行けなかった旅先
猫確認が終わると、「じゃあ僕、飲みあるんで‼」と加寿は去っていった。あいつ、マジで猫を確認するためだけに来た可能性がある。何なんだろ。というか私に入浴時間を合わせている水社一心が若干の待機をしたことで加寿に会ってしまったのではないか。
「……」
隣に立っている水社一心を睨もうとすれば、やつは「……」と不貞腐れ顔をした。
何で不貞腐れなきゃいけないんだよ。
「いや、俺が、加寿をお前からどけようとするのは、違うかと、思ったんだよ」
は?
「俺が、どかしたくてどかしてるのかと、思って……お前はなんか、あいつを気持ち悪がってるけど、殺そうとはしてないだろ。その、お前、本当に嫌いな奴なら、自分で殺そうとするから分かりやすいけど……誰かに排除させようとしたりはしないっていうか、自分で落とし前つけようとするから……」
水社一心は苦悩モードに入った。
何お前、加寿どかしたいの?
何?
お前、お坊ちゃま丁重扱いされると謎逆ギレするタイプのヤバぼっちゃんってこと?
「違う‼ バカ!」
罵られた。複雑そうにこちらを睨む水社一心に……察した。私は何かの物語の主人公ではないから。
こいつ、もしや、私に加寿が近づくのが気に入らない……?
「……」
水社一心は黙った。皇龍清明様とメンタルが一緒じゃん。皇龍清明様もお姉様に近づく男に対してお姉様が若干困っていても、お姉様を助けようとするのをためらうのだ。あやかし相手だと即断なのに、相手が人間だと動きが本当にのろい。本当に失礼な話だが、相手が人間かつ、棒とか刀とか持って分かりやすく加害者じゃない限り、皇龍清明様の介入はシンプルにのろい。「これは自分が勝手に嫉妬して彼女の交友関係を狭めようとしているだけでは?」と、苦悩し停止するのだ。「もしかして自分って……人間関係管理支配型ヤンデレ⁉」と自認を変えるから。私はもう、本当におかしいので、お姉様に無粋な男が近づいたら殺生しかないけど、皇龍清明様は感受性が高すぎてだめ。そして目の前の水社一心も「俺は心が読めるから……」と人と違うムーヴをしているが人間の心がありまくりなので、このざまである。
「お前このざまって……お前なあ」
普通にどかせばいい。どかしたいなら。
「それはお前の自由とか、そういうのを奪うことになるだろ」
奪えばいいじゃん。
「は?」
それで私がお前をキモいと思ったら、調整すればいい。そんなもんだろ。譲歩バトルです。
「……」
水社一心は怪訝な顔で私を見る。私は水社一心と異なり心の声が聞こえないので無言にされると困るのだが。
「よく分からないやつだと思っただけだ」
お前のほうが100倍わかんねえだろ。
「はっ」
水社一心は少し小馬鹿にするみたいに笑った。なんだこいつ。
「それよりお前、皇都行きの支度できたか」
なんで?
「お前、わけわかんないくらいいつも荷物少ないからな。いつもは水社に帰るから……俺が見てやれるけど、明日は一旦管理局集合だろ、女性の……異性の荷物にどうこう言いづらいだろ。真原さんは姉妹がいて、富山局長には娘さんがいても」
福野さんは。
「あの人も……気は遣う……な。お前が年下だから。周りから色々、聞くだろうし」
水社一心は焦って付け足した。
「それでどうなんだ。荷物」
準備って言われても下着だけだし。あとはもう軍服と刀。
「バカ! お前……お前なぁ、泊まりだぞ⁉ 家帰るとは訳が違うんだぞ」
それはそうだけど……でも、下着くらいで問題ない……。
「……旅行とか、なかったのか」
水社一心は私を見据える。質問じゃなかった。確信めいたものだ。
「なかったんだな」
水社一心は念を押してくる。気まずいネタを念押しするな。
「自分の前世をネタ扱いするな」
それはそうだけど。
「じゃあ、遠出は初めてなのか」
はい。
答えてるのに水社一心は黙ったままなにも言わない
「俺はお前と違ってぽんぽんもの話さないんだよ」
さようでございますか。不思議だあ私一言も発してないのに。
「心の中でべらべらしゃべってるだろ。そういう人間もいるけど、そうじゃない奴もいる。びっくりして、頭が真っ白ってあるだろ? 何が起きても、驚いてなくても、嬉しくても悲しくても頭がまっしろで言葉が浮かばない人間は結構いるんだからな」
じゃあ水社一心がそうなの?
「俺は、言葉が多くて、どれが本当か分からない時がある。だから、お前に俺の異能を持つ人間が、俺の心を読んだら、疲れそう」
すごいメタ認知。
「めた?」
自分を客観的に見れていますね、の意図。
「はぁ」
水社一心は呆れてるのか不機嫌ハラスメントなのかため息なのか特殊な相槌なのか分からない反応を示した。
「……春……遠出するか?」
は?
「猫又の事件が片付いたら、どこか、旅行でも。水社と、お前のお姉様で」
私、水社一心、お姉様、ミヤシロパパママ、スケルトンおじい、ミヤシロ様ってこと?
「ああ」
水社一心は「考えとけ」と言って、「ほらさっさと女子寮戻れよ」と、手をしっしとする。
「しっしじゃない。促しだ」
ええー今の促しでは?
「お前なぁ……」
みんなが行くなら行く。
「は?」
旅行。
付け足して、私は水社一心の隣を歩く。
さっさと猫又ぶっ殺そうと誓いつつ。




