皇龍清明式コミュニケーション
「皇龍清明様だ。天将の位を持つ。富山よりも偉いが、指揮はあくまで皇都の加寿と熾窪……基本熾窪だな。皇都の人間か、熾窪の指示に従え。富山お前もだぞ」
蝦蟇貪が皇龍清明様を紹介する。富山局長は「も、もちろんですよ」と頷くが「お前の勿論になんの価値もねえからなあ!」と声を荒げた。
「お前命令違反何回やったよ。飛ばされても飛ばされても戻ってきやがってよお」
どうやら富山局長は命令違反をかなりの回数行っているらしい。しかも上層部の蝦蟇貪が知っていて、声を荒げるくらいのことなら相当な規模だ。最初皇龍清明様に委縮していた真原さんの関心が、完全に富山局長にうつってしまっている。
「で、だ、枯賀は面識あるな? 見合いして」
蝦蟇貪の声掛けに癪だが頷く。
「真原と福野はなぁ、お前らも無断で富山がいねえ時に勝手に枯賀のご当主様討伐に行って、皇龍様が討伐した、野狐禅に守ってもらったって報告上げてなあ。面識はあるだろ」
え。
真原さんと福野さんが、枯賀のあの男を、討伐しようとした……?
そしてそんな二人を野狐禅が守った……?
「後輩の為か知らねえけど、なあ、富山、お前なあ受け継がせるのは軍の教えなんだよ。てめえの矜持引き継がせてどうすんだ、なあ」
蝦蟇貪は富山局長を睨む。真原さんは「ちゃうんです、俺が勝手に」と言うが「訛りの田舎者に聞いてねえよ」とはねつける。
「独断行動して生きて帰れてんのはここが帝都だからだ。向こうですれば殺されて終わりだ。皇龍様と俺の顔に泥塗るような真似すんじゃねえぞ」
蝦蟇貪は念押しする。
「じゃあ、後は皇龍様、管理局の面々とどうぞお話しください、ねえ。突然連携なんて取れないでしょうから」
そして、同じように皇龍清明様に圧をかけていた。帝都退妖軍の上層部は腐っており、権力的な意味で強い者には弱く、弱い者には強く出ると思っていたが──蝦蟇貪はもしかしたら、強弱問わず圧をかけ、見下しているのかもしれない。お姉様に対しては若干柔らかな態度だったけど……なんだろう、軍に所属した瞬間、蝦蟇貪の見下しの対象になる……とか?
そして蝦蟇貪は「上りも急だなァ‼」と階段に文句を言いながら登っていく。しかし今度は護衛を先に行かせた。「さっさと行けよォ」とがなる。
「えっと……僕ら……暮日山でお会いしてるんですけど……おぼ、覚えてます……」
真原さんがおそるおそる皇龍清明様に問いかけた。皇龍清明様はゆっくりと頷く。
「こんにちはー」
そして福野さんは食堂の調理員さんたちに対する挨拶とまったく変わらない調子で挨拶をした。すぐさま真原さんに部屋のすみへ連れていかれる。
「お前頭おかしいんか、礼儀どうなってんねん」
「敬礼かなと思ったんですけど……群れるの嫌いなんですよね?」
真原さんは声をひそめるが、福野さんの声量はまったくもって普通だった。しかも最後は皇龍清明様に質問した。
「……」
皇龍清明様が困惑している。真顔なので怒ってるようにも見えるが、雰囲気的にただ困っているだけだ。皇龍清明様は耳がいい。人外寄りだから。そのためヒソヒソ話も普通に聞こえるが、ヒソヒソ話をされていることも分かるので、より人嫌いが加速していた。
しかし真原さんのヒソヒソ話は、皇龍清明様を気遣うもの。
福野さんは……そういう気遣いのくくりでどうにもできない。
当初私に対してかなり気を遣っていたようだけど……真原さんや富山局長が、何か言ったのだろうか……?
色々分からないことは多いけど、部外者から見れば管理局同士なのに真原さんと福野さんは本気で揉めているように見える。
万物をシリアスにする、その存在だけで空気を変える皇龍清明様であっても、福野さんに対しては無力だった。
「申し訳ないです。軍の印象とは、異なるかもしれませんが。ふざけているわけではないんです。色々な経緯から、ここなら活躍できるかもしれない、ということで入局している人間が多いので。誠意を欠いているように見えるときもあるかもしれませんが、職務中はこうはならないので」
富山局長が皇龍清明様に声をかける。皇龍清明様はジッと周りを見渡すと、私に視線を集中させた。
「異能は、使えるのか?」
皇龍清明様の問いに悩む。
今使えってこと?
それとも使用できるかどうかをふわっと聞いてきている?
判断に悩んでいると、「答えたくないのならば、構わん」と皇龍清明様は引いた。
「……先の者は、私を天将位と言った。私は求めていない。国が勝手に決めたまで。それに従う道理はない。私の判断をあおぐ必要はない」
皇龍清明様の言葉は翻訳が必要だ。
たぶん今、言いたいのは、「蝦蟇貪は自分をリーダーみたいに言ってたけど、全然そんなんじゃないから!」だろう。しかし管理局の面々は皇龍清明様の言葉に翻訳が必要なんて知らないので、戸惑っていた。
「各々の道に従えばよい」
周りの反応で薄々察した皇龍清明様が付け足す。
でも付け足しも付け足しで、微妙だった。基本無言のコミュニケーションを周囲に強いている私が言えた立場じゃないけど、ややこしい。
「では」
そして皇龍清明様は姿をくらます。
皇都行きも不安だけど、皇龍清明様のコミュニケーションも同じくらい不安になった。




