町中華
「ネギ抜き、水餃子ぁー」
店員がドン、と水餃子だけを置き、こちらの顔を見る。すぐに私が加寿を差すと、店員は加寿の前にネギ抜きラーメンを置いた。どんぶりに細めの麺、スープは醤油で、チャーシューが二枚にメンマ、海苔、薄切りのなるとが並んでいる。水餃子は丸い皿に大ぶりの真ん中がぷっくり丸く膨らんだ餃子がドカッと盛られていた。円筒型の箸入れをそのまま加寿と熾窪に向けると、二人はそれぞれ箸を手に持つ。
「餃子、牛バラ、サンマ―」
今度はこんがりと裏に焼き目のついた餃子の皿、角切りの牛肉と青菜が盛られたご飯、そして五目あんかけののった醤油ラーメンが届いた。最後に店員が「半チャー」とテーブルのすみに半炒飯を置き、レンゲを三人分、それぞれの料理に沿えた。
「注文以上ですかー」
「大丈夫です。ありがとうございまーす」
加寿のにこやかな笑みに対し店員は何の反応も示さない。
創作において容姿端麗設定を持つ男キャラの半数は「俺って顔がいいからさ、顔目当てで女が寄ってきて困るんですよ」ムーヴをし、自分の顔に興味が無い人間を好む。暗天妖王もそれ。しかし加寿はそれらと一線を画している。
自分が容姿がいい。女好き。ラッキー。
これしかない。顔目当てだろうとこれは俺の顔ですという意識があり、顔目当てで寄ってくる女を避けたりしない。しかし自分の顔に靡かない女に対して、顔に興味持たれずとも男なら口説き落とせの世界にいるので、口数が増え接触を増やそうとする。最悪である。捕まってほしい。本当に。
「末理さんのそれ美味しそうですね、そっちにすればよかったかな」
加寿が声をかけてくる。私は会釈で返しながら水を飲む。
私が選んだのは五目麺だ。醤油ラーメンの上にうずらの卵、キクラゲ、タケノコ、豚肉や青梗菜のあんかけが乗っている。
「ほら、同じなるとですかね、これ」
加寿は自分の半炒飯を見せてきた。炒飯の具はネギ、卵、細かく切ったなると、もしくはかまぼこに、刻んだ赤いハムが入っている。
加寿のすべての言葉を会釈で返し、私はスープを一口飲む。加寿は自分の醤油ラーメンに箸を差し込み豪快に麺をすすった。一回ですすりきれる量ではなく、二、三追加ですすり、口いっぱいに頬張っている。すする音立てるなんて……と言い出しそうなのに一口も大きい。咀嚼し終えるとチャーシューを一枚箸で巻き取り食べ、レンゲを使わず丼を持ち上げスープを飲む。
一方の熾窪は何もつけず水餃子を食べていた。加寿の食べ方に見入っている。
「お前いつもおいしそうに食べるよな」
ぼそっと熾窪が呟く。
「美味しいですからね」
加寿がなんてことないように返し、ゴキュゴキュと酒類CMみたいに水を飲んだ。その後箸休めのように餃子にがっついた後、「麦酒が欲しい、仕事じゃなきゃ」と呟いた。麦酒というのはビールである。つまり酒。
「末理さん餃子食べます? 俺ら臭いですよ。熾窪さん水餃子だし」
加寿が餃子を進めてくる。するとカウンターで食べていた七十代くらいのスープ浸し炒飯おじさんが「ない‼」と声をかけてきた。
「ここの水餃子臭くなるもん入ってないよ」
「そうなんすか?」
加寿が目を丸くする。スープ浸し炒飯おじさんは「そうだよ」と身体をこちらに向けた。
「白菜と豚だけ‼ ねっ」
おじさんが店主に話しかける。店主は無言でうなずいた。
「だからバレない。へへ。兄ちゃんいい食いっぷりだねえ」
「ありがとうございまーす」
おじさんと加寿は謎の意思疎通を行い、各々また食に集中する。熾窪が「いるか……?」と水餃子を差し出してきた。相手が真原さんなら少食だし手伝う意味で貰うけど、熾窪はよく分からないので首を横に振る。
「ん」
熾窪は水餃子を食べるのをやめ、牛バラかけご飯を食べ始めた。口髭顎髭とワイルド感万歳なのに、食べ方は綺麗だった。水社一心の食べ方と同じ。雅さを感じさせる。横でとうとうレンゲを使い炒飯をかき込むように食べる加寿と大違いだ。
「末理さんも結構食べ方豪快じゃないですか」
はい。
私は五目麺をすする。管理局で食事する時は、真原さんがゆっくりなのもあるし、福野さんが大量に食べるのもあって、周りに調子を合わせている。雰囲気的に富山局長のペースも独自というより私と同じく周りに合わせたものと疑惑があり、一年経過しつつある現在、色濃い。
「はねたり気にしないんですか?」
加寿が聞いてくるが、気にしない。はねたら洗えばいいし。お姉様に関わる服なら別だけど、軍服は返り血もつくし。白い軍服の加寿たちのほうが駄目だろと思うけど、二人とも軍服の上掛けは脱いで白シャツ腕まくり状態で食べていた。
「俺末理さんみたいな食べ方する女性、結構好きですよ」
食べ方も。
要するにおしとやかに食べてる女も好き、ということだ。加寿はこういう男である。
食べ終えると、早々に会計を済ませ店を出た。理由はそういう店だから。
「それでさっきの話に戻すんですけど、一緒に調査──」
加寿が私の隣に並んだ次の瞬間、
「ギャアアアアアアアアアアア」
悲鳴が響き、私は反射的に駆け出した。




