出発前
霧島先生。
千年桜は恋と咲くのキャラクターランキングで、後発登場ながら上位ランクインを決める加寿と熾窪と異なり、霧島先生のランクインはやや控えめだ。
文字だけだとですます口調で伊能局長と見分けづらく、基本敬語で話すお姉様との会話は、一人称が「私」と私被りが発生していることもあり、どっちらが何を言っているのか区別しづらいところもあった。
しかし霧島先生は、どんな性格であれ一定の需要が発生する長髪キャラでもある。
皇龍清明様も長髪キャラだが、長髪キャラに求められがちな「威厳」「冷酷さ」「年上感」「包容力」「エスコートできそうな感じ」が、皇龍清明様の内面には存在しない。びっくりするほど無口なのが、作画の良さで冷徹そうな雰囲気に誤変換されているにすぎず、その部分も三百年前のお姉様の死を悼んでいるからこそ。無口キャラとして売り出すというのも憚られ、結果的に絶妙な順位に着地している皇龍清明様だが「性格はアレだけど見た目は一番好き」とよく言われていた。
一方で霧島先生は、「年上感」「包容力」「エスコート出来る感じ」を全て兼ね備えている。
しかも白衣キャラ。
医者。
素敵属性をそこそこ積まれているのに順位が伸び悩んでいるのは、皇龍清明様同様気質が原因だ。
自己完結型自罰自責無口型回避系皇龍清明様を越える、気質。
カスのマッドサイエンティスト。
これに尽きる。
あやかしを解剖してほくそ笑むことから始まり、「犯罪者を使って人体実験を行えば、みんな私を否定は出来ないはずでしょう? 心のどこかで犯罪者を税で食べさせることに、国民は不安を抱いているはず」と宣うが、研究のために犯罪者を使う合理主義の感性はなく「解剖したいけどみんな文句言うし犯罪者使って解剖すれば文句言え無さそうだし、結構な人数が賛同してくれそうぷぷ」というカスの精神である。そのため、本人に自己正当化、合理化という精神は無い。自分の「なにかを解剖したい」という欲求をどこまでそれっぽく演出して「多数の賛同を得られるかゲーム」をしてるにすぎない、精神性はまったくもって大人ではない、知識の多い変質者だ。天才だから変人なのではなく、どうかしている人間が医療知識を得てしまい、かつ、軍医になれる環境が揃ってしまった最悪の事故の結果である。
そんな人間と皇都に行くなんて。
鬱々としながら私は翌日、管理局に出勤した。出発は明日だが、今日の分の仕事、明日からしばらく管理局が止まるので、その準備もある。
「局長、娘さん大丈夫なんですか? しばらく家開けて」
管理局の整理をしていた真原さんが訊ねる。富山局長は「それなんだけどさ」と、拭き掃除をしながらこちらに振り向いた。
「娘今皇都にいるんだよね……」
「なんで」
「女学園のさ、楽団で結構頑張ってるみたいで、それで、ちょっと前から強化合宿みたいな感じで皇都に」
「ええええ、すごいんですねえ」
「だから、まぁ、長期出張は問題ないんだけどさ……基本的に娘から、外で見かけても友達といる時は声かけないでって言われてるから、向こうで会ったら……」
富山局長は視線を落とす。真原さんは「まぁ、年頃の娘さんやから、ねえ」とフォローに入る。
「真原さんは」
福野さんが直球で聞いた。
「おん」
「真原さん皇都、気まずそう。上司ぶん殴って辞めてるなら合わせる顔なさそう」
「お前そんな、なんで? お前、躊躇いとか、配慮とかしたら死ぬいうお身体か?」
「普通に、みんなそう思ってるんじゃないですか? 真原さん大丈夫かなって」
「お前みんなそう思ってるとか主語でかすぎやろ。それなんらかの手口であるで。悪さの」
「そうですか?」
「そうですかやないわバカタレ」
「でも結局どうなんですか。熾窪さんと加寿さんは、なんともなさそうというか、向こうが偉いところにいて、面識ないで済んでそうでしたけど、皇都に行ったら会いそうだし、真原さんの家族とも会いそう」
「ないやろ、家族なんかもっとないわ。皇都広いしな早々ないわ。仕事中やし、盆暮れで充分やわ。務め果たしてんねんこっちは。送金もして」
真原さんはそっけなく返す。家族に会う気が本当になさそうだった。
「じゃあ軍は」
「皇都の軍なんか知らん。僕のこと覚えてる奴もおらんやろ、仲ええ奴もおらんし」
「へー」
福野さんはどうでもよさそうに相槌をうつ。多分だけど、福野さんの中での重要部分は、真原さんが皇都の軍人や家族と会いたいと思っているか、実際に会ったらどうしたいか、だったのかもしれない。前の私の家庭環境について、色々考えていたようだし。
「で、今回、皇龍様が参加されるとかって……」
富山局長が真原さんに配慮してか、話題を変えようとしたその時──、
「汚えなあ、埃くせえし、足場もおかしいし、どうなってんだこりゃあ、ああいやだいやだ」
文句と同時に管理局が一気に煙草臭くなった。
「蝦蟇貪様、私が前に」
「俺の前を歩くたあいいご身分になったなぁ、運転手の分際でえ」
大きなため息とともに現れたのは護衛を伴った蝦蟇貪だった。
「が、蝦蟇貪さん」
「よう富山、お前伊能によく言っておけよ。あいつ何も人の話聞きやしねえんだから。てめえの監督不足だぞ。早いうちから上に逆らうなって躾しとかねえからこっちが割食ってよお」
蝦蟇貪は「どこもかしこも貧しくていけねえ」と管理局を見渡した後「立ってたほうがましだわ」と馬鹿にする。
「えっと、本日はどのようなご用件で」
「皇都出張に行くだろ、役員が出る。その貧乏くじ引いたのが俺なんだよ。伊能のカスが酒呑童子を軍に引き入れる時、役員の同意が必要で、俺がケツ拭き役で関わったばっかりに」
蝦蟇貪はさらにため息を吐いた。
「じゃあ蝦蟇貪さんも参加され……」
「そうだよ、当の伊能はいいご身分でお留守番だ。皇都に行くのは今日だってそこら辺の港で庶民に混じって大工ごっこしてる馬鹿みてえな酒呑童子と、皇都のご機嫌取り要員として水社家のおぼっちゃん、それと……」
蝦蟇貪がふいに視線を横に外す。
ふわっと風が吹き現れたのは──皇龍清明様だった。




