全員到着
蝦蟇貪辺りにするとヤバい質問な気がする。だって皇龍清明様は、モテるモテない以前に人に怖がられて生きている。皇龍清明様は千年桜は恋と咲くでは、周囲からの注目を集める描写、女性が見とれる描写が多々あるし、ノベルと漫画、アニメだけを見たならばモテるに該当する。
しかしこうしてこの世界に生きて周囲の温度感をうかがうに、皇龍清明様の現在のモテはこうだ。
皇龍清明様の人となりを全く知らず、外見と軍の階級だけ知ってる人間が見たらかっこいいと思うだろうなとは思うし、実際、街で歩いていた時はよく見られていた。
でも、女風呂でも女子の手洗いでも女子職員たちの食堂の会話でも、皇龍清明様の話はマジで聞かない。
相模局長が怖いけど顔はいいけど怖いし色々細かくて許せない──のほうが聞く。
正直──知名度が微妙なのだ。皇龍清明様。
すごい人、名前だけ知ってる、こんな感じのうっすら感。異世界恋愛あるある、ヒーローは冷酷で恐れられているという噂が立ちがちという法則から、若干逸れている。
皇龍清明様、本当に戦いの場にしか出ないから。
そしてネットのレビューでは無口で暗すぎるあまり「見た目は一番好みなのですが、中身は非モテ男性みたいなところがちょっと無理でした、中身も大事なんですね」とコメントが残されるような男だ。
なのでモテるかモテないかで言えば、そういう問題じゃない、という回答になる。だってそういう場に出ないから。
それを言えば不敬罪である。だって相手は「天将位」なのだ。浮気しなくてモラハラしなくて義家族との関係も面倒くさくない高収入高身長高学歴のイケメンハイスペックな結婚相手が欲しいニーズに見事合致するがそのニーズからは「合ってはいるんですけど……」と言われる男である。水社一心はどう答えるんだろう。
「静かな男を好む相手も、いるとは思いますけどね」
ギリギリ不敬じゃないこれ?
いい具合に着地できてなくない?
水社一心が皇龍清明様を馬鹿にするとは思わないが、結果的に不敬じゃない?
「おはようございます! おい気をつけろよ‼ 転ぶなよ、ちゃんと前見ろ!」
「おはよう、ございます」
そして酒呑童子・皇龍清明様の二人は挨拶運動を続けていた。
軍人が見たらびっくりするだろうなと思う。皇龍清明様が駅で挨拶をするなんて。びっくりしすぎて近づけないかもしれない。
「おはようございます」
そんな酒呑童子と皇龍清明様のそばに福野さんが立った。
しかも目の前に立った。礼儀正しさは満点だけど、子供でもないかぎりその距離は怖かろうなという距離だ。なにかのラインは越えていると思う。酒呑童子は「おう‼ 元気そうだな‼」と朗らかに返す。皇龍清明様は「おはよう、ございます」と相変わらずの調子で返すが、若干福野さんに戸惑っている可能性も否めない。
「おはようございます」
福野さんはこちらに近づき、今度は適度な距離で挨拶してきた。
私は会釈で返し、水社一心と熾窪はきちんと返す。
「なんであんな近くに」
熾窪が福野さんにおそるおそおる聞いた。
「こっちは顔覚えてますけど、向こうはどうなんだろうと思って」
親切心だった。福野さん変なことするから理由のない変な行動だと思ってしまった。申し訳ないことをした。
「年下とか、階級が下の相手には、あれですけど、向こうどっちも上ですよね?」
福野さん親切どころではなかった。配慮に満ち溢れていた。罪悪感が強い。
そして気付けば待ち合わせ二十五分前になっている。基本的に福野さんは早めの行動のお人なので、それくらいの時間だろうとは思っていたけど……。
「荷物、少なくないですか? 大丈夫ですか?」
福野さんが私の荷物を見た。鞄の中身の構成は、万が一の時の消耗品、下着、靴下、気持ち悪くなった時の水濡れに強い袋。私は福野さんに安心してもらうべく肯定の笑みを浮かべた。
「福野も荷物少なくないか、何が入ってるんだ?」
熾窪が怪訝な顔で福野さんを見た。福野さんは私の荷物を指摘していたけど、福野さんも荷物が少ない。いつも使ってる銃を背中に背負い、A4サイズ程度の鞄を肩にひっかけているような状態だ。
「下着と靴下です」
同じだ。構成が福野さんとほぼ同じだった。
「お、え、せ、石鹸とか、身体拭くものとかどうするんだ」
熾窪が戸惑う。
「皇都の宿のものを使おうと……ないんですか?」
「いやあるけど、合わないかもしれないだろ」
「合わないんですか?」
福野さんが真っすぐな目で質問し、「それは、し、知らない」と熾窪は驚く。
「あれ、もうみんないるねえ」
富山局長と真原さん、蝦蟇貪、その護衛が歩いてきた。真原さんの胃が大変そう。途中で会ったんだろうなと思う。それぞれ「一緒に行こう」をするタイプじゃないし。
そして──、
「良かったー全員揃って」
待ち合わせ十五分前。全員揃うのを待ち構えるみたいに加寿が合流した。




