皇龍清明の正誤
「皇都が欲するような異能?」
「言った願いが、叶う。まぁ伊能、人間のほう。調査局のほうの伊能が、かもしれないって願うとその通りになるってんで、結構目つけられた時期があったんですよ。皇都にね。まぁ結局対象に触ってなきゃいけないし、ただ、場所移動とか攻撃とかそっち寄りしか出来ないので、皇都からすればオサラバでしたけど。元の霊力すごいんでしょ? ただの喋れない、いざとなった時に全部燃やす、いつ役に立つか分かんない女なら、それに越したことないけど、ただの調査が言いくるめられて永久就職になるかも」
──だとしたらお姉さんは悲しみそうですけどねえ。
蝦蟇貪は皇龍清明を見据えた。
皇龍清明は何も答えない。
「気持ち悪い付き纏いしてるのはねえ、調べついてるんですよ。軍で、異常な霊力探知して、行ってみれば皇龍清明様がご降臨って。ご自身の霊力の強さはご存知でしょう? ある程度、遅れて軍が把握する想像もできたはずだ。そのうえで枯賀花宵のまわりうろちょろして、国家権力誘導して護衛させたいって変な策略を──」
蝦蟇貪は言葉を止め、皇龍清明を観察する。
皇龍清明にそんな意図は無かった。ただただ、枯賀花宵が死ぬ恐れを持ち追っていた。
意図は知らずも、皇龍清明が愕然としている様子を察知した蝦蟇貪は呟く。
「策略すら練らずか、なるほど。まぁ気にしてる? 枯賀花宵の妹が、皇都の二人に、特に厄介なほうに気に入られたみたいでして、そこにいるあやかしと一緒にサクッと解決してきていただきたいんですよ。水社少尉も、ご自身のご家族のこともありますし、三人とあと……管理局の人間たちもね、どうせ一人いなくなるとてんやわんやですから、みんなで仲良く力を合わせてもらって」
「……」
「別にお断りして頂いても構いませんよ。酒呑童子、お前倒すだけならお前だけでいけるか」
蝦蟇貪はそれまで黙って聞いていた酒呑童子に声をかけた。
「やるぜ!」
「ほら。でも軍として酒呑童子だけ送り込むことはできない。何かあって抑える存在がいない。皇都に粗相があれば大変だ。結局、枯賀末理一人に行かせる羽目になる」
「さっき、管理局の者をと言っただろう」
皇龍は反論する。
「はい。貴方が行けば鬼も管理局も付き添えるんですよ。鬼の抑え役がいる。皇龍様は皇龍様で口のきけない女と問題起こすかもしれない。取りなす人間が必要だって言えるから。そうじゃなきゃ皇都にとっては管理局なんて目障りですからね。枯賀末理が必要になればなおさら」
蝦蟇貪は冷徹に宣告する。
「皇龍様が何をお考えか知りませんけど、群れる群れない、関係ある関係ないとか、もう言ってられる段階ではないので。こちらもご協力をお願いしている立場ではございますが」
「……」
「何をそんなに迷っていらっしゃる?」
「貴様には分からぬことだ」
「分からないから聞いているんだ」
蝦蟇貪は語気を強めた。
「強さを持って軍に関わらず、権力を嫌うのはいいでしょう。向き不向きだ。軍内政治なんて楽しくもなんともないから。そういうのは、戦力にならない連中が負うんだよ。戦える人間が背負い過ぎないように。けれどあなたは群れない理由に群れを使う。枯賀の妹のほうが利用されるのが嫌なら自分が出るほかないのに、管理局はどうしたとはなんです? 出る出ないの場所の選別をしているならいいんですよ。関われない、関わることを恐れて、もっともらしい、正しく見える理由を探しているようにしか見えない。違うなら違うって言ってくださいよ。そんなに正しさが好きなら」
蝦蟇貪は一気に潰しにかかった。皇龍清明の心の部分を突き刺すような言葉を、逆上されるのも承知のうえで、一縷の望みをかけながら放つ。土壇場で態勢を変え一太刀浴びせるようなものだ。
皇龍はそれでも黙る。
見かねた水社一心が、その場を取りなそうとした矢先。
「なんか悩んでんなら、一緒に戦ってやってもいいぜ」
軽い声が響いた。酒呑童子だ。
「俺さ、よく分かんねえ弱い奴に合わせてさ、港直したりしてたけど、結構楽しかったし。戦い方もなってねえ雑魚に稽古つけるのも、悪くねえなっていうか。一人で一対一で戦うのも好きだけどよ、たまには悪くねえなって思うし」
「……」
「分かんねえうちはさ、俺が教えてやる‼ そのうち、ちゃんとお前で考えろ。俺はとんでもねえ馬鹿に根気強く教えてやったことあるし、お前がすんげえ馬鹿でも何とかしてやるよ」
酒呑童子は皇龍清明の元に降り、目の前に立つ。
蝦蟇貪と酒呑童子の言葉により、皇龍清明の心に変化が訪れたのを水社一心はすぐに悟った。
同時に水社一心は思う。
自分だけが『彼女』を変えたわけではないと。
痛いほど分かる。蝦蟇貪や酒呑童子の持つような強引さを、自分は持てない。太陽のように『彼女』を照らすことはできない。皇龍清明と『彼女』が暗い共鳴をしているように、おそらくだが、他者への想いの向け方は自分も皇龍清明と通ずるところがある。
それでも。
自分だけが『彼女』を守ることも『彼女を』支えることも、しなくてよくて、出来なかったとしても。
「水社少尉は、いかがですか」
蝦蟇貪が問う。
「勿論」
水社一心は即答する。
たとえヒーローになれずとも。
『彼女』が地獄に向かうなら、どこまでもついていくと決意しながら。




