加寿の異能(大嘘)
加寿は瞬く間に男たちを制圧し始めた。男たちは手練れ感満載、どう見ても素人ではなさそうだが、誰も加寿の動きについていけない。
「あいつの異能は転移だ。瞬間移動のほうが分かりやすいか」
熾窪が私を一瞥してから加寿に視線を向ける。白昼堂々嘘つくなと心の中で詰った。
加寿の異能は瞬間移動ではない。高速移動だ。あいつは異能を発動すると、人の何倍も速く動ける。普通の人間が各駅停車の列車とすれば、あいつは通勤快速。そのためワープしているように見えて、普通に泥臭くそこまでジャンプしたり走ったりしているのだ。しかしそれを、あたかもワープしているかのように語るし、こうして熾窪に語らせる。本当は熾窪も加寿の異能について正確に把握しているが、二人の所属は帝直系、色んな権限が特別に許されているドラマならメインで扱われるような部署なので、異能について色々嘘をついているのだ。異能役所バレ問題については、簡単な話、異能は戸籍情報に近い扱いを受け他人が勝手に知ることが出来ない。なにかの容疑者にでもならない限り、個人の異能を許可なく把握できるのは役所、軍の人事や偉い人しかいない。嘘つき放題である。
とはいえ、水社一心や熾窪など、家が有名だと普通にバレてるし、隠しようがないので熾窪の異能は発火丸出しという状態だ。ゆえに野狐禅が水社一心を無効化したように対策がされやすい。
加寿の異能も、ワープなら神出鬼没扱いだが、高速移動が分かれば色々対策される。たとえば加寿に侵入されたくない場所に有刺鉄線を這わせるとか。そういうことで熾窪は私に嘘をついているし、加寿をフォローしているわけで。
「危ない。こっち来る」
私は熾窪に肩を掴まれどかされた。
「熾窪さんも手伝ってくださいよ」
「お前の蒔いた種だろ。俺は民間人どうこうしたくないんだよ、お前と違って」
そう、先ほどから熾窪は男たちと戦ってない。全部加寿だ。私を守っているポージングをしているが、見ていて分かる。戦いに参加する気がまるでない。私を押さえることで戦いを免除しているようだった。私普通に戦いたいんですけど。強くなりたいので。それに、お姉様のいるこの世界を綺麗にしなければいけないから。
「別に俺だって殴りたくて殴ってるわけじゃないですよ。撫でるほうが好きだし。俺も玄人派ですし? ハハ」
加寿は男たちを殴り、蹴り飛ばしながら熾窪に反論する。
「随分と楽しそうだけどな」
「楽しくないですよ。仕事だからやってるだけ。出世の為です。出世して、いい時計買って、車も欲しいし、いい女いい店連れてって良い酒飲みたいじゃないですか」
加寿はどこまでも自分の欲望に忠実だ。男たちを倒しきると、こちらに転移してくる。
「あー終わった。どう末理さん。腕っぷしにはちょっと自信あるけど、そういう男はお嫌いです?」
腕っぷし枠は酒呑童子がいるし、私は別に男に強さも屈強さも求めてない。結婚したところで相手が365日ずっと元気なはずがないし、倒れて医者に運ぶにせよ、鍛え抜かれたデカい男は重いし運べない。私は会釈で軽く流した。
「めちゃめちゃ適当……ふふ、末理さんどういう男好きなんです? 全然想像つかない。帝都の女ってどんな男に興味が出るんです?」
加寿はこちらにお構いなしに話しかけてくる。異能があるから喋れないというのに。空気が読めないというより、とりあえず自分は自分のまま突っ込んで、相手の出方をうかがう、実戦的なコミュニケーションだ。
「無駄口喋らない男だろ、帝都は。背中で語る、硬派な」
熾窪が間に入る。それはお前の好みだろと心の中でツッコんだ。
「俺別に軟派なつもりないですけどね。惚れた女には一途ですよ」
加寿がこちらに振り返る。てめえの投げたパスでーすと私は熾窪を見た。
「はぁ……帝都は、地域部に連絡か。軍でそういうのもやってるんだもんな」
熾窪はため息をつきながら、札を取り出し一枚放り投げた。札から網が現れ、漁師が魚を取るみたいに男たちを拘束する。
以前酒呑童子が海老の漁に行っていた。あいつは雑魚……一般市民への攻撃を好まないけど、あいつが猫又みたいな凶暴性を持っていたら相当危なかったのでは。
それとも強さを突き詰めるとメンタルがああなる……?
いやでも皇龍清明様は、あんなカラッと感はない。根暗、根明のタイプがあり根暗が強さを得ると皇龍清明様のようになり、根明が強さを得ると酒呑童子に進化する……?
考えながら、私は男たちの乗っていた車に向かう。しかし、車の中に荷物が無かった。




