒はお前の弟子に任せればいい。お前が戦ったら列車の壁が抜けたりするだろ。何で高い金払って隙間風が通る列車なんて乗らなきゃいけねえんだ。富山押さえてろ。こいつは手ごわいぞ。軍の命令違反何回繰り返したか分かんねえんだから。いわゆるツワモノって奴だ。強い奴にしか頼めねえ」
「おお‼ 俺やる‼」
酒呑童子が富山局長の目の前に立つ。
「蝦蟇貪さん……」
「お前文句言える立場じゃねえぞ。伊能共々尻ぬぐいしてやってんの誰か忘れたわけじゃねえだろうな。七五三の間隔で問題起こしやがって」
蝦蟇貪の反論に富山局長が黙った。
身に覚えがあるらしい。しかも七五三の間隔で蝦蟇貪のところまで問題が届く規模のことしてたって何?
とりあえず今は泥棒を何とかせねばと、声の聞こえてきた前方の車両に向かう。
丁度男が三人こちらに駆けてくるところだった。最後尾の男は宝石の首飾りを握りしめている。盗んで列車の一番後ろから飛び降りて逃げる、という算段だったのだろう。前から逃げたら轢かれるし。途中から逃げようとして──バレたか。
「ぐ、軍人⁉」
私を見て泥棒たちは驚く。帝都と皇都を繋ぐ直行列車とはいえ、軍人たちは行事や盆暮れ正月以外中々乗らない。一番後ろに軍人たちが乗ってるとは思わなかったのだろう。しかも今日は酒呑童子と皇龍清明様までいる。もう終わりだ。
「でも女だろ、なんとかしろ」
「え……くっそおおおおおお」
先頭の男がナイフを取り出し、こちらに向かってくる。もう一年鍛えたし異能が無くても民間人の制圧くらいはなんとかなる。ナイフを奪って他の乗客に見えないように床で締める。
「福野」
「はい」
真原さんが軽々と福野さんを投げた。福野さんは二番目に立っていた男の目に自分の手をかざす。福野さんの異能は光の照射だ。視界を奪われた泥棒は福野さんに制圧された。
最後尾にいた男は、逃げようとするが──、
「ここでやめときましょう。逃げ場なんてない。ちなみに僕に対して反抗すると、帝直系管轄への妨害として罪は重くなります。そのまま、両手を上にあげて膝を折るだけでいい」
最後尾の男の真後ろに加寿が立っていた。首飾りも加寿の手にある。
「うるせえ‼」
しかし男は最後の抵抗を行った。すると──、
「抵抗あり、残念ですねえ」
柔和な声が響き、三人の強盗の足元に魔法陣みたいな文様が浮かび、発光する。
そして謎の文様が泥沼のようにぐにゃりと曲がり、男たちを飲み込んでいく。
「いやだ、なんだこれ」
「うわっうわあああああああああっ」
「たすけてったすけてーッ」
どぷん、と文様に泥棒たちが沈み、見えなくなった。乗客は騒然としているが、今度は天井から文様が浮かび上がり、成人男性のつま先が出てきて、ぬるっとした速度で全身が出てくる。
「どうも、皇都退妖軍、帝族直系特務課の霧島です。お騒がせして申し訳ございません。この国の皆様の安全をお守りするために、不埒な人間は排除いたしましたので、どうぞご安心くださいませ」
天井からシュールに登場し笑みを浮かべるのは霧島先生だ。
さっきの怖すぎる人間飲み込み紋の制作者でもある。完全に登場の仕方がヴィラン。彼の脳内を読んで大丈夫なのか不安になるが、水社一心は案外平気そうだった。もしかして泥棒に気付かなかったの含め、皇龍清明様の心の声がバカでかい可能性もある。だって霧島先生が出てきたら水社一心は確実に具合が悪くなるはずだから。
「途中で乗って来るって……」
加寿が戸惑っている。霧島先生は「ええ、待っていたんですけどねえ。飽きちゃって」と笑い、私に視線を向けた。
なんなんだろうと見返せば、霧島先生は口角を上げる。
「その刀はお使いにならないのですか?」
霧島先生の問いに私は頷く。刀なんか抜けば乗客が怖がる。
「勿体ない」
そして霧島先生は、私の後方にいる水社一心に視線を向けた。
「心が読める対策は、幾分かさせて頂いておりますが、いかがですか?」
どうやら霧島先生は水社一心対策をしているらしい。良かった。霧島先生の脳内は本当にカスのマッドサイエンティストなので、労働災害に近いし。
「はい。静かだとは思いますが」
「良かった。私の心を読ませてしまうのは、可哀そうですから」
自覚あるらしい。霧島先生は「では」と乗客に挨拶すると、加寿に「盗難被害者のことは頼みましたよ」と、蝦蟇貪たちのいる車両に向かっていった。




