朝のあいさつ運動
皇都へは列車で向かうことになった。
駅で待ち合わせである。
「ぐ、軍人さんよ」
「わぁぁぁかっこいいわあ……」
駅で女性たちが頬を染める。
現在集合しているのは……酒呑童子と皇龍清明様、熾窪、水社一心の四人と私である。
事の発端はこうだ。
朝の稽古も出来ないし面倒なので早めに駅に向かった。この時点で待ち合わせ一時間前。
軍服姿の酒呑童子が駅のフォトパネルみたいに腰に両手をあて立っていたのだ。
しかも行き交う人々に挨拶をして。
完全に朝交番の前に前に立ってる警察官と完全一致していた。駅の前を通る子供たちが「おはようございまーす」と酒呑童子に挨拶をしたり、既知の子供は「わああ何してんだよーおにんぼ!」とじゃれついている。あいつおにんぼと呼ばれているらしい。
しかもその隣には、酒呑童子のお目付け役として配属されているらしい皇龍清明様がいた。
皇龍清明様は最初ただ突っ立っているだけだったが、「お前にも挨拶してるんだぞ‼」と酒呑童子から注意され、驚いたように硬直した後、「おはようございます」と、おずおずと挨拶をしている。
社会復帰みたいだなと思っていたら、熾窪が現れたのだ。この時点で待ち合わせ四十五分前。
ハードボイルド気取りのくせに「待たせたな」をしない男、熾窪。しかも待ち合わせ場所に来る前に一旦男子トイレに向かっているところを見た。絶対早く着きすぎたのではなく、待ち合わせ場所に早く来るタイプだ。わかるもん。先日共に水社家に向かったときだって、基本的にどこかに向かう前に手洗いに向かっていたし、こちらにも確認していた。どこかに向かう前に手洗いを済ませる男、熾窪
そんな熾窪は挨拶運動中の酒呑童子と皇龍清明様の対応に困り、私がいることに気付くも、関係値がそうでもない相手とバッタリ会って気まずいですという顔で私、酒呑童子・皇龍清明様ペアの間の柱に立った。さも気付いてない風で資料を確認するという、該当行為に心当たりのある人間が世に。
そして待ち合わせ四十分前、水社一心が堂々たる足取りで到着したのだ。普段水社一心と待ち合わせなんかしないし、軍にいる時は基本小走り、ホラー映画みたいに後ろから来るか、真横からカットインしてくることが多いので、ちょっと新鮮だった。政治家かと思った。私に気付くとそのまま真正面から突っ込んできたので、全部なんとかしてもらおうとこちらも真正面から迎えうち、肩をぶつけに行こうとし躱され、状況説明をしたのである。
そして水社一心が来たら柱の傍で自分まだ気づいてませんよアピールをしていた熾窪が、さも現在到着しました、早く着きすぎちゃいました顔でこちらにやってきたのだ。ただ、「早く着きすぎちゃって」は一言もいってない。水社一心にバレるから。
「肩をぶつけるが待ち合わせの工程に入るのおかしいだろ」
さらに「しかも俺は突っ込んでない。ただ歩いてきただけだ」と付け足す。水社一心基本的に歩くとき蛇行しない。真っすぐ姿勢よく歩く。熾窪もそうだが、真っすぐ姿勢よく歩いた状態でこちらを認識すると挙動が一気に崩れるので、より目立つのだ。お育ちが良さそう。
水社一心が呆れ気味にこちらを見る。視線を外せば熾窪が私に化け物を見るような目を向けていることに気付いた。
「あ、あれ、やっぱり肩ぶつけようと……⁉」
どうやら現場を見られていたらしい。まぁ、資料を見るふりして周囲の状況確認をしていたようなので、見てそうだなとは思っていたが。目撃者だ。消さなきゃ。
「はい。なので、あまりこちらに畏まることはないように、お願いします。水社家が皇都でどうかは、把握できていませんが、二等兵がこうなので熾窪中佐が過剰な配慮をしてしまうと、また色々と……」
「……」
熾窪は納得いかないような顔で私と水社一心を交互に見た。
ハードボイルドの返事ではない。喧嘩の仲裁に入って困ってる人の挙動だった。熾窪中佐のちゅうは仲裁のちゅう……。
「帝都の、こう、関わりってこう……なのか? その、仕事や軍のあれもあるとは思うが、その、男女の垣根というか」
そして早速熾窪が水社一心のオーダー通りに対応を調整し始めた。
「皇都を知りませんが、男が多い環境の職場ですし、帝都の女性の多くは、ここまで偏った環境にはいないので……」
水社一心は言葉を濁した。一応こちらに気を遣ってるらしい。二人だったらお前はおかしい、どうかしてる、変ってストレートに言うのに。他人の前では誰かを下げない男、水社一心。
「ああ、じゃあ、男女の関わりは、皇都と一緒か……。皇都の女性も、男性が多い環境にいる女性と、女性が多い環境にいる男性は、やっぱり色々、違いがあるような気はするから……」
熾窪はどうやら皇都と帝都の男女感にかなり関心があるようだ。ハードボイルドでありたい、かっこよくありたいタイプなので、重要なことなのだろう。
「帝都の男性ってどんな男性がかっこいいとかって、なってる? 憧れというか、ついていきたいと思われるような……」
熾窪の言葉に、水社一心は「まぁ、あそこにいる……」と酒呑童子に視線を向けた。
「あ、あやかしが人気……?」
「違います。あやかしじゃなくて、彼のような男が、やっぱりこう、憧れられはしますよ。逞しいというか身体が大きいっていう見た目も、もちろんありますけど、さっぱりしていて、度胸があって、思ったことをそのまま言うし、責任感もあって、頼もしさも、臨機応変さも……」
水社一心が少し気落ちした。なんだこいつ。
「皇龍様は? 寡黙で、行動的な、不言実行型は」
熾窪が焦る。これ実質、皇龍清明様がモテるかどうか聞いているようなものだから。




