皇都直行列車①
帝都から皇都行きの列車は、ほぼ丸一日かかる。
ちなみに皇都直行の特別路線が通っているのは。帝都退妖軍の屯所そばの駅だけだ。鉄道の運営は国……国営鉄道なので、帝都退妖軍と皇都退妖軍の利便性の為に設けられた特別路線。この駅を使わない場合は、色んな駅を乗り換えて屯所そばに来て皇都直行の特別路線に乗るか、地道に乗り継いだり船に乗って皇都に向かうしかない。その場合の所要時間は約3日ほどだ。
「はーあ、国でやってんならもうちょい速く走れねえのかよ」
蝦蟇貪が車窓を睨みつけながら文句を言う。蝦蟇貪の前に座る護衛が、「ご自身が国政に入ればいいだけですよ」とぼそっと呟き、「うるせえなあ」とため息をつかれていた。乗車の時、ほかの乗客に対しては「お先にどうぞ」が出来たのに、蝦蟇貪の護衛の都合上ほかの乗客と隔離され乗務員が去った瞬間にこれである。
「いいか列車の中で騒いだら、放り投げちまうぞ。列車の中で騒いでいいのは赤ん坊だけだぞ、赤ん坊って知ってるか。人間の雑魚の中にも段階があって、一番弱いのがそれだ。お前は赤ん坊じゃないから、騒いだら放り投げる」
その後ろでは、酒呑童子が皇龍清明様に話しかけていた。
鉄道は二席ずつ向かい合う、四人でワンセットのような仕組みだが、蝦蟇貪と護衛と富山局長の三人、福野さんと皇龍清明様と酒呑童子と加寿の四人、私、水社一心、真原さん、熾窪の四人という組み分けになっていた。
カスのマッドサイエンティストこと霧島先生だが、途中の駅で乗車して蝦蟇貪と護衛と富山局長のいる席に座るらしい。「途中の駅で停車するなら直行ではないのでは?」というところだが、定期的に社内の販売品の補給や、点検の時間が設けられるのだ。普通の人間は途中駅で停車しているこの列車に乗り込むことは出来ないが、霧島先生は例外だ。皇都の「刑事ドラマたまにある特別に設けられて色々法外なこと出来る謎部署のトップ」なので権力行使も出来るし、軍医として参加せねばならないと、いくらでも特別待遇を受けることが出来る。
ただ霧島先生はカスのマッドサイエンティスト。
色々真っ当な理由を並べることは出来るけれどそれはそれとして「忍びこんでみた」をガチでやりかねない。
「あんま言いたないんやけど……枯賀、荷物少なない? 福野と、変わらん……何か起きた?」
真原さんが私の荷物を見て心配している。私は問題ないことを伝えるために笑みを浮かべた。
「枯賀だけが大丈夫や思うとるときの顔やろそれ。なにした」
真原さんが怪しむ。水社一心が「さっき熾窪中佐や福野上等兵からもお話があり、福野上等兵と構成が変わらないそうで」と告げ口してきた。
「福野と変わらんて相当やで……すみません熾窪中佐、今回の任務の宿ってほんまに、なんも持っとらんでもなんとかなります……?」
「戦いの中で荷物まで気は配れないからな。ある程度揃ってはいるはずだが……でも、帝都のものと、皇都のものって、色々違う……よな?」
熾窪は不安になってきたらしく、真原さんに訊ねた。
「はい。だいぶ違いますよ……布とかも違いますよね、帝都と、水も違いますよね?」
「違うよな? 違うよな……大丈夫なのか?」
熾窪は真原さんに確認するが、真原さんは「大丈夫やない……え、福野と同じて、ほんまに? 福野が言ったやつで、ああ自分もやってなった?」と私に聞いてきた。私は大きく頷く。
「あの、熾窪中佐がこう言ってるから、僕も言うけども皇都結構違うで? 石鹸とかも、帝都の軍の支給品よかええやつと思うけど」
真原さんがそこまで言ったところで水社一心が「あの」と口を開いた。
「枯賀全部支給品です。軍の。石鹸も何もかも。水社家から持って行ってないので。あるやつでいいの一点張りで。荷物になる、みたいなこと言って……」
水社一心の言葉に、真原さんと熾窪が顔を見合わせた。美意識が高いのかな。
「美意識が高いとかじゃない」
水社一心がすぐに注意してくる。
「髪ギシギシなるで、あれ、しかもあれ、男女共用のやつやろ、大丈夫なんか」
真原さんは大慌てだ。熾窪も「か、金、で? なんでそんな軍の支給品だけで、暮らしを?」と露骨に戸惑っていた。ハードボイルドどこ行ったよ。
私は二人に自分のつむじを見せた。「見せなくていい」と水社一心に押さえられる。
「ちゃうねん。頭皮見せられても、そういうんは皮膚の医者やで、僕見られへん」
「でも、支給品で問題ないなら、皇都のものは、何でも大丈夫……かも」
熾窪は首をひねる。まさかここまで私の荷物少ない問題が尾を引くとは思わなかった。
「さすらいの旅人ちゃうんやから、刀一本でどうにかせなはあかんねん」
真原さんが困っている。
「刀一本……」
熾窪が思い詰めた。こいつ思えば私が指定した店を気に入っていたようなことを加寿が言っていたし、ハードボイルドめいた暮らしに憧れているなら、私のおおざっぱ刀一本暮らしを曲解しかねない。
「炎の、異能として」
熾窪が呟く。
なんか始まった。確かに私の異能は炎系だけど、端的に称するなら言葉でファイヤーなので、熾窪の下位互換だ。熾窪はシンプルなファイヤーなので。そして熾窪は神様を奉る家系なので熾窪ファイヤーとかファイヤー熾窪と言えば不敬である。
「おい」
水社一心が小声で注意してきた。
真原さんが「枯賀なんか、反論しとるんです?」と苦笑いした。
「え」
「枯賀あれですからね。自分のこと大切にせえ言っても中々聞かへんからねえ、他のことは全然指示通りで、確認もちゃんと取ってくれるんでやりやすいんですけどねえ」
「ああ……」
水社一心が横目で私を見てくる。おお気まずい。車内でも見て回ろうと動けば、「泥棒」と乗客の声が響いた。




