にゃんこ確認
女湯から出ると、水社一心と加寿がいた。水社家を大事に考えているらしい加寿は確実に水社一心と時間を合わせに来ると見て遅めに出たというのに。
「末理さん、湯加減いかがでしたか? っていうか帝都のお風呂って銭湯みたいじゃないですか? 皇都と全然違くて、なんだか懐かしい気分になっちゃいましたよ──瓶牛乳ほしくなりますね」
出てすぐのところに加寿と水社一心がいた。
「っていうか末理さん、猫どうです? 会うと痒くなったりします?」
謎質問を受け、私は首を横に振る。
「じゃあ三人で子猫ちゃんに会いに行きましょう」
加寿はにこやかに歩き始める。このまま撒いてやろうかと悩むものの、こいつの言う『子猫ちゃん』のいる場がいかがわしいお店のことなのか、女子寮の女のことなのか、猫のことなのか分からない。水社一心を変なところに連れていかれても困るので、やむを得ず同行することにした。
「そういえば末理さんっていつから水社家に住んでるんですか?」
加寿が聞いてくる。私は手のひらを見せた。
「五歳」
首を横に振る。
「五年前くらいってことですね、なるほど。生まれてすぐじゃないんだあ」
加寿は情報を聞き出してくるが、こいつが変な気を起こして皇都の情報網を使って調べても分かるし、霧島先生あたりは自分に関わる人間すべての情報を非合法な手段で収集する、それをリスクヘッジとするタイプなので、霧島先生に聞く手もある。
「でも水社少尉大変じゃないですか? 女性二人、家に突然なんて」
そして加寿は水社一心に話をふった。
それはそう。
逆で考えるとなおさら思う。
だって私が水社一心の立場で、突然よく知らない男二人が家に居候することになったら悪夢だ。心が読め、相手に危害がないと分かったとしても、普通にキモいと思う。
お姉様をキモがるな、ありがたがれとは言えない。それはもう、イケメン無罪論者と変わらないから。水社一心を見ると、奴は「まぁ」と、短く答えた。
「気は遣いますよね」
「お母様もお父様も歓迎の感じはありましたけど。男友達とか選ばなきゃいけない部分も、ねえ。末理さんとかお姉さんに変な気起こして……っていうのも、ありそうですけど、どうだったんです?」
「元々、こうした異能ですから、友人を作ること自体……ちょっと」
「えー勿体ない。熾窪さんとかどうです? 同じ神社系で。帝都はそもそも神に関わる家そのものが少ないから、難しいかもしれないですけど、皇都はいっぱいいますよ。水社少尉が良ければですけど、紹介しましょうか?」
「いや……」
水社一心はやや首をひねる。
「俺は普通の家の出身なんで……あれですけど、仕事で出会い多いんですよ。帝まわりをしてると、自然と神社系なので。なんか気になったら、いつでも声かけてください。熾窪さんとかも、結構、自分は熾窪家の跡取りとして……って背負ってる系だし。あの人は皇都にいるのに、ぽつんとしてますけど、むしろ、神社系じゃなく、熾窪家なんて知らないような、異能や霊力とは無縁の人間関係築いちゃってるし」
「はぁ……」
「ただ、いざとなった時の為に繋がりは維持しておいて損はないと思うんですよね。縁がある中で、一人が好きなわけでもないのに、孤立を選ぶことは無いって言うか。一人が好き、一人時間を大切にするのと、孤立しようとするのは大きい差があるっていうか」
どうやら加寿なりに熾窪を心配しているらしい。しばらくして、女子寮のうしろに辿り着いた。
「ほら猫ちゃん。掃除のおじさんが許可取って去勢して飼ってるんですって」
そこには本当に猫がいた。
「さっき、おじさんと話ししてて、前に結構軍の結界が破られることがあって? 男子寮の扉開けっ放し? になる事件で、野良猫入ってきて、去勢してないっていうので、色々検討の結果、軍の職員で育てる、みたいな、聞いたことあります?」
「ああ……」
水社一心は読心の異能で知っていたようだ。水社一心はきちんと相手から聞いたことと、異能で知ったことを区別する男である。そして異能で知った場合は、こういう微妙な返事になる。
「そばに猫捨てられてるところがあるらしくて、無責任だなとは思うし、そういうの良しとするみたいでちょっと苛つきもするんですけど、猫可愛いなと思って」
なら、加寿が女子寮からふらふら出てきたのはおじさんと猫の話をしていたから……?
「猫又、倒さないと、こういうのに風評被害出かねないですからね。何も知らない市民からすれば、猫のあやかし? 猫って危なくない? って考えかねないし、正気の親なんか特に気にするでしょう? そういう親の話を聞いて、猫は悪者だって虐めるクソガキも出かねないし」
「まぁ、たしかに……」
「で、どうです? この猫」
加寿は水社一心に振り向く。
「どうって」
「心読んだなら分かるでしょう? 猫又かどうかの確認です。一応」
加寿は微笑む。どうやら猫の存在を知って、水社一心からの確認を得ようとしたらしい。
猫又なら猫に化けても、その心の内を読めば正体を看破できる。
「まぁ、普通に猫に近づいた時点で、この子は大丈夫だろうとは思いましたけどね」
加寿は猫を眺める。
真意が読めない。
水社一心は読めているのだろうが、水社一心も水社一心で、加寿をはかりかねているらしい。水社一心の能力は、基本的には、なんの手も入れてない機械音声の読み上げのように心の声を聞いているようなので、色々、判断のし辛さもあるのだろうが。
「基本的には」
水社一心が呟く。
そう。基本的には。
こいつはなんでか私の話し方をなぞらえるような話し方をしたことがあった。
だからたまに、私の心だけやけに精度が高くなっているのではと疑う時がある。
慣れ……というか、量が量だから。
「皇都、よろしくお願いしますね」
加寿は微笑む。
相変わらず、真意は読めない。




