皇都へ
「もう誰も僕に近づかんでほしい。枯賀は別な。戸閉めるから。もう今の帝都でいっちゃん大事なんは戸閉めるか。それだけ」
猫又が皇龍清明様に滅されかけ逃亡し、翌日。
管理局で昨日いなかったぶんまで働こうとすれば、真原さんの目が死んでいた。金槌で修理をしながら「僕金槌持ってるから」と繰り返している。
「金槌持って、ここで仕事するん、しんどいわあ。もうなんか、こんな寒いのに、戸開けっぱなしの暗いのと、ずうっと、こまい修理をぬるっとこっちに持ってくるおじさん、これでどうにかしたら捕まるのに、金槌もたされて、ああしんど」
「暗いのって誰のことですか。ぬるっとこっちに持ってくるおじさんは富山局長でしょうけど」
「お前じゃ……お前じゃ!」
福野さんの質問に真原さんは激昂した。かと思えば「いややわもう」としょげる。
「自分の機嫌は自分で取るといいらしいですよ」
「放り落とすぞ」
福野さんは、扉の開け閉めに対し若干の難がある。
簡単に言えば閉めるのを忘れるのだ。
「閉める閉めないのこだわりが……」
「こだわりちゃうねん。冬は寒いから閉める。夏は死ぬから開ける。何でお前夏は閉めて冬は開けてで、どないなっとんねん」
「いや……閉めなきゃなぁと思って、で、開けなきゃなぁと」
「ずれとんねんお前、半年ずつ、ずっと。冬に教えてなんも身に入らんで、夏に実践してんねん。それがもう毎年や。何でお前、毎年、戸のことだけまっさらなんねん」
「わがまま」
福野さんがため息を吐いた。真原さんは金槌を握りしめ、一点を凝視し始める。福野さんは暑さも寒さも強いようで、暑いから開けよう、寒いから閉めようの概念がないらしい。
「でも枯賀さん大変だったね、皇都の二人と、色々あったって聞いたよ」
富山局長が心配そうにこちらを見る。
ミヤシロ神と会い、中華屋に行き、海外映画みたいな運転をされ、最終的に猫又と遭遇した。大変だったが──猫又のことが気がかりだ。あいつなんなんだろう。美浜の娘と結託して。美浜の娘は水社一心に気があるようだし、そんな美浜の意識が、昼に現われ猫又を支配し、猫又は夜に身体を自分のものとして扱うことが分かり……同時に皇龍清明様が美浜の娘に注目していると誤解中だ。実際はお姉様を追いかけているのだろうが。
そして加寿と熾窪がお姉様と出会い、皇龍清明様はお姉様との接触がうっすらという最悪状態。皇龍清明様は何をしても身を引くだろう状況だ。さっさと猫又殺したい。あいつはもう、生きてる限り人を殺し続ける。美浜の娘も人を殺した。最悪殺人鬼コンビが合体しているので、被害者が増える前に早く始末を。
考えていると、コツ、コツ、と規則的な足音が響いた。地下にある管理局までの階段は、絶対に人が死ぬ、高齢者と子供立ち入り厳禁の階段である。人の心が無いといった問題ではなく、「違法建築じゃないんですか⁉ 国!」と言いたいところだが、国の要人は来ない。そういう、国の手が届かない死んだ階段なので、どうしようもない。だからこそ、靴音で大体分かる。普通の局員は階段が怖すぎて変な間隔があくし、伊能局長と福野さんはゆっくり、富山局長は「うぁ……あぁ、痛い痛い」と声が出ているし、真原さんも「あー……わっ」とたまに驚く。相模局長が一番分かりやすい。一段につき五行分の階段への悪口が出るから。
しかしこの音は聞いたことが無い。皇龍清明様がこんな風に音を立てるとも思えない。ふって落ちてきそうだし。不思議に思っていれば、ノベル挿絵にコミカライズで死ぬほど見た長髪眼鏡が現れた。
「はじめまして、管理局の皆さん」
霧島大先生である。皇都の加寿と熾窪の、直属の上司であり──、
「皇都の軍医、霧島と申します。早速ですが皆さんには、全員総出で、皇都にて猫又の討伐任務にあたっていただきます」
ハロウィンでないと許されないような、カスのマッドサイエンティストである。
これにてこの章は終わりで、新章皇都編になります。ありがとうございます。
本作は、今までにないほどの感想を頂くことが多く、嬉しいですね……。励みになります。
結構先の部分を書いていたりするので、ご要望に沿えないというネックもあれど、「あんまり自分の感想気にされて展開かわったらヤダ」と思っている方も、ご安心頂けたらと思います。
最近感想のお返事が減っているのは、普通に別の仕事×本作の執筆と重なっているにすぎず、何かあったからといったことは無いです。その点ご安心頂けたらと共に、量も皆様の思う通りでと考えています。感想負担はないですし、全然最新話じゃなく「この話の感想今更だけど……」でも全然いいですし、自由にお過ごしいただくのが一番です。
そして加寿熾窪霧島が登場しつつ、掘り下げは水社家と皇龍清明、お姉様と輝宮寺、猫又美浜と過去の登場人物について行われた今章ですが、次回もお楽しみいただければ幸いです。




