水の最高神ミヤシロサマ 後編
普段デフォルメマスコットみたいな喋り方なのにドスがきいている。
怒り方が水社一心と一緒じゃん。というか水社パパと一緒だ。血筋じゃん。水社ママが枯賀の正妻気取りに怒っていた時は「ギエエエエエ」みたいな、人間が発したとは思えない音を発していたけど、水社パパは静かに怒っていたし、水社一心もその系譜。白目をむいてやり過ごしていればミヤシロ様は私を見据えた後、熾窪と加寿に視線を向けた。二人はまた頭を下げている。ブチギレミヤシロ様に怯えているようだ。
「皇都の者たちには何もせん。面をあげ、それはもうせんでよい。そもそも我は、そこまでの敬意は求めてない。我はあくまで、人々が水と共に生きる道を、守るのみ」
ということは、ミヤシロ様の自認は水回り。
皇都の認識としては水の最高神。
勘違いもののテンプレみたいだなと思いつつ、ミヤシロ様弱体のロジックについて、あ、と気付いた。
皇都からのミヤシロ様への敬意は──おそらく絶大だろう。だって、真原さんや伊能局長の話だと、皇都の人間の印象は「人を見下しがち」になる。
一方で数年前のミヤシロ様は弱っていた。ゆえに霊力の供給を欲していたわけだが……神の存続する力に承認が伴うのだとしたら。「人々からの承認」をその神そのものが認識するのが大事なのかもしれない。
皇都からの承認を知らなかったゆえに、ミヤシロ様は弱っていた……?
帝都の人間はどちらかといえば、水=水道だし。水道局の人間は水を信仰するよりも、各々が責任を持ち仕事に取り組む意識のほうがあるだろうし。
「神は人が作り出すようなものだからな。人の祈りから生まれる。人が欲さなければ、神をいないことにもできうる」
ミヤシロ様が呟く。
確かに「神」という概念を認識しているから、いいことがあったら神様のおかげ、変なことをしたら罰当たりという選択肢が発生するけど、神を知らなければ、関連付けない。
「人の祈りから、神が」
熾窪の表情が険しくなる。加寿が何かを悟るような視線を送った後、「そろそろ、この辺で……お邪魔してはならないので」と、口を開いた。
退散する気らしい。早く帰ってほしい。お姉様が帰って来る前に帰ってほしい。特に加寿。
ほいじゃ、ミヤシロ様、また軍が休みになったら。
私がサッサと出ようとすると──、
「貴様、末理や、貴様はそこまで待て、こちらに寄れ」
ミヤシロ様に呼び止められた。でも皇都の二人待たせてるしな、と悩めば「待たせるなミヤシロ様だぞ」とハードボイルド気取り熾窪が注意してきた。
ミヤシロ様に近づけば、「年末年始は言えなかったんだがな……」と小学生が後々自分の悪事を自白するみたいに切り出した。
「なんだその例えは……まあ、よい、貴様の姉のことなんだが、なあ……色々強くてなあ、こう、たまには、休めないのか、軍は、無いのか……有給休暇」
皇都で敬われている神様の口から有給休暇なんて単語出てくると思わなかった。どうするんだろう。皇都はミヤシロ様を激ヤバ神様として信仰しているっぽいけど。ミヤシロ様が有休を取らせろと言えば皇都から帝都に圧がかかってホイホイ有給休暇取れるのでは。
「げきやば、ああ、すごいみたいな意味の言葉か」
ミヤシロ様は納得する。私の心を読む弊害で水社一心と同じく言語汚染が発生している。神格が落ちてしまう。どうしよう。熾窪と加寿により皇都の人間たちにチクられたら。斬首されそう。
「乱暴な言葉で神格は落ちぬ。貴様の想像通り、霊力や人々の承認だ。おかげさまで、我は多くの承認が発生している。まんじゅうにもなったしな」
ミヤシロ様の承認の象徴、饅頭なんだ。福野さんが嬉しそうに「食べられる可愛い」だと言って喜んでいたし、真原さんに食べる前から「べろべろ舐めるんやったら自分の部屋でやれや」と言って注意していたので、質さえ問わなければ承認そのものは沢山されている。
「ああ……足が短いのを好むあの男か……」
ミヤシロ様はゲンナリしていた。
足が短いことを気にしてるのか福野さんが直球で言えば怖いのか分からない。でもミヤシロ様は足が短いというよりギリギリちょこんと生えてる程度なので、短いどころではない……。
「ある。足、我ある」
ミヤシロ様が睨んできた。神に睨まれてる。
そういえば言い忘れたんですけど、貴方のお宅のお坊に恋した殺人鬼があやかしと合体しているので、気を付けておいてください。
私は 猫又と美浜の娘のキメラあやかしについて知らせる。
あれは暗天妖王案件なのかも分からないが、猫又と美浜の娘の合体だけは確かだ。美浜の娘は水社一心に会うために人を殺していたので、一応、警戒は必要だろう。
「あやかしは、問題ない、おそらく」
ミヤシロ様は複雑そうにつぶやく。
何?
何かあった?
「あやかしは問題ない。我が、なんとかする……までもないだろうが、い、い、いるから……貴様の姉も無事であろう。はー」
ミヤシロ様はため息を吐いた。心なしかしおしおだ。水が足りてないのかな。
「花壇の花じゃないぞ」
ミヤシロ様はムッとする。
元気ならいいです。ただ危険があるのは確かなので、軍でも気を付けますが、警戒はよろしくお願いします……と私は祠を出ていく。
「貴様も元気でいろ……我は、貴様に救われた面がある。貴様の行いは、複雑なところがある……我を救ったということは、水社の地と救ったも同然だ。貴様が切り開いた道を、今、水社は歩んでいる」
ミヤシロ様の言葉に、私は片手だけ上げて返事をした。
「……」
熾窪が複雑そうに私を見つめていることに、気付かないふりをしながら。




