水社家の意思疎通
「あの、ミヤシロ神は……以前より御神威を高めておられるようですが……」
ミヤシロ様との挨拶が済み、さっさと退散すべく水社パパの元に向かえば、熾窪がぎゅっと手のひらを握りしめ、水社パパの前に立った。
御神威。神様のパワーのことだ。高齢者とか神事の関係者は神様のパワーについてそう呼ぶ。大事な儀礼の時にミヤシロ様パワーなんて言えないから。
そしてこういう時、水社一心がいれば「なんだパワーって」って言うだろうが、いない。
「少し、お時間を頂きますよ。よいのですか?」
水社パパは熾窪に問う。どうやら熾窪の心の動きを色で視ているようだが、よく分からない。水社一心と私の会話も他人からこう見えているんだろうか。いや、管理局の面々を見るに、もう少し分かっているような。「あいつのせいで私の考え筒抜けじゃねえかよ」と思うときだってあるし。
「……お茶の時間にしようか」
水社パパはバケツを片手にゆっくりと母屋に向かう。
水社パパと水社一心、何が違うのか観察して、気付いた。
水社一心は私の脳内モノローグを読み上げている。たとえば私が馬鹿にしやがってと言えば、バカにしやがってってなんだよ、と復唱するのだ。
もしかしてあいつは……私の考えが管理局の面々に分かるよう、わざと大きな声で私の言葉を復唱することもあったのでは……。
思えばあいつは、一番最初の頃、私の心についてお姉様に暴露していた。その後も、管理局のみんなと初めて戦闘──この刀を発見した後、自分の力を使って、私を誰かと繋げようとしていた。
でも、それだけじゃなく、普段の会話から……第三者がいる時、あいつは私の心の中を復唱するように話す。二人きりの時は、静かに、ただ私の言葉を聞いて返事しているだけだけど。
あれは、テンションの違いではなく、第三者に私の意図を知らせるため……?
全て言葉にしなくても、どういう時にどういう考えを持つかの傾向を知れば、少し想像できるから。その想像が決めつけを助長する最悪もあれど、嫌なことがあったとき、疑いも減るから。
能力の利用による人間関係の介入なんて、一番嫌いなタイプの癖に。
あいつはいつもいつも。目の前にいればうるさいし、目の前にいなくてもこうして、、心にちらつく。俯いていれば「どうしました?」と加寿が近づいてきた。他人なら配慮と思うけど、こいつはコミックスの巻末特典原作者書き下ろしSSにてこんな胸中を吐露している。
──優しさは必需品。群れで過ごす以上は他人を思いやる。それが当たり前。男なら誰かに力を貸せるくらいの余裕を持つべきだ。そのために無理をするのが男であって、優しいと言われてもそこまで嬉しくない。でも、彼女からの言葉は違った。
国語ならこの「彼女」は誰でしょうと問題が出るだろう。
正解は、お姉様だ。お姉様に近づく以上は、この答えをお姉様以外にすることを許していいはずがない。お姉様に近づくことも許さないけれど。
とりあえず加寿はこんな風に、どうありたいかで優しさを演出しているのだ。なので優しいと言われても、そこまで嬉しくならない。相手が助かったこと、役に立ったことではなく、自分の評価ポイントが上がった程度の認識になるから。そして評価が上がっても心の底にある欲求は色々違うっぽいので、こいつ視点の話は「酒と女」という古の男らしさの塊と空虚だった。
ちなみに皇龍清明様はお姉様に優しくすることを、「これは自分の欲なのでは」「本当は彼女に優しくしたい存在がいるのに自分が邪魔しているのでは」と一晩どころか延々と悩むけれど、こいつは冒頭、欲一本である。
漫画でよくある、なにかの大きな話が終わった後、これから新キャラが出てくる予告系場面、加寿は上裸で煙草を吸っていた。そう、こいつは喫煙者である。それを巧妙に香水で誤魔化しており、なんでかコイツと暗天妖王のラインナップで香水出てたし。
井戸にでも落としたら楽しいだろうなと考えて、やめた。この位置だと祠越しにミヤシロ様に聞かれかねないし、水社パパに振り返られたら加寿への憎悪がバレてしまうから。
通されたのは水社家の客間だった。純然たる茶室である。間取りは八畳。町内会長や近所の人がやってくるときは、人数問わず十五~二十畳くらいの大宴会場ほどの広さの和室に通して話をする。水社パパ的にこの二人は警戒対象ということだ。
「楽にしてください。今日は儀礼的な面通しでもないでしょう」
水社パパが皇都の二人に笑みを浮かべた。今私は水社パパの隣に座っている。末席に行こうとしたら「末理ちゃんはここでいいよ、水社家だからね」の一言で上席行きになった。勘弁してほしい。枯賀末理の末は末席の末なのに。
そして皇都の二人は足を崩さない。正座だった。
「ミヤシロ神について、おっしゃるとおり、力は年々増している。だからといって、皇都に協力できるという姿勢を取るつもりは、水社家としても、私個人としてもありません」
水社パパはきっぱりと告げた。
「その前提の上でなら、ミヤシロ神についてお答えしますけど」
そして二人を見据える。沈黙を破ったのは熾窪だった。
「あの、ミヤシロ神の御神威は何かきっかけが……」
「元は、彼女の霊力です。ミヤシロ神とお会いして、なにやら彼女に期待を向けているとお見受けしますが、彼女の異能は神に関わる類のものではない。皇都退妖軍にお務めならば、彼女の異能については、よくお分かりでしょうが」
「……っ」
熾窪は言葉を詰まらせた。ミヤシロサマとの会話により、熾窪は私に何かを期待していた……?




