ダイナミック連帯責任
私は港付近の大通りを駆け抜けていた。声のする方向はこっちだったはず……と辺りを見渡せば、貨物船の傍で男が「助けてくれ」と叫ぶ。声からしてさっきの悲鳴の発信源だ。
「強盗だ‼ 皇都からの荷物だってのに‼」
「命助かっただけいいじゃねえか」
「あいつ、あいつだ‼」
荷運びをしていた男たちが口々に話す。遠くには強盗の車が見える。走って追いつく距離ではない。ここから逃げるとするなら、ルートはなんとなく察しが付く。屋根を伝って──、
「末理さん‼ 乗って‼」
振り向けば車に乗った加寿が助手席を開ける。助手席が嫌だなんて言う暇はない。すぐに乗り込むと車が発進した。思い切り身体が後ろに持って行かれる。運転が荒すぎる。
「枯賀ベルトしろ殺されるぞ」
後ろから熾窪が私を押さえシートベルトをつけさせようとする。私も慌てて装着した。
「じゃあもっと速度出しますよ」
加寿が鼻をかき、一気にアクセルを踏み込む。ブォンとカーレースでも聞かないような音が響いた後、加寿の車は車道を突き進む。
「さっき応援要請が入って強盗があったってことなんですけど、末理さんが追ってるのもそれであってます?」
加寿が訊ねる。私は熾窪に振り向いてから頷いた。
「そうだって‼」
「皇都からの荷物って怖くないですか? あやかしが出てきたってのも皇都の荷物ですよね」
「お前喋りながら運転するのやめてくれ‼ 頼む‼ しゃべりながら出していい速度じゃねえんだってば‼」
「でもこういう時じゃないと町をこんな風に走れないじゃないですか、ハハ。しかも帝都だし、歴史的なあれこれ煩くないじゃないですか。人さえ轢かなきゃいいだけなんで」
加寿は笑う。カーチェイスが見せ所の洋画みたいな速度を出しながら。
千年桜は恋と咲くにおいて、運転シーンなんて無かった。それこそ熾窪の外車趣味が設定集で開示される程度。だって皇龍清明様は車の運転なんてしないから。あの人の移動はほぼ転移だし、徒歩で移動する場合はお姉様関連。お姉様が景色が見たいと散歩に付き合ったり、自分の転移にお姉様を巻き込んで具合を悪くさせてしまったら……と移動に制限をかけていたから。
やがて強盗の車両が見えてきた。加寿はさらにアクセルを踏み込み、後ろから小突くように追突していく。しかし人間と人間の小競り合いではなく強盗する様な車両と軍用車の小競り合いなので規模が規模だ。車体はぐわんぐわん揺れ、身体が浮きシートベルトの重要性を毎秒実感する。
「加寿‼」
「なんです」
「お前、考えろよ‼」
「考えてますよ。軍用車なら壊れても俺痛くもなんともないし、これ帝都の車だし」
「お前なあ」
「後ろから気に入らない車どつける仕事なんて中々ないじゃないですか。飲まなくてよかった」
加寿は楽しそうだった。
「俺は飲ませておけばよかったって後悔してるよ」
「でもこれ軍用車ですよ。外車じゃない。ハンドルは右」
「人命より大事な趣味なんてあるか! おい加寿‼ 前‼」
T字路にさしかかった。このままだと通行人諸共目の前の壁に突っ込む。
「分かってますって」
加寿は一旦追突を緩めたかと思えば、強盗の車に併走し、そのまま思い切りハンドルを切った。無理やり自分の車で強盗の車を右折させるようにして車を乱暴にぶつけ続ける。相手の車の助手席と運転席が見えたが、まだ二十代くらいの若い男たちだった。明確にこちらの車に怯えている。私も同じ気持ちだ。加寿が怖い。運転が滅茶苦茶。和風シンデレラの運転じゃないもんこれ。海外に出るべき。海外の峠だから許される運転を国内の繁華街でするな以外の感情が無い。
「まーだ持ちこたえるか、いい加減面倒だな」
相手の車は持ち直し、そのまま走り抜けていく。車で追いかけていていけば、いつしか車は倉庫街に入った。一つの大きな倉庫に入ったかと思えば、加寿はそのまま突っ込んでいき、ぎゅるぎゅる音を立てて弧を描きながら停車した。
怖かった。
死んじゃうかと思った。
しかし食後だというのに全く酔わない。運転は荒いが上手いのかもしれない。前世から運転をしたことがないので、運転の良しあしが全く分からないけど。
車から降りると、強盗車両のほうからも人が降りてきた。六人、二十代くらいの背広を着た若者だ。身ぎれいな格好をしているが、どことなくサイズが合ってない。盗品だろう。
そして──、
「仕組まれたか、罠か、走ってる間に助け求めたかどっちだろ」
加寿が辺りを見渡す。
江戸時代の野盗みたいな恰好や、古のヤクザ映画に出てきそうな男たちが私たちの車を囲みはじめていた。
「どう考えても助け求めの増援だろ。あんな追いまわしたら。追跡の札張るとかで十分だった」
熾窪が大きくため息を吐く。
「その間に被害者増えたら、ねえ。それで軍に反感もたれて革命だ~ってそこら辺に爆弾仕込まれたら連鎖が」
加寿は指をくるくる回した。
「お前らこんなところまで追っかけてきてただで済むと思うなよ」
男たちが武器を構える。
「ただで済ましてほしいんですけど、投降してくれれば、刑期も短く済みますし」
加寿は丸腰で男たちに近づいていく。
「ふざけんじゃねえぞ」
男の一人が手をかざした。どうやら念動力系の異能らしい。近くの角材を加寿に向けて放つが──、
「異能使いましたねえ。じゃあいいや」
男から5メートルほど離れていた加寿が、男の目の前に現れそのまま回し蹴りを放つ。
「異能使ったら、民間人じゃなくて異能を用いた犯罪者になる。ようするに、異能を使っての制圧が、アリ。なお、連帯責任」
加寿が笑みを浮かべた。




