ピンチヒッター
「にゃ、霊力も異能も無さそうな女のわりに、目ざといにゃ。お前、三本爪の素敵な事件は聞いたことないニャ?」
三本爪の事件。女ばかりが狙われた事件だ。背中に爪痕を残され、三本揃うと殺される。怪事件だと人々は恐れていたが、やがて猫のあやかしの仕業だと分かった。
同時に、美浜麗子という女がその事件を模倣し数多の殺人を犯したことで、調査が攪乱されたことも。
「そういうのを真似したバカがいたにゃ。素敵な芸術が真似されるのは宿命にゃ。でも、杜撰な二番煎じは冒涜にゃ。真似したからには越えなきゃいけないにゃあ。だから始末しなきゃってしたら訳の分からない関西訛りに頭潰されちゃったにゃ。ボクはとっても哀れニャ」
その猫のあやかしは、末理の先輩が討伐した。
末理の先輩は、関西訛りがある。目の前の少女は、三本爪の事件のあやかしとそれを模倣した少女が、合わさっている?
ならばどのみち、末理と因縁があるあやかしだ。野放しにしてはおけない。花宵は手のひらを握りしめる。
「ならなぜ、その模倣した少女と共にあるのでしょうか」
「身体を貰ったニャ。仕方にゃいけど、こいつの執着心がボクとぴったりだったそうにゃ。癪だけど、暗天妖王様の言葉なら仕方ないニャ」
「暗天妖王?」
「偉いお人にゃ。ただ暗天妖王様でもボクの完全復活は無理だったニャ。お昼はあの女、夜はボク。分けっこニャ」
「夕方の今は」
なるべく情報を聞き出す。
そうすれば討伐の手助けになるはず。
「意識の強いボクに分があるにゃ」
「美浜麗子さんの目的は水社一心さんみたいだけど、貴方の目的は何」
「ボクは何も変わらなーい、ニャ」
美浜麗子を名乗るあやかしは、鋭い爪を露にし、花宵に襲い掛かろうとする。花宵は護身用として持っていた清め札を取り出そうとするが、「邪魔ニャ」と霊力で弾かれた。
花宵が身構えたその瞬間──強風が吹き荒れ、ふわりと白檀の香りに包まれた。
ぎゅっと閉じていた目を開くと──、
「皇龍……様」
妹の見合い相手──皇龍清明が花宵を抱き、後方に退く。
「……」
皇龍清明は淡々とした、感情なんて何もないような眼差しで花宵を見下ろしていた。
◇
加寿の運転で港付近印刷所に急行すると、美浜の娘の背中が視界にうつった。
私は車から降り即座に抜刀し、鎺に手をかけるが──、
「こ、皇龍様⁉」
熾窪が驚く。私たちの前には美浜の娘──いや美浜の娘に擬態しているらしい猫又がいるが、その遥か前方、しかも上空には皇龍清明様がお姉様をお姫様抱っこして浮いていた。
何⁉
何この状況。
いいやとりあえず猫又は殺そう。状況把握は後。私は鎺に手をかけ、回転させる。お姉様の前に猫又なんか出しちゃいけないんだから。こんなクソキショサイコシリアルキラーもどきなんて。お姉様に会う前に死んだと思ってたら復活しやがって。今度こそ私が殺す。
しかし──、
「退け」
一歩踏み出そうとした瞬間目の前に結界が張られた。皇龍清明様の技だ。透明な壁のようになっていてびくともしない。三百年前のお姉様が使ってた技。ようするにパクリ。なんで私に結界貼られなきゃいけないんだ。猫又をぶっ殺さなきゃいけないのに。というかお姉様に結界をはってくれないだろうか。なんで私が、しかも振り向けば加寿と熾窪と閉じ込められてるし。勘弁してくれと一歩前に進むが──、
「足吹き飛ぶぞ」
熾窪が私を押さえる。今日ずっと私を押さえてくる。視線を向ければ熾窪の札が結界に触れた瞬間焼け焦げた。怖すぎるだろ。何。守りの結界ではなく封じようとしてない?
「皇龍……なんでお前がこんな街中にいるにゃあ」
猫又は皇龍清明様を睨みつける。
「貴様こそ。何故この者を狙った」
皇龍清明様は怒りを滲ませ呟く。その瞬間、猫又の身体が地面に伏した。霊力かなにかで、猫又の身体を無理やり地面に押さえつけているらしい。
「ボクは別にその女じゃなくてもいいにゃあ……‼ でも美浜麗子が水社とかいう男の傍に近づく女が許せないって昼間に近づいたから……‼ その女になにかあるにゃあ?」
猫又はお姉様を見る。
皇龍清明様は「くだらん」と切り捨てる。
「この者に対して、霊力も異能も無さそうな女のわりにと貴様が言ったのだ。ゆえに何故狙うのか、この者に何かあるのかと問うたまでのこと」
え。
猫又そんなこと言ってたの?
聞いてないんですけど。え、殺す。殺します。文脈上、前後の言語を知らないけど侮辱が予想されるので。死刑です。死刑。
「お前……どっから聞いてたにゃ……⁉」
猫又が戸惑っている。この様子だと、猫又とお姉様とお喋りをしていたところをしばらく皇龍清明様が見ていて、多分だけど猫又が襲い掛かったかしたところで、助けに入った?。
よく見れば猫又と皇龍清明様の間には何か鋭い爪で煉瓦道をえぐった傷跡がある。
「あやかしの耳障りな声はよく響く」
皇龍清明様は返すがそんな設定ない。
皇龍清明様の耳にそんな設定ない。




